その夜は稀に見る熱帯夜で夜中にも関わらず目が覚めた。
火照った身体とカラカラの喉が本能から水を欲している。
「なんなんや今日は、どう考えてもおかしいだろ。センラに昼間会った時はこんなこと言ってなかったぞ。センラウェザーニュースどうなってんだよ。はぁ・・・冷蔵庫に何かあったか・・・?」
一人暮らしの俺には深夜だろうと物音を立てても誰にも迷惑をかけない特権がある。最高だ。昨日も深夜まで録音してたもんね。
冷蔵庫までの短い道のりにも関わらずダラダラとぼやきながら向かう。
「さてさて、冷蔵庫ちゃ~ん冷たい飲み物出してくださいね~。・・・・・はぁ!?ないやんけ!!!!あっちゃ~!今日のお昼飲んじゃったからかぁ~!・・・・・言っても仕方ない。水道水で我慢するかぁ!」
俺は切り替えが早い。人間後悔したって過去には戻れない。なら前を見たほうが得をするものなのだ。
冷蔵庫ちゃんは俺の期待には応えてくれなかったが今はそれどころではない。
すがる思いで台所の蛇口を捻る。・・・なのに水が出てこない。
「なんでだよ!!なんで出てこないんだよ!!ホワァイ!!オカシイダロ!!・・あっ!!」
大事なことを忘れていた。
「水道代払ってねぇ~!!!!・・・はぁ・・・近くの公園行くかぁ・・・」
何度も言うが俺は切り替えが早い。そして行動も早いのだ。
自宅から1番近い公園までやってきた。公園の中央にある水飲み場。勿論こんな深夜に誰もいない。どう考えても不審者だ。
「やっと水が飲める!!飲めるぞぅ!!とっなりっ!とっなり!あっほの!あっほの!どっちゃねーん!どっちゃねーん♪」
嬉しさのあまり得意の小躍りを披露する、観客はいない。だがどう見てもやばい人間だ。だが俺は前向きだから気にしない。
ひとしきり小躍り無観客試合をした後にようやく蛇口の前に立つ。
「頼むぞ。俺は小躍りのせいもあって喉がカラカラだ。むしろ人間極限まで追い込んだ後のご褒美は天にも登る快感を感じる。今俺はお前にその期待に応えてもらおうと思う。いくぞ!!!!」
勢いよく蛇口を捻る。が、水は出てこない。
「はぁあああああああああああ!!!???ふっざけんなや!!!!!!なぜだ!?この公園も水道代を払っていないのか!!!???」
いやそんなわけない。公園はこの街の自治体が管理している。だとしたら考えられることは一つ。
「嘘だろ・・・ありえない・・・この街の水道が・・・止まっている・・・」
考えたくもない事実がそこにはあった。絶対に負けられない戦いが6月19日にある。ちゃんと国民として見ろよ。
俺は絶望した。
「なんでだよ・・・俺らは ・・・日本はどうなっちまうんだ・・・ !?・・・これは・・・」
絶望の淵で地面を見ていると、水溜りがあった。昨日は雨が降っていた。よくよく見ると水溜りが山ほどある。
「選択肢は・・・ねぇよなぁ。泥水でも水は水だよなぁ。へへ・・・」
覚悟は決まっている。俺は四つん這いになって水溜りに顔を近づけた。その時1人の男の影が俺の視界に入ってきた。
「あれあれー?こんな時間に何してんのー?やばい人にしか見えへんやろって坂田~w」
センラだ。しかも片手に水を持っている。
「センラ・・・お前が熱帯のことを教えてくれないから俺は今喉が乾いて死にそうなんだ。持っているその水を少し分けてくれないか」
力を振り絞って懇願する。共に歩んできたメンバー、だが礼儀は欠かさない。
「え、、ウェザーニュースのせいにすんの?ありえへんわぁwありえへんw 天気予報当たらんかったら訴訟起こすの?wちゃうやろー?w あくまで参考程度にしてもらわななぁ。で、見たところ水欲しすぎて水溜りの水飲もうとしてるやん!!やばいwwww傑作やwwwwほな・・・飲みぃやwwww」
センラは満面の笑みで泥水を踏んだ。泥水が俺の顔にかかる。
「まっ・・こんな日もあるよねぇ。また明日よろしくな~」
そう言ってセンラは立ち去っていった。
俺は絶望した。
俺はこの日本が許せなくなった。