胡桃を追いかけていると、あっという間に、空に昇っていました。りすが追いかけていたのは、空飛ぶ胡桃だったのです。
りすは思いました。
『こんな空飛ぶ胡桃、食べちゃったら、もったいない!』
りすは空飛ぶ胡桃に乗ってみました。
口を開けたカラスが、カァカァ言いながら、りすの横を通り過ぎていきました。
頭の上には、まだまだ空が青く広がっています。
『何処までが、空なんだろう』
りすは思いました。
「胡桃さん、胡桃さん、聞こえてる?」
「はい、何でしょう?」
「僕は君を追いかけるのをやめて、食べない事にしたよ。だって、空飛ぶ胡桃なんて、面白いじゃないの!」
「そうかい?ありがとう。助かったよ」
胡桃は言いました。
「あのさ、聞きたい事があるの、胡桃くん」
「なぁに?」
「空飛ぶ胡桃くんは、お空の上には何があるのか、知ってるの?」
「知るわけないじゃない。僕は胡桃だもの」
「空を飛ぶのに?」
「空と胡桃だよ?お空から雷が落ちてきて、僕が打たれてまっ黒焦げになったりしない限り、僕と空とは関係ない」
「折角、素敵な空なのに」
「いくら空が素敵でも、僕は虚しいだけなんだ」
「たとえ、空が悲しいと言って泣いても、固い殻に覆われている僕には、空の悲しさがわからない。
たとえ、空が嬉しいと言って笑っても、僕は鳥や獣の腹の中に居て、一緒に笑えないかもしれない。
たとえ、空が探し物をしていても、それは僕ではないし、たとえ、空が話しかけても、僕はきっと、一言も返さない。僕が根っこや葉っぱを出して大きくなっても、空には何もしてやれないんだ」
「何故君は、飛べるようになったの?」
「・・・それは空に、恋をしたから」
空を駆け巡った胡桃は、りすにこう言った後、地に落ちて、割れてしまいました。そして、りすに食べられました。夜に、空は一筋の流れ星を描きました。
空に届かない恋をした、胡桃のお話です。