朝、夢うつつの状態で目覚めた女は、
とりあえず、珈琲をいれた。
居間の床にちょこんと座り、
出来立て熱々の珈琲を飲もうと、
カップの縁に自分の唇を近づけようとした時、
その声は、何の前触れもなく甦ってきたのだった。
カップの中の珈琲みたいな、、真っ暗な闇の中で聞いたあの声だ。。
『写メ、、、、。写メ好きでしょ?。。』
『うん、好き。大好き。。』
カップの握りを握り締めたまま、
女は導かれるまま、惹かれるままに呟いていた。
この時ばかりは、
女の思考は全ての活動を一旦は止めて仕舞ったが、
次の瞬間には、
決して聞こえる筈のない心臓の音だけは、
己れの存在を誇示するかのように、激しく鼓動していた。
ドキドキ、ドキドキ。
女の心音が、さざ波のように拡がり、
静まり返った部屋の隅々まで自然に行き届いてゆく。
女の頭はまだぼーっとしていたが、上の写メを見ると、
どうやら自分は無意識のうちに、
スマホのシャッターを押していて、
そこには何の不自然さや躊躇いもなかった事に気がつくと同時に、
我が身に降りかかった現実が、
今はまだ整理出来ず、
到底信じ難い事だとしか認識せざるを得なかったのだった。
しかし、微かに震えの残る自分の指先と、
珈琲の、甘味とも思える大人の苦味を舌で感じると、
もうどうにも止まらない。
珈琲も写メも好きで仕方がない、
う~らら、う~らら、うらうらら~と、
一人、愉しそうに呟いていた。
4月5日日曜日の朝。
女は夢うつつの中で朝の珈琲を飲んだ。
完。
