ノスタルジア 夏の情景 33 こわい先生 | 文化の海をのろのろと進む

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 うしずのです。

 

 では隔週連載のノスタルジアです。

 

 

登場人物

 信一・・・天乃信一。この物語の主人公中学1年生。野球部員。
 
 葉月・・・高梨葉月。この物語のヒロイン。信一の幼なじみ。

  清人・・・橋本清人。信一の親友武の弟。今は迷子になっています。

 

 

 

前回のあらすじ

 

 迷子になった清人を探す信一は露店の並ぶ大通りで、葉月と合流します。清人の事がなければと思いながら葉月と並んで歩く信一でした。しかし、その姿を野球部の嫌な先輩に見られてしまいます。そして「おい星乃」と背後から声をかけられたのでした。

 

 

 

ノスタルジア 夏の情景 33 こわい先生

 

 

 

「おい、星乃」

 そう背後から声をかけられた信一は棒を飲み込んだように背筋がまっすぐになった。その声の主が野球部の顧問で、地元のツッパリ達もその名前を聞いただけで震え上がると噂される大河原先生だとすぐに分かったからだ。

「ハイッ」と答えた信一は綺麗に回れ右をして大河原先生の方を向くと「こんばんは」と頭を下げた。

 

 

「星乃。デートか?一年生のくせに不純異性交友とは、なまいきだな」

 大河原先生は笑いながらそう言ってきたが、その笑顔が怖かった。一部生徒からオニガワラ先生と影で言われている位、大河原先生は見た目も怖かったのだ。

「いいえ。そういうのでは無いです」

 信一は真っ赤になってかぶりを振った。

「こ、こんばんわ。大河原先生」

 葉月も緊張しながら挨拶をした。

「おお。高梨だったか。馬子にも衣装だな」

 

 

 葉月はかぶりを振ると意を決した様に真っ直ぐな目をして「先生、そんな事より手伝って頂きたい事があるんです」と言った。

「なんだ?」

「橋本君の弟の清人君が迷子になっちゃったんです。一緒に探して下さい」

「分かった。橋本の弟なら何度か野球部の練習を見に来ていたから知っている。今日はどんな格好してるんだ」

「オバQのTシャツに半ズボン。白っぽい運動靴を履いています」

「おば…何だ?」

 大河原先生は毛虫の様な太い眉毛を八の字にして聞いた。

「オバQです。オバケのQ太郎。マンガです」

「マンガか・・・・。まあそれはいい。迷子の放送はしてもらったか」

「あ、まだです。祭りの実行委員の人に頼んでみます」

「そうしなさい」

 

 

 大河原先生相手に、はきはきと受け答えする葉月を、信一は呆気にとられながら見ていた。大河原先生は理不尽な事で怒りはしないが、とにかく厳しい指導をされるため多くの生徒から恐れられていた。だから生徒の方から積極的に先生に話しかける事は少なくとも信一は見た事が無かったのだ。

「俺の他に何人か見回りしている先生がいるから声をかけてみる」

 そう言うと大河原先生は風の様に去って行った。

 

 

「葉月凄いな。大河原先生とあんなにどうどうと話すなんて」

「私だって緊張したよ。でもキヨちゃんの事が心配だし」

 そう言った葉月はホッとした様な、疲れた様な顔をしていた。

 葉月は人のためだったら強くなれる人なんだと信一は思った。

 

 

つづく

 

 

 

 

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。