4月16日金曜日。
花と金で今日は花金かぁ、と一人呟いてみたら、
案の定何も起きなかった。
しかし、淡き光立つにわか雨と始まる松任谷由実の春よ、来い、ではないが、
淡き期待を抱き、待っている自分が今日もいた。
その気持ちは日増しに膨らみ、自分が何者であったかも忘れそうになる。
失われたものは戻らない。
拾われ、届き、保管される遺失物センターに、
それがまだあるとすれば、
あの頃のように駅で待ち合わせをし、
手と手を握り見つめあい、
笑いあって暖かい時間を過ごせる事が出来るのかなぁ、と、そんなおとぎ話のような、夢みたいな事を考えている。
花も金も春も遺失物センターも私には無縁だった。
そしてフチ子も↓

こちらは多分直立フチ子。
朝っぱらから直立だなんて、
元気で大した女だなぁ、よきよき、私も嬉しと思った次の瞬間だった。
何処の誰かも解らない女が私の前に現れ、
そのまま椅子に座るといきなり前屈みになる。
僅かな沈黙後、パシャリ。そしてパシャリ。
写真を撮ったのだと思った。
又かと思い、白けた音だとも今日は思った。
私の大好きな珈琲が、
私の視界から予想外に消えたからだった。
微かな憤りを感じつつも今日は諦めの方が強い。
そんな時は眼を閉じ嗅覚を働かせよう。
いつもの幻聴だった。
今朝も変わらずモーニング珈琲をたいた。
空のマグカップに珈琲を注ぎ、
その後ガラスのキャニスターに収まっている玩具フチ子一体を適当に掴む。
選ぶと言うより掴むと言う言葉の方が当てはまると思いながらも、何故これまで選ぶと言っていたのかと新たな疑問が芽生える。
とりあえず今はどうでも良い。
それよりも写真。しかしスマートホンがない。
私のスマートホンは何処かなぁと記憶を辿っていたら、
突としてお台所のレンジ上に悲しげに置いてある映像が浮かぶ。
誰の為に、何の為に一体写真を撮るのかと疑問に想いながらも、私は微かに鈍さが残る腰をあげ、渋々スマートホンをとりに行く事にしたのだった。
そして幻聴はその時から始まった。
声の主は珈琲女だ。
私の夢は今この瞬間から愛に変わりましたと言う、
わたしが作り出した幻の女。
とりあえず珈琲女に教えてあげたい。
このフチ子は直立フチ子でないよと。
その代わりと言っては何だが、
私に愛を教えて欲しいと。
この子の本当の名は逆さ直立フチ子。
それにこの子は元気な女子ではない。
一見出たがりで負けん気も強く一本縄でいかないような所はあるけれど、
自分の事となると、とんでもない事をやらかしてしまう孤独な女で、
本当は純粋無垢で直向きで人一倍努力も苦労も夢見ることも多かったフチ子なの。
心が折れ、挫けそうになっても、
体力だけはあるから今あんな場所であんな事が出来るけれど、
それはいつまでも続かない、、、、、。
今は、、
頭空っぽにして何も考えない努力に、精をだしているだけ。
そして珈琲女さん、
私のせいで大好きなあなたを失う事はやっぱりできない。
独りぼっち、苦汁を飲むのは私一人で充分だ。
完
(珈琲女シリーズ)
(書く女シリーズ)
(友情出演フチ子)
