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私は、結婚する前に、一つの恋を終わらせた。

 

友人たちもほとんど知らない、秘密の恋。

 

私自身、リアルに体験しながら、どこか空想じみていると感じていた。

 

だけど、これは本当の恋。ビターエンドに向かう、一つの恋。

 

※登場人物やストーリーは全てフィクションです。

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haruくんに、本当のことを伝えよう。



もう、嘘を重ねるのは、終わりにしよう。



そう思って、スマホを手に取った。












どう伝えたら良いのだろう。



何度も何度も文章を訂正しながら、


これまでのharuくんへの思いや、


私の今を、綴ろうとした。


考えてばかりで入力が進まなくて、


気付いたら、涙がポロポロと溢れていた。


思い返すほどに、


文字を打つ指は、動かなくなっていった。















そんな時、一通のメールが届いた。


仕事先の人からの、予想もしないメール。










「utaさん、貴女の会社、大丈夫ですか?
 役員の◯◯さん、事業で重大なミスをしています。」










その役員とは、16歳年上の元彼だ。


交際している頃に、彼の力添えで、私は会社の代表になった。


彼は、私の会社の役員として、事業を上手くコントロールしてくれていた。


haruくんへの気持ちを優先して、


男女の関係は解消したけれど、仕事は別物。


冷静に話し合いを重ねた結果、


別れたあとも、元彼は、そのまま役員として続投してくれていた。


その元彼が、何をしたの...?


詳しく事情を聞いてみると、


元彼は、私に無断でとある仕事を受注して、


私の知らない人に、私の会社の名刺を持たせ、


挙句に、その人は重大なミスを犯してしまい、


どこかに雲隠れしたとのことだった。









haruくんのことどころではない。


まずは、ご迷惑をおかけした方々に、


代表として謝罪に行かねばならない。


元彼にも連絡を取ろうとしたが、


まさかの、音信不通...










青天の霹靂に、私は心身ともに追い詰められた。


だけど、こんなところで負けていられない。


私の大切な会社を、守る以外に道はない。


そう決めて、できることは何でもした。


迷惑をかけた方々の中には、


まさか30代の女が代表として謝罪に来るとは思っていなかったようで、


絶句した後、元彼に呆れ、だけど私に容赦なく怒鳴り続けた人もいた。


自分の不甲斐なさに歯を食いしばりながら、


私は絶対に泣かない、と決めていた。


幸い、周りの方々も協力してくれたり、


法的なプロも、沢山のアドバイスをくれた。












私は、まだ無知で、若かった。


リスク回避の術を知らなすぎた。


元彼がしたこととはいえ、


それも、私の責任なのだ。


今となってはそう思うけれど、


その時は、ただ、前に進むことしか頭になかった。









暗闇の中を手探りで進むような日々だったけれど、


夫は、毎日のように傍で励ましてくれた。


「大丈夫。utaは強いし、何も間違ってない。
 雨風凌げる家もあるし、家族もいるんだから、一人じゃない。
 平和に朝を迎えられることを、まずは大切に思おうよ。」


私は、この時の夫の支えを、生涯忘れないだろう。











そんな中、haruくんが全国ツアーで私の街にも来ることになった。



「utaさん、久しぶりにこの街でライブだよ。」


「haruくん、おかえりなさい。
 だけど私、仕事で色々あって、今は音楽に身を委ねる気持ちになれなくて。ごめんね。」



haruくんは、心配して何度か連絡をくれた。


事情を少しだけ伝えたら、


元彼に対して、心底怒りを露わにしてくれた。


だけど、haruくんには私のことを心配している余裕なんてない。


沢山のファンに音を届けて、常に全力投球してほしい。


そう思って、私は彼に、

「大丈夫だよ。もうすぐ解決するから。
 私、強いからほんとに大丈夫!」

とだけ返信した。









haruくんに伝えたいことがあったのに、


伝えようとしたのに、


先延ばしになったまま、1年が経過した。


そして私は、暗闇を抜け出して、


音信不通だった元彼に潔く会社を売却し、


また私だけの会社を立ち上げた。


それが功を奏して、忙しいながらも充実した日々を送れるようになってきた。










そして、気持ちを落ち着けて、


再びharuくんへ、本当のことを伝えようとスマホを手にした。







【続く】