ノスタルジア 夏の情景 35 ミゼット | 文化の海をのろのろと進む

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 うしずのです。

 

 今年最初の「ノスタルジア 夏の情景」です。

 

 

登場人物

 信一・・・天乃信一。この物語の主人公中学1年生。野球部員。
 
 葉月・・・高梨葉月。この物語のヒロイン。信一の幼なじみ。

 

 ・・・橋本武。信一の親友。野球部員。

  清人・・・橋本清人。信一の親友武の弟。いまだ迷子のまま。

 

 

 

 

前回のあらすじ

 

 信一、葉月、武の三人は迷子になった清人を探していました。清人がよく電車を見に行く踏切に行ってみようと話している時に、近くを通りがかった人が「踏切で事故があったらしい」と話しているのを聞き三人は急いで踏切へと向かいました。

 

 

 

 

ノスタルジア 夏の情景 35 ミゼット

 

 

 信一達三人は急いで事故があったという踏切まで走った。野球部で普段から鍛えられている信一と武は、浴衣姿に下駄を履いた葉月をぐんぐんと引き離した。踏切近くの電灯の下に人だかり出来ているのを認めると武は一層スピードを上げた。信一でさえ付いて行くのが大変だった。

 二人が人だかりをかき分けて行くと踏切の端辺りで三輪自動車のミゼットが横倒しになっているのが見えた。

 

 

 武は近くにいたおじさんに話しかけた。

「あのケガ人とかは?」

「ケガ人?いねえよ。このミゼットがよ、あっちから曲がって来てバランスを崩してコケたらしいわ。周りに車も人もいねかったし、運転手も無事だ。ミゼットはよ、三輪だからコケやすいんだよな」

 おじさんの言葉にホッとする武と信一だった。

 

 

「男衆、手ぇ貸してくれ。こいつ立たせるぞ」

 近くにいた人の声かけで何人かの男性が集まり、信一と武も加わって横転したミゼットを元通りにした。

 三輪自動車があっけなく元の体勢に戻った所で葉月が息を切らせながら到着した。信一は葉月にさっきおじさんから聞いた話を伝えた。

 

 

「良かった。ケガした人はいないのね」そう言うと葉月は肩で息をしながらも笑顔になった。「・・・それにしても二人とも速いよ。・・・私、足痛くなっちゃった」

 葉月は右足の下駄を脱いで片足立ちになった。

「大丈夫か?」と信一は声をかけた。

 

 

「足の指の皮がちょっとむけちゃった」葉月はそう言った後、よろめいて信一の腕に掴まった。

 信一は顔がカッと熱くなった。

「あ、ごめん。ごめん」葉月も頬を上気させ、慌てて信一の腕を放した。

 信一は人目が気になって後ろを振り向いた。後ろにいた武は信一と葉月を見ないようにしているのか二人を通り越した先の方に視線を向けていた。

 

 

 その後、信一たちはミゼットの積み荷の材木などを周りの人達と拾ってあげた。

「おありがとうごぜえやす。皆さん、お世話になりやした」ミゼットの運転手の中年男性はそう言って何度も頭を下げた。

 無事ミゼットが走り去った後、武が信一に耳打ちしてきた。

「しんちゃん、まずいよ。さっき葉月がしんちゃんに掴まった時さ、北川達がこっち見てたよ」

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。