私が、夢野久作で最も衝撃を受けたのは、
やはりその代表作である『ドグラマグラ』
によってです。
その中の、
胎児は胎児の夢によって進化する
という文言に触れた後、ずっと頭に残って
いました。
その意味はまさにそのままで、胎児が卵
の状態から細胞の分割を繰り返して母胎
の中で進化成長をとげる。
その進化を促すものは、胎児が見る夢
なのです。
それは生物がアメーバなどの単細胞で
あるときからの記憶や遺伝情報を夢と
してみるわけです。
細胞分割を繰り返すたびに生物として
より複雑になっていく。
胎児の成長をたどると、その形態は
たとえば魚類や両生類、あるいはは虫類
とそっくりなのです。それは、胎児の
成長が生物の進化になぞらえて起こるからです。
では、なぜ進化するか、あるいは進化
はどのようにして起こるか。
それは、居心地の悪い状況や場所にあって、
その中でも生存できるように自らを環境に
対応しやすいように変化させるからです。
簡単に言えば、進化には苦しみが伴うのです。
胎児は、人類が生物としてたどった過程を
自らの成長として追体験するわけです。
そのため、胎児の見る夢はきわめて苦しく、
難儀に満ちたものであることは容易に想像
できます。
他方、この胎児の夢は、実は人類すべてが
もとは胎児であったが故に、誰もが共有する
ものなのです。
人の潜在意識の波動はその点に立脚するのです。
小説「死後の恋」も、この潜在意識の観点から
見返すと興味深いものなのです。