「5時から7時のクレオ」という映画が近所の映画館でやっていたので見た。「ミシェル・ルグランの音楽とヌーヴェルバーグ特集」の一貫だったが、大学で二年前に受けた映画論の講義の内容はすっかり頭から抜けてしまっていたし、ミシェル・ルグランの名前も知らなかったので、ただ単に暇だったのと綺麗なタイトルに惹かれたというだけで見に行った。
1961年公開の白黒映画で、内容はまあ午後のロードショー的なメロドラマで、パリで暮らす美しい女性歌手クレオの二時間スケールのちょっとした憂鬱とロマンス(本編では最後の三十分は描かれていないが)が美しい音楽と歌に乗せて描かれていた。当時を舞台にしているから映ってるものを見るだけでも楽しめた。(主人公が大真面目にぶら下がり健康法やってるのは笑った)
まず面白かったのは物語がリアルタイムで映されていることだった。劇場前のポスターでタイトルを見たときからそれの意味することが気になってはいたのだが、文字通りある夏至の日のヒロイン・クレオの生活を5時から順に追っていくものだった。わかりやすく言えば、時間のジャンプを伴う場面移動が無くて、映画館で流れる時間=劇中の時間なのだった。街を歩いたり、タクシーに乗ったりする時間もしっかり物語の一部になっていた。(さらに本編の各チャプターに「○時●分から○時△分の××(視点が寄り添う登場人物の名前)」のようにタイトルが付いていて時刻が更新されていくので、リアルタイムで描かれているとしっかり約束されていた。)
別にこれは珍しいことでもないだろうし演出として興味深いというわけではなく、今になって白黒の頃の映画を見る上で、このリアルタイム性が約束されているおかげでたとえば大通りから路地に入ってアパートの部屋にはいるまでの時間とか、同行者が郵便物を受け取るのを待っている時間とか、そういう間の時間から向こう側の生活のサイズ感が得られるのが良かった。もっと言えば、60年前の遠い街での時間の流れ方がすごく身近に感じられることに謎の安心感を覚えた。何となくで映画館に入ったけど、図らずもこういう感覚をよく味わえる撮りかたの作品を見られてラッキーだった。
もう一つ面白かったのは白黒であるというまさにその点で、たとえば主人公は美しいブロンド(カツラだけど)でオシャレな服を着ている筈だけど実際の色が全くわからないし、当時の町並みが沢山映るけど建物が何色をしているのかも全く解らなくて、「夏至の日の五時から七時」の日差しの感じも見て取れなかった。(調べたらだいたい五時前に日の出、九時前に日の入りだったらしい。作中は六時過ぎてもめっちゃ明るかった。)
上映中、ずっと頭の中で必死に復元を試みていた。当時のポスターとか風景とかを予習していけば色を復元できたただろうかとか、色の明るさから夕日の赤色を感じ取れないかなとか考えていた。でも、これら全部が色の輝度という点では白黒スケールでも感じられるし(むしろ抽出されてる)輪郭もしっかり見えるから美しさを伝える一つのフォーマットとして結構アリだなとは思った。
そういうわけで、今白黒映画をみるってのも面白いもんだなと思った。(一億回くらい言われてそうだけど。)
あとはぜんぜん関係ないけど、タイトルは「5時から7時」で二時間ぶん、上映時間は90分くらいで、物語はリアルタイムで進行するわけだから当然七時までは行かずに結局6時半のクレオで終わるんだけど、これは決して語呂の要請とかではなくて、一時間ちょっとの物語で出会うロマンスの相手方との閉幕後の30分が示唆されてると気づいて、ちょっとにやけた。以上