これまでわが法務部では、異動に際しては、個人のパソコンにあるメールやドラフトなどの電子データは、一式サーバに入れ、後の担当者が検索、利用できるようにしておくのが慣例になっていました。私も常々、「読まれて困るメール、見られて困る物はなにもないので、私のパソコンとデスクの中は自由にあさってよし。ただし、第三者との間の秘密保持契約に反しない範囲で(笑)。」と公言してきたので、そうするつもりでした。
しかし、よく考えてみると、それほど単純な話ではないことに気づきました。
日本の契約には契約書に書かれないことがいっぱいあるので、法務担当者としては、交渉・締結当時の記録をできるだけ残しておきたい、という欲求が本能的にあります。後に紛争になったときに、ここはこういう趣旨だった、あの時ああ言ったじゃないか、ということが言えなくなるのは、かなりツラいのです。
また、これとは別次元の話もあります。会社の意思決定過程においては、100%法務の言うとおりになるなんてことはまれで、多かれ少なかれ実施部門では法務の意見と違うことが行われるのが現実なのですが、そのあげくに、なんでこんな契約したんだ、法務はなにをしてたんだ、と法務が責任を問われることがあったりします(しかも、怒鳴りこんでくるのが、当の実施部門の新しい部門長だったりする。。。)。そういう場面にそなえて記録を残しておきたいというのは、法務担当者の素直な気持ちです。
もちろん会社としては、不利な記録が残るのはリスクでもあるわけで、特にアメリカの訴訟ではディスカバリー手続の関係で致命的なことになりかねません。
そして、法務の反対を押し切って実施したというのは、不利な記録であることは間違いないでしょう。
が、かといって記録を捨ててしまうと法務担当者個人のミスだったということになりかねず、非常に苦しいものがあります。要は一種の利益相反なのです。
会社によっては、このあたりのことが文書管理規程で細かく決まっているところもあるのでしょうが、利益相反的な話は決まりを作ったからといって解決できるものでもないように思います。法務担当者の待遇とか身分保障とかを、内部統制の実効性という観点からもう少し考えてもらいたいものです。
結論的には、法務の使命はあくまで会社の利益の最大化という建前を貫くとすれば、ぜんぶ捨てちゃったほうがよいということになるのかもしれません。でもそれって、今までの私の仕事ってその程度のもんだったんだって言われてるようで、なんだかとっても悲しい気持にもなるのですが。。。