インタビュー記事の前に、まず、是非聴いていただきたい。
冬の街/たなかけん
http://tanakaken.net/discography/
聴くと、あたたかく懐かしい気持ちになる。
クリスマスが近づく時期、夕暮れの街に灯りがともっていくのを見て、
わくわくしながら、家族の待つ家に帰るような。
歌声がないのに不思議と心に残る曲だ。
「『心に残る音楽』と言ってもらえると嬉しい」たなかさんが嬉しそうに笑う。
「ジャンルは『インストゥルメンタル』という、ヴォーカルの無い楽器だけの音楽。
色んなジャンルがある中で、
『自分の強みを生かし、自分でできる範囲でどうやったらお客さんから良いと思ってもらえるか』を考えた結果行き着いたのがこのスタイル。
歌詞はないけれど、『歌』のつもりで演奏している。
聞き流されてしまうトラックやバックミュージックにはしたくない」とのこと。
とは言え、たなかさんいわく、「自分の曲を食べ物でたとえると『絶対しょうゆで食え!』といった種類のものではない。何で食べてもいい。聴いている人それぞれが心地よく、素材を活かして飽きないようにということを大事にして曲をつくっている。」そうだ。
曲のタイトルも「さようなら、さようなら」「いっしょに帰ろう」「前髪ゆれて」と
聴き手の想像力がかきたてられるようなタイトルが並ぶ。
「タイトルには気を遣う。できるだけシンプルで、なるべく共有できるようにしている」とのこと。
【日本とアメリカのライブの違い】
Q.たなかけんさんの音楽=聴き手を大切にするという印象を受けました。
そういったスタイルになった背景があるのでしょうか?
「しいていうなら、2007年に、百景(=たなかさんが所属しているバンド)でアメリカの※SXSW(サウスバイサウスト)に出たこと。
日本でもまだまだ知られていないような自分たちのバンドに対して、
『ネットで知って、あなたたちを観たくて来たのよ!』というおばあちゃんがいたりする。老若男女問わず、同じように音楽を楽しんで繋がることができるのがすごい。
演奏が終わってたくさんの人から歓喜の声と拍手を受けた瞬間、『これでいいんだ、自分のやってきたことは間違ってなかったんだ』と実感した。」
そのあたりから「もっとお客さんと感動をわかちあいたい。その為にはどうやったら、お客さんにより楽しんでもらえるだろうか」と考えるようになったそうだ。
※SXSW=アメリカ、テキサス州オースティンで行われている世界最大の音楽コンベンション(=見本市)。ダウンタウンを中心に街全体が会場となる。出演アーティストは2000を超える。
【生まれ故郷の、「何もなさ加減」が好き】
Q.たなかさんの曲を聴いていると何とも言い難い懐かしい気持ちになりますが、
曲をつくる上で思い出す原風景はあるのでしょうか?
「生まれ育ったところ(三重県鈴鹿市)の影響はあるかもね。『犬と堤防』という曲のタイトルは、飼っていた犬と毎日堤防へ散歩していたことがモチーフになっているよ」とたなかさん。
「人はそのとき自分が興味のあるものしか見えないからね。中学生・高校生の頃は、興味のあった音楽や服は都会に出ないと買えなかったから、ここには何もないと感じてた。でも、大人になって大阪や東京の暮らしを経て帰ってみると、『自然がいっぱいで、ゆったりとした時間、のどかな風景が広がっていること』『夕焼けの中、川沿いの堤防を犬と散歩したこと』『誰もいないからこそ、公園でとても響く虫の声』、色んなものがあったんだって気づく。
時が経てば人は変わるから、同じ場所でも見えるものが変わってくるんだよね」
【感情のコントロール】
Q.感受性豊かで、こんなに心に染み入る曲を創るたなかさん。
演奏前や日常生活での気持ちの切り替えはどうされているのでしょうか?
「自分の一番好きな状態、落ち着く状態を知っておくことが大切。
そうすれば、100%のチカラが出せるから。
感情は、自分で選びとっているだけ。普段から心の中にゴミがたまっていかないように心がけている。例えば緊張してしまった時は、『今、緊張して手が震えているなぁ』『今、緊張して呼吸が浅いなぁ』など、客観的に自分の状態を感じることで冷静になれる。今に集中すること。そうして初めてお客さんの顔が見えて、良い演奏ができるしね」
【歌とピクニックに出るきっかけ】
Q.歌とピクニックに出演されるきっかけは、歌ピク運営スタッフ「タナカユキエさん」からのお誘いだそう。タナカさんはどんな方ですか?
「あいつ?…失礼、ユキエさんやね」。少し顔をいたずらに歪め、笑う。
思い出に残っているエピソードは、仲間と一緒にお寿司を食べに行ったときに、「私のヤツ、食べたでしょ!!」と詰められたことだそうだ。どうやら、憎まれ口を叩き合える仲のようだ。
タナカユキエさんが企画しているイベントに呼ばれて以来10年近くのお付き合いだそう。
「バンドを結成して間もなかった頃に誘ってもらえて嬉しかった」と顔をほころばせる。「音楽を通じて場や想いを共有できていたら、何年空いていても友達でいられる。久しぶりに会ったとしても『元気してる?』と損得感情なしで会える」。そのうちの一人だそうだ。音楽を通じてこんなにも深く繋がっていられる仲間なんて素敵だ。
【若者に伝えてあげたいこと】
Q.歌とピクニックのイベントは、若い方もたくさん来場されます。
たなかさんが20代の頃の自分に何か言ってあげられるとしたら、何を伝えてあげたいですか?
「歌ピクに来ていただいた人には、僕のライブも含めてそれぞれ楽しんでもらえたら嬉しいですね。
20代の頃の自分に対しては、『それでいい』と思います。
その時その時で一生懸命やっていれば、今すぐでなくても必ずどこか別のところで活かされるから。それが自分の個性や強み、武器にもなる。
全ての出来事がなかったら今の自分はないから、どんなことも、失敗や間違いでは決してない」。
音楽から人生哲学まで、幅広いお話を伺えた。
こちらの質問に最後まで1つ1つ真剣に考え抜いて答えて下さる姿が印象的でした。「何をやっていても最後は人間力な気がする。音楽には、その人の生き様が出ると思っています」。
そんな言葉が心に残っている。
では最後に、もう一度、聴いてみましょう
http://tanakaken.net/discography/
インタビュー前と後に聴くのとで、きっと、曲の味わいが違うはず。
聴き手を何より大切に考えるたなかけんさんの音楽。
歌とピクニック会場で、たなかさんとどのような場を共有できるか、今から楽しみだ。
**** たなかけん ************************************************
http://tanakaken.net/
三重県鈴鹿市生まれ。
ギターやドラムのフレーズを重ねてインストゥルメンタル楽曲を演奏する音楽家。
2003年、インストゥルメンタルバンド・百景を結成。アメリカの音楽フェスSXSWや台湾の野外フェスへの出場、また、テレビ番組「世界の車窓から」のBGMに楽曲が使われるなど活動の場を全国に広げる。2011年、ソロ・ファーストアルバム『赤のブレンド』をリリース。バンドではドラマーだが、ソロではギターを演奏する。神戸北野異人館スターバックスコーヒーをはじめ全国各地のカフェ、ライブハウスのイベントに出演している。