ノスタルジア夏の情景 31 迷子 | 文化の海をのろのろと進む

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 うしずのです。

 

 ぎりぎり間に合いました。ノスタルジアです。

 

 

登場人物

 信一・・・この物語の主人公中学1年生。

 

 葉月・・・信一の幼なじみ。

 

 武・・・信一の親友。

 清人・・・武の弟。

 

 

物語の中の専門用語

 お証し台・・・川を綺麗にしている証し(ゴミ)を龍に見せるための台。 

 おがんば様・・・祭りの中心人物。

 龍神輿・・・龍の姿を模した神輿。

 

 

 

前回までのあらすじ

 

 龍栄川祭りで最も重要な儀式であるお確かめ巡りが始まりました。そんな中、龍神輿を担ぐ信一の父が足を挫くアクシデントに見舞われます。

 見物客の多くが動揺する中、清人が信一の父を必死で応援したのをきっかけに、お確かめ巡りは声援と拍手に包まれ前代未聞の盛り上がりの中、儀式を終えたのでした。

 

 

 

ノスタルジア夏の情景 31 迷子

 

 

「龍神様のお納め、写真に撮ってこい」

 父にそう言われ、信一は神社へと向かった。

 おがんば様に見送られながら龍神輿が龍の巣に帰って行くのを信一は写真に収めた。

 

 

 一仕事終えホッとした気持ちで神社から出た信一の元に、困った様な顔をして葉月が近づいてきた。

「しんちゃん、キヨちゃんを見かけなかった?」

 キヨちゃんとは武の弟の清人の事だ。

「お証し台の近くで見たあと、見かけてないけど・・・」

「迷子になっちゃったみたいなの。今、みんなで手分けして探してて」

「俺も探すよ」

「うん。お願い。タケちゃんは家に帰っていないか見てくるって」

「じゃあ俺、近くの公園に行ってみるよ」

「私は学校の方を見てくるね。お証し台の所で落ち合いましょう」

「分かった」

 信一と葉月はそれぞれの方向へ歩き出した。

 

 

 清人は何かに気を取られると周りが見えなくなってしまう傾向があった。信一と武と清人の三人で線路沿いの道を歩いていた時、電車が好きな清人は走ってくる電車を見ようと左右を確認せずに道を横断して車に轢かれかけた事があった。そんな事もあったので信一は心配でならなかった。

 

 

 龍棲神社から歩いて5分程の公園で信一は清人の姿を探した。西の端に夕焼けが滲みだした空の下、公園には浴衣姿の女の子や男の子、ランニングに半ズボン姿の男の子ら沢山の子供がいて、屋台で買ってもらった水ヨーヨーやスーパーボールで遊んでいた。しかし、そこに清人の姿は無かった。

 

 

 信一は大通りを通って清人を探しながら、お証し台へ行くことにした。

 大通りは賑わっていた。宙に吊られた赤や黄や緑の提灯に灯りがともり、その下に建ち並ぶ露店の中は裸電球が煌々と光っていた。この町にこんなに人がいたのかと思える程、大勢の人がいた。人々のざわめきを割って露店の店員の「いらっしゃい。いらっしゃい」と呼び込みの声が飛んでいた。お好み焼きの露店からソースの焼ける香りが漂ってきて信一の腹が鳴った。

 

 

 信一は、沢山の人の中に、オバケのQ太郎のTシャツを着て半ズボンを履いた清人を探して歩いた。

 清人は見当たらなかったが、信一は人ごみの中に葉月の姿を見つけた。彼女も清人を探しているのだろう。キョロキョロしながら人をよけたり、ぶつかったりしながら歩いていた。不安げな表情をした横顔がやけに綺麗に見えた。

 

 

 

 

 

 最後まで読んで下さり、ありがとうございました。