ワタシには後戻りする根性なんて今更ないし、
だからと言って維持する覚悟も気合いもない。
あると言ったら手の中に握られたこれ。
ワタシにとってとても大事なものだ。
今これを、ここにこうしたら、
ワタシの目的は達成され目先の望みは叶うのだ、、、
夢とは案外容易く掴めるものかもしれない。
何故人間とは遠回りしたり、うまくいかない事が起きるのだろうか?
女は今日もまた、
どうでも宜しく、何でもなく、誰に言う訳でもないのに、一人ぶつぶつ言っている。
そして続く。
これまで何万回も耳にしてきたあの音。
不思議と飽きないし懐かしい訳でもない。
気持ちが晴れる事も凍えたりする事もない。
春夏秋冬。絶えず流れる時間の中で、
今日もその音を聴けてる環境にワタシは置かれている。
これまでに出逢いも別れもあったが、
その有り難みは決して忘れてはいけないんだと想っているに違いない。
女は耳に入ってきたその音を確認すると、
うつ向いていた面を上げた。
そして目の前にある風景を一瞥した。
今日はあそこね♪
いつになく足取りが軽い。
何たって今日はおニューのスニーカーだから♪。
すかんぴんなくせして、
終にはゲットして仕舞った新しいスニーカー



人世初のNIKEエアーマックスだわ~い

誰かに聞いて欲しいこの喜びを、
しゃぁしゃぁと厚顔無恥で発信した今。
しかし女の覚悟は強い。
始終無言を貫いている。
カウンターでそれを受けとると着席した。
軽い目眩が訪れる。
益々喉が渇いてくる。
目の前に置かれたキンキンに冷えたコーヒー。
ゆっくりとストローを挿し込み、吸い込んだ。
喉の奥に流れてゆく茶褐色の嗜好物。
胃酸過多、色素沈着と言う言葉が頭をよぎるけど、
ここには清涼感や安堵がある。
目にうつらないものを見つけると、
女は途端に嬉しくなるようだ。
そして誰に微笑みかける訳でもなく、
一人にっこりと笑った。
完