2杯目の珈琲をグラスに注いだ。
夏の匂いを感じてるでしょ。
いつからそこにいたのか、珈琲女が私に向かって言ってくれた気がした。
確かに感じてる夏の気配を。
汗、肉欲、絡まる髪の束、
湿った空気に飛び交う嘆きと怒号、
憔悴した肉体とその裏に潜む喜び。
そんな堪らなく好きな事を思いながらも、
私の夢は今年の夏も何も叶わない、
私は終わってると1人心の中だけで呟き、
適当な玩具を選んだ。
(好きな玩具にも関わらず女の心はそこに有らずだった。
ポチっと共にパシャリとなる。
締め切った暗い部屋の中、
女と私の二人でこの画像だけを眺めていると、、)←珈琲女の声。
私がこの玩具と出逢ったのは今から丁度5年前の夏だった。
場所は富士急ハイランド。
月日は光陰矢の如し流れて仕舞ったけれど、
この玩具、いわゆるフチ子と言う名のこの独身女性、会社勤めのOLと私は、
富士急ハイランドと言う絶叫マシーンが沢山ある、
太陽の下で、偶々出逢い、
私は、ひとかたならぬ興味を、
このたった1人の女に抱かずにはいられなくなって仕舞った気がする。
同性であり同年代位と言うのも合わさって、
私のフチ子に対する興味や好奇心は、
珈琲を飲む度、日に日に増し、
そして益々可愛いくてどうしようもない存在となり、ひとりでに膨れあがっていって仕舞った気がする。
手が届く値段だけど、
別の異を唱えると、
決して手が届かない近くて遠い真逆な存在。
(女が私の珈琲を飲む。で再開)←珈琲女の声。
私の知るフチ子と言う女は、
こんなにも息苦しくも不自由な世の中を、
いつも自由自在に、いつも平気な顔して悠々と平然としな顔しながら泳ぎ回っている。
今日は一つのお盆に2つの珈琲を乗せているようだけれど。。。
我が身が危険に晒されようと、
2つの珈琲を何が何でも守ろうとするその姿勢は、
私からすれば似て非なる感動(共通点)があり、
それに近い驚きが、暗闇にいきなり現れた能面のように、ぼっと心の中に火を宿してくれる。
これは嘘ではない。
そして理性とか知識とか、誰かの言葉を使って、
選んでる訳でもない。
私は頭が良くない。学生時代、いくら頑張っても普通より下だった。
そして特殊な部活をやっていたせいかいつも独りぼっちだった。
誉められることもなければ、ずっと目立たたず、縮み怯え塞ぎがちな10代だった。
それに極度の貧血持ち主と低血圧。
(女が私の珈琲を飲む。ふざけんな!
で!?!)←珈琲女の声。
フチ子は会社勤めのOLさんで私とは同等ではないし、
玩具だから言うまでもなく同質でもない。
ただ、
独りぼっちな女と言う事を除いては、
何もかもが違う訳だけれど、
私はフチ子だけには時間と金銭と心を可能な限り費やして良いとまで思っている。
フチ子が嫌でなければ、
私がフチ子の生きる世界に、私が彼女の中に入っていきたい。
頭おかしいんじゃないの?
と思われるかもしれないけれど、
それでも良い。誰に迷惑をかける訳でもないし、
孤独よりも遥かに良い。
私がこの子を支え、
少しでも彼女が楽になれるよう、
少しでも表舞台で活躍出来るよう、
私が彼女の事をそっと後ろから見守っていきたい。
私の知るこの子はもっと自由に、
もっと天真爛漫に羽ばたける力と才がきっと何処かにある。
私はこれから先益々歳をとってゆく。
しかしフチ子はずっと若い。
だから、、、、
(ここで女の声が途切れる。
カップの底にほんの少し珈琲が残っているせいで、私はここから離れられずにいる。)
完
(書く女シリーズ)
(珈琲女シリーズ)
(フチ子シリーズ)


