6月16日土曜日。雨。
ここはJR東日本田端駅のビルatre内にあるスタバ。
なんで4時45分に起こしてくれなかったんだよ
、文句言いながら見送った息子の背中が記憶に新しい。
とりあえずどうでも良い。
トレーを受けとり👇女はスタバの椅子に腰を落ち着かせる。
しかし画にトレーはない。
思い出すだけで身の毛がよだつあの日の事。
あれは今日のように雨が降る日だった。
重たくたれ込んだ鉛色の空は、
今の自分をありのままうつしているよう。
それを虚ろな眼で眺めながら、
中年のこの女はさ迷う心の出口を探しだそうと思念する。
その時、
Bzのヒット曲、ウルトラソウルが聴こえた気がした。
哀しいかな。幻聴だ。
ぽつねんと佇み隔離された独房にいるかのよう。
日を追う毎に私は深い海底へ沈んでいった。
ただ、ここにいる間は自由の身。
いずれ訪れるその時刻までに、
何としてでも、
臆病なこの心を太陽の光がさす所へと送り届けなければならない。
その時だった。また訪れた。
自分の横隔膜が僅かに震えるのを感じる。
肋に手をあて女は気を沈める。
人間とは気持ちが切り替わるその瞬間、
無意識に本能が働き、それがその人間の本当の姿勢であるかもしれない。
そして呟く。
『しかし背に腹は変えられぬ。』
ここに来て心を満たそうとする者であるならば、
腹を、、
五臓六腑が収まっているその大事な腹を、
自分の意識とは関係のないところで機能してくれている目には見えないその大事な腹と言うモノは、
多少犠牲になると言うのが自然の理ではなかろうか。
さもなくば一兎も得られない。
これはもしやホルモンバランスの乱れ?それとも老化による機能低下?自律神経障害?環境?周囲にいる人間の影響?
突然舞う砂嵐の如く、女の心はかき乱れ混乱した。が、直ぐに冷静を取り戻す。
いずれ時間が解決してくれる事もあろうが、
あの時の関係や場に戻る事は容易ではないし、
いつまでも心を蝕むだろうものか。。
女は渇を入れるべく、
自分の両手でピシャリと頬を叩く。
スタバの椅子でシャキッと背筋を伸ばす。
そして今ではすっかり定着したのかもしれないと思いながらも、
中年女のスタバ時間と称した更新をしれっと始めているのであった。
スマホの小さな画面を、女らしくないごつごつした指が縦横無尽に駆け回る。
まるで何かにとり憑かれように。。。
あれはいつもとそう変わらない日になるはずだった。
梅雨の真っ只中で湿度も高く雨も降っていたが、
肉体的な不快やダメージは何一つとして感じなかった。
むしろ最近始めた朝の宅トレのお陰か心持ち身体が軽いのを身に染みて感じ、
僅かながらも老化してゆくだけの肉体の変化に喜びが沸いたほど

楽に歩ける事が、
わたしの地味な日常をこんなにも豊かにし、
極彩色を放つ玉露のようにわたし自身を輝かせてくれていたと、ちょっと嬉しくなる。
私は二つの脚で大地を蹴り、肩をそびやかしながら闊歩した。
馴染みのない街並みや空気にちょっぴりドキドキしつつ、
普段とは違う人の顔や声に新鮮さも感じた。
36年とちょっと、色々ありながらも生きてこれ今日を迎え、
健康な身体と健全とは言い切れないハートがあるけれど、
衣食住が満たされてるし、スタバにも来てるし、
欲さえ持たなければこれ程贅沢なことはないだろうとしみじみ思う。
踏み入れたその場所から始まりここから開ける新しい世界。
想像力とは無限な可能性を拡げ、なにかを駆り立てててくれる力が働くものだ。
後は活動力。そして勇気と努力と、~-,.호ㅑga3mが必要なのだが今ここでは重要ではない。
徒もあれ、
進めてきた歩みが今である事に間違いはない。
だからきょうび、たどり着いたこの場所が必然であると信じたいのだ。
そして私はこの場所で仰せつかった役割を果たし仕事をする。
たたそれだけの事。
人は人気商売だと囁きあうが、
お客様が1人であろうが、100人だろうが、
私が出来ること、やらせていただけることは、どこであろうと変わりはないし、
雇われてる以上代わりになる人間も沢山いる。
だってどの時代も弱肉強食なのだから、、。
ただ、私一人の力だけではここに辿りつくことは出来なかったのは確かなこと。
人に感謝。仕事に感謝。この場で重ねて心に留める。
ありがとう
大好きだよ❤️と女は一人呟くと、
大好きだよ❤️と女は一人呟くと、満ち足りた表情でマグカップを手に取りそれを口許に運ぶ。
熱々の、スタバのコーヒーがやっぱり好き
。
。美味しいなぁ、来続けて良かったなぁ、
しみじみしながらそう呟くとあの日の苦さを、共に喉の奥へと流し込み、更に思案する。
あの日、
私を迎え入れたくれたあの場所は、
これを作り上げた人の歴史や思い、努力や趣きが詰まってる城なのだ。
世の中に無かったものを目に見える形にしたその器量とは、
本人にしか知り得ないほどの様々な苦労を伴ったはず。
あることないこと考えて、押し寄せひく波の如く不安や期待にも苛まれ、
夜も眠れず、神経すり減らし、頬も削げ落ち、犠牲にすることもあったりし息も苦しかっただろう。
誰に相談も出来ず、
むしろ後ろ指刺さしながら、去って行く者もいたはず。
しかし、
見事にやり遂げた、それだけでも立派で、偉業なことなのに他に何を求めようか。
哀しいかな。
心を満たすため、不快を追い出すため、兎に角何でも良い、
自ら進んだ場所で肉体を酷使し汗をかく。
全身の穴という穴から吹き出す汗の爽快感とは経験した者にしかわかるまい。
時間の経過と共に手応えを感じ、益々洗練されてゆくこの肉体。
薄い皮の下で脂が溶けエネルギーと変換されてゆく身体の神秘。
果たして、自分のどこにそんな力が潜んでいたのかと驚かせてくれる。
血の量がどっと増え、脈は更に早まっている。
身体の中で小さな轟音をたてながら暴れる全細胞。
肉体が無意識に動きだす。
意識の介入のないところで。
絶えず流れる時間の中で。
進むがままに。
そして本物と成り得る。
未来の自分の姿に期待ができ、胸が弾んだ。
迷い、憂い、怠惰な自分でも何かが変わると思った。
喜び、楽しみ、今よりもっと幸せな自分がすぐそこに見えた。
だから変わらなければならないと思った。
だから歩みを進めてきた。
三者三様皆色々な物を背に負っている訳だから、
辿り着いたこの場所で、
事を終えた後は尚更、
背を腹に変えてはならないと思うのは、
ワタシの頭がどうかしているから?
女は頭をあげた。
雲の隙間から太陽の光が降り注いでる。
無情な喜び。
そして拳を握りガッツポーズ。
カップの底に沈み、
冷えきったしまったコーヒーだけど、
それを一気に流し込む。
心の残滓と共に。
背に腹は変えられぬ。
決して背は腹に変えられぬ。
女は念仏のように呟き、
シコウ(思考/嗜好)を絶ちきった。
完
