先日、新鎌ヶ谷駅近くの歩道を歩いていたところ前方でティッシュか何かを配布

していた。どうやら振り込め詐欺防止の啓発のようだ。その前を通る時に私にも

ティッシュが差し出された。それはいいのだが、「お父さんもどうですか」との

声かけに戸惑い、というか正直多少ムッとして手を出さなかった。するとさらに

「お父さん、どうぞ」と繰り返すので、私は「そういう呼び方嫌いです」と返した。

それでもティッシュは差し出されたままだったので受け取ったけれど、その場を

離れた背後で笑い声が聞こえてきた。そばにいた仲間と今のやり取りを笑っていると

しか思えないタイミングだったので、自分が笑われたように感じて不愉快だった。

 

 以前一人で温泉旅館に宿泊した時、大浴場で話しかけてきた人がいた。

「旦那さん、今日は家族サービスですか」

私「いえ」

「じゃあ、奥さんと夫婦水入らずってやつですか」

私「いえ」

(小指を立てて)「じゃあ、これですか」

という具合にしつこかったので相手にせず早々に浴場を引き上げた。

「一人で温泉旅館に泊まったらおかしいですか」と口まで出かかったことを覚えて

いる。

 

 以前にも書いた気がするが、私は他人から「旦那さん」「お父さん」などと

呼びかけられるのが大嫌いなのである。新聞でそういう内容の投書を見たことが

あるので、私だけの感じ方ではないだろう。

 女性の中にも商店街などで「奥さん」「お母さん」と呼びかけられるのを快く

思っていない人が少なからずいるのではないだろうか。

 

 そういう言葉を使う人は、深く考えていないにしても無意識のうちに人はやがて

結婚して子を持ち孫を持つことが当たり前という考えが染みついているのだろう。

 世の中には独身主義者・結婚したくて出来なかった人・子を持つのを諦めざるを

得なかった人・さらにはLGBTQなど様々な事情を抱えた人がいる。それを無理やり

モデル世帯のような役割に当て嵌めるのは失礼だと思う。傷つく人だっているかも

しれない。

 

 ではどう呼べばいいか。それも難しいものである。

「店員さん」「車掌さん」「お客さん」「患者さん」などと呼べる場合は問題ない。

問題は行きずりの人に呼び掛ける場合。英語のYouに相当するのは「あなた」だろう

けれど、日常会話の中で使うにはいささか唐突な感が否めない。日本語には他に

適切な二人称が無いのか、良い考えは浮かばなかった。結局のところ「すみません、

ちょっとお聞きしたいのですが」という具合に二人称を使わない話し方をするのが

無難なようである。