A Little Conductor | hinata BLOG

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お花や詩ナド

’98年国内某県で催された
ウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団ニューイヤーコンサート。


もうすぐ小学3年生となるその女の子は頭にカチューシャとピアノの発表会用のピンクのワンピースをまとい
母と叔母に連れられて、コンサートホールの席に着いた。

これから始まる公演を多少の眠気を感じつつ心待ちにしていた。



開演のブザーとアナウンスが流れ
オケがステージに立ち並ぶ。
指揮者が礼をし背中を見せると拍手が止み
静かに音が流れ出した。


少女は周りの大人に習い
心地よいメロディに一生懸命耳を傾けていた。

そのうち少女は眠りに落ちてしまった。


曲が終わり観客から拍手が湧くと、はっと目を開けて自分も精一杯の拍手を送る。



休憩時間
「次の曲はなあに?」
少女が母に尋ねた。
「『未完成』よ」母が答えた。

(みかん星??)

少女は、そんな題名を大人がつけるかと思ったが、子どもは子どもの発想で楽しもうと考えた。


宇宙に浮かぶでかいみかんの惑星を想像しながら曲を聴いた。



演奏が終わるとまた少女は立ち上がり拍手を送った。

どの曲も、最初と最後は拍手を送る。

少女は伝えたかった。
素晴らしい音楽を奏でてくれている
アーティスト達に、「ありがとう」と寝ていて「申し訳ない」という気持ちを。


そんな少女をステージ上から見つけたヴァイオリニストがいた。
隣同士何やら談笑し、少女を指差しながら微笑んでいる。
その話に指揮者は気付き少女の方を振り返った。


暗い客席でも、前の方でひとりスタンディング・オベーションしていた少女はとても目立っていた。

そして公演はアンコールへ。

何の曲かわからないが、楽しい曲だなと思い、少女は体を揺すりながら
聴き入った。

終わるとまた、精一杯拍手した。



指揮者が袖へ戻り、アンコールの声と共に再び登場した。
しかし、ステージから客席へ降り、なんと向かった先は、少女の元であった。


そして少女を立ち上がらせて
タクトを手に取らせて
“振ってごらん”と自ら手を添えて導いた。

団員の目が、一斉に少女の手元に向かった。


少女は指揮者に合わせてタクトを振った。やがてタクトから指揮者の手が離れ、指揮者は少女の後ろの席に腰を下ろした。


不思議そうに
「なんであの子が?」
と観客達が少女を見る。



隣にいた母親や叔母でさえ
「まさかうちの子がオケを指揮するなんて」
と突然の出来事に驚いている。


歌が好きな少女は、指揮者になりきり一生懸命リズムをとり、堂々と必死にタクトを振った。
とても緊張した。けれど指揮者はこうしないと、音楽がめちゃくちゃになると思った。
団員さんが困らないようにと、集中してタクトを振り続けた。



やがて無事に終えると、少女とオケは拍手喝采を浴びた。



指揮者は少女にタクトを持たせたまま、そのままステージの袖へと消え
もう1度ステージへ戻っておじぎをし
公演は幕を閉じた。



少女とその家族は、指揮者にタクトを返すため関係者を訪ねると
裏口へ通され、団員達に歓迎を受けた。


少女は花束と団員達の笑顔と握手とハグと
指揮者のサインの入ったパンフレットとタクトを貰った。


たくさん少女は誉められた。
「とても上手だった」と。