小振りのボストンバッグを肩から降ろしながら奏太が呆れたように尋ねてくる。
奏太の視線から逃れるよう瞳をさ迷わせた託生。
その隣からぐいっと肩を抱き寄せながらギイがニヤリと笑った。
「何って・・・ナニして・・ぐっ、・・・ゲホッ、ゲホッ。」
託生の肘を脇腹に受けて。
咳き込んだギイが言葉を呑み込む。
「あっ、あのさっ!・・・奏太、お昼まだでしょ?僕らも朝ご飯まだだしっ、一緒に・・、」
「朝も食べてないんだ?」
「えっ、ええっと・・・寝坊しちゃって・・・?」
しどろもどろに答える託生が可哀想になって。
奏太はそれ以上の追求を止めた。
「じゃ、俺が何か作るよ。キッチン、借りるから。」
「え、いいよ。奏太、着いたばっかりじゃないか。ゆっくりしといて。僕が作るから。」
「うーん・・・。気持ちは嬉しいけど、まあ、久しぶりに俺の飯食ってくれよ、な?」
「・・・そう?ありがとう。」
にっこりと微笑まれて。
相変わらずの可愛らしさについ、抱き締めたくなる。
けれどもそれはしてはいけないこと。
自分の気持ちを伝えて。
そして託生の真剣な想いを伝えてもらえて。
気持ちの整理はついた。
この想いを無かったことには出来ないけれども。
―――託生が幸せなら、それでいい。
けど。
やっぱり少し悔しい。
だから、これくらいの意地悪は許されるだろ?
奏太は託生の頭をくしゃくしゃっと掻き乱してやった。
「あっ、もうっ。」
託生は髪に手を当てて苦笑する。
父子として過ごした二人にはいつもの日常。
けれども―――。
奏太は先程から感じる氷のように冷たい視線に向かってニッと笑った。
それを受けて氷の視線の主は大きく溜め息を吐き出すのだった。
「―――あんま無理させんなよな。」
体力の限界か。
夜も早くに眠ってしまった託生。
余計なお世話に違いないと重々承知ながらも言わずにはいられなくて。
ついつい言ってしまう。
「ああ、悪いな。愛しすぎちまって。」
それに対する答えがこれ。
―――いけしゃあしゃあと!
イケメンだからって何でも許されると思うなよっ。
脳内で猛烈に反論する、が。
それは単なる逆恨み。
ギイの立場が羨ましいだけなのだと解っているから、奏太はぐっと呑み込んだ。
しかし態度までは取り繕えない。
―――どうせ俺はガキだよっ。
「はいっ!」
ガチャン、と音を立ててテーブルに皿を置く。
奏太が持参した手土産の焼酎で晩酌するというギイに冷蔵庫の余り物でつまみを作ったところだった。
「おっ、旨そうじゃん。」
那須の煮浸しへと箸を伸ばすギイ。
憎たらしい程の余裕。
―――今更言うのも何だが・・・、理不尽だ。