白い羊がいました。
羊はとても気さくで、何でも食べてしまいます。
「私、にんじんが食べられないの」ぱくっ。
「この原稿、書けないよ」ぱくっ。
「あの上司、消えてなくなってしまえばよいのに」ぱくっ。
「能力のない自分なんて、嫌いだ」ぱくっ。
羊は楽しい音楽を聴くと、食べたものを新しく生み変える力を持っています。
ですので、いつも羊の周りには、食べてほしいものをお願いしに来る人や、音楽に合わせて踊り狂う人々で溢れています。食べられたものはもっと美味しい食べ物に変身し、食べられたひとは、周りの人々に祝福を受けながら、笑顔で生まれてくるのです。羊のお尻から…。
ある日、羊は小さな蟻を見つけました。
蟻は悲しそうに、涙を流しました。
蟻は言いました。
「君は何を食べているの?」
「僕は、皆の不満を食べているんだよ」
「やっぱり。僕は君がいつか死んじゃうのではないかと思って、泣いていたんだ」
「僕は、死なないよ。皆が僕を必要としてくれている限り」
それは嘘でした。羊の体の中では、黒いものがはびこって暴れ回り、いつ倒れてもおかしくありませんでした。
「羊くんの生き方は、僕にとって、眩しい生き方だ」
蟻は言いました。
「僕は、何もできない小さなただの蟻だ。そうだ、僕が君の体の中に入って、黒い病魔を食べてあげよう。それが君を救い、人々を救えるのなら」
そう言うと、蟻は羊の口から、体内に入っていきました。
羊の体の中では、色々な悪口や怨念が暴れ回っています。蟻は丁寧に、蜜を吸うように、羊の血や骨から、黒いものを抜き取っていきました。やがて、蟻はお腹いっぱいになりました。少しお腹が減ると、また吸い始め、蟻は10日間、羊の中にいました。
羊は、自分の体がだんだん良くなっていくのを感じ、蟻が体の中にいる間は、何も食べませんでした。
そして、蟻が羊の腸を通り、お尻の穴から出てきた時には、人々から一斉に祝福を受けたのです。
羊の中の悪いものを溜めこんだ蟻は、へとへとになり、倒れました。
羊はもう一度、蟻を飲み込みました。蟻には不満など在りません。在るのは、羊と人々の為に尽くしたいという大義と希望だけです。羊は何も吸い取ることなく、蟻をお尻から出しました。
不思議と、蟻が食べたはずの病魔は癒されていました。
人々は、気付かずに羊を苦しめていたのを知って、反省しました。
そして、人間同士で解決できる方法を考え始めました。
人々は愛によって生きる道を見つけました。
羊と蟻は、いまでもずっと、お友だちです。