バーイグザム準備期間中は、当然というかなんというか、予備校の教材以外はほとんど読まなかったのですが、この「アメリカ憲法入門(第5版)」(松井茂記/有斐閣)だけは読みました。


アメリカ憲法(連邦憲法)の勉強を始めて驚いたのが、必ずと言ってよいほど州と連邦との緊張関係を中心として、話が進んでいくことです。これは、立法であれば連邦議会の州際通商規制権、司法であれば連邦裁判所の法域といったような形で表れ、人権論は「その次」に論じられる印象があります。
それこそが連邦憲法の、イヤ、アメリカ合衆国という「連邦」の存在意義、ということなのでしょうが、憲法の役割は一にも二にも人権保障であり、これをまっとうするための制度として統治機構がある、という日本の憲法学会で支配的な(と思われる)考え方と、(両国憲法の歴史的関係を前提とすると)たいへん興味深い違いであると思われます。
この本もまさにそういった構成で、前半は連邦政府の統治機構、構造についてであり、種々のケースブックの議論の集大成のような、わかりやすい説明となっています。


他方、後半の人権論については、やや判例の羅列の感がなきにしもあらずですが、これはアメリカ憲法学における人権理論が一筋縄ではいかないからであって、これをもって著者を責めるのは酷というものでありましょう。
アメリカの人権論は、なんというか、たとえば修正第5条のデュープロセス条項が初期には奴隷のはく奪(奴隷の人権のはく奪ではない)を違憲とする根拠として使われたように、その時々における裁判官の創造の賜物のようなところがあります。なので、明快な思想をもって説明するのはなかなか困難であるし、また、そういった試みはどこかでほころびが出てくる、ということなのだろうと思います。


最近6版まで出たようなので、私なぞが言うまでもなく定評ある本なのだろうと思いますが、LLMやバーの準備のために、また日本国憲法の理解を深めるためにも、よい書物であると思います。