Miller先生のCommercial Code(UCC)の授業は、始めのうちこそふんふんと聞いていたのですが、話が難しくなるにつれ、あまりの早さと分量の多さ(case bookに昔の有斐閣判例六法サイズのcode bookを併用)に圧倒され、だんだんついていけなくなってきました。この先生は、"That's the whole point! That's it!"が口ぐせで、このセリフが出たところを必死に書き取っているのですが、最近はそれもあまりに連発するのでよくわからなくなってくる始末。
この授業は幸か不幸か休講が多く(ご高齢のせいか、あまり体調がよろしくないようです)、その埋め合わせの授業が春休み明けから大量に予定されているので、そこでどうにか追い付こうと画策しています。そのために、この春休みはいろいろな資料をぼちぼち読んでいました。
なお、この前フリで明らかなように、私はUCCの勉強を始めたばかりで専門家でもなんでもないので、今から書くことの正確性についてはいつも以上にアヤシイと思っておいてください。
さて、UCCとは統一商事法典と訳されるように、アメリカにおける商取引の基本法なのですが、その第9章はSecured Transectionsと題され、担保取引を扱っています。ここで念頭に置かれているのは主として動産、証券、債権などで、これを担保に取る方法というか、法律用語で言うところの対抗力を具備する方法としては、原則としては日本でもおなじみのUCCファイリング、つまり登録によることとされています。
もう少し詳しく言うと、登録はfinancing statementというものを各州の登録機関に提出することによって行われます。financing statementは契約書より簡素なもので(書式がある)、①債務者の名前、②担保権者の名前、③担保物の表示の記載が必要とされています。逆に言うと、被担保債権等の記載は必要ないわけで、ほんとに簡素なものなのですが、これは、登録は担保物の調査者に対して手がかりを与えることを目的としており、調査者がそれ以上の情報を欲する場合は債務者に問い合わせるべきである、という考え方に基づいています。言わば債務者を公示機関とすることによって、登録機関・手続をミニマムにし、もって大量の登録事務の迅速かつ低廉な処理を達成しているわけで、その意味で、債務者の名前というのは非常に重要な記載事項ということができます。
ところが。
506条に、こんなことが書いてあります。
(a) [Minor errors and omissions.] A financing statement substantially satisfying the requirements of this part is effective, even if it has minor errors or omissions, unless the errors or omissions make the financing statement seriously misleading.
はあ。"substantially"、"minor"、"seriously"と抽象表現の大安売りですが、要は軽微な誤りはオッケーということですね。
(b) [Financing statement seriously misleading.] Except as otherwise provided in subsection (c), a financing statement that fails sufficiently to provide the name of the debtor in accordance with Section 9- 503(a) is seriously misleading.
これは上で言ったように債務者の名前は重要ということですね。でも、(c)ってなんだろう?
(c) [Financing statement not seriously misleading.] If a search of the records of the filing office under the debtor's correct name, using the filing office's standard search logic, if any, would disclose a financing statement that fails sufficiently to provide the name of the debtor in accordance with Section 9- 503(a), the name provided does not make the financing statement seriously misleading.
・・・"standard search logic"ってなんじゃ???
コメント(UCCには各条に起草者の解説が付いている)にも詳しい説明はありませんが、調べてみると、どうやらコンピューターの検索システムの、自動的に誤りを修正する機能のことのようです。ホラ、グーグルとかで"MacDonald"って入力するとハンバーガーの"McDonald"が出てくるじゃないですか。ああいうもんらしいっす。
つまり、コンピューターで検索することを完全に前提としたうえで、その恩恵として生じる誤記の許容範囲まで、条文レベルで規定しているわけですね。こういう法令って、日本ではなかなか珍しいんじゃないでしょうか。
要は、「わかればいい」ということですが、はてさて、これをアメリカならではの実質、合理性を重んじた制度とみるか、それともアメリカではその程度のミスは日常茶飯事なのでいちいち問題にしてたらキリがないという現実の反映みるかは意見の分かれるところでしょうが、アメリカに住んでの実感としては、後者のように思えてなりません。。。
日本では、登記と言えば、司法書士とか登記官とかいった有能な人たちが提出書類を微に入り細に入り確認したうえで行うものであって、誤りはあってはならない、ありえない、というのが一般的な認識かと思いますが、ここアメリカでは、誤りはあることが前提かのような仕組みとなっているのが、興味深いところです。