ふう。
ギイが深く息を吐くと同時にガチャリとドアが開かれる。
遅まきながらのコンッという、申し訳程度のノックをこれ見よがしにしてみせながらのこのセリフ。
発信者は―――
「・・・・佐智。」
眉間に深くシワを刻んだギイの鋭い視線をものともせず、佐智はドアの隙間から身を滑り込ませた。
「悪いね、勝手に。でも、島岡さんも忙しくしていたし。僕なら勝手知ったる・・・だからね。」
悪びれもせずの佐智の言葉にギイは肩を竦めた。
もっともらしい事を言ってはいるが。
実際のところ、島岡の案内を断ったのは明白だ。
―――もしくは案外島岡もグルなのかもしれない。
「なんだ。天下の井上佐智がこんなところまで。そんなに暇じゃないだろ?」
ここはNY本社の会長専用執務室。
天才バイオリニストとして世界を飛び回る、多忙極まりないこの幼馴染がこの場にわざわざ足を運ぶとは。
ギイの皮肉を込めた言葉に佐智はにっこりと微笑む。
万人が天使の微笑みと称するそれは、だが、この瞬間のギイにとっては残忍な悪魔の冷笑としか見えない。
「まあね。僕は確かにそんなに暇じゃない。けど、託生くんの事に関してはそうも言ってられないから。」
緩やかに腕を組んで背後のドアにもたれ掛かった佐智のその眼光は、とても天使とは言えないほどに鋭い。
「どういうつもり?」
「なんのことだか。」
しかし、ギイは意にも介さない様子で素っ気なくはぐらかした。
「ふーん。しらばっくれるんだ?」
「人聞きが悪いな。回りくどいこと言ってないで、はっきりと言ったらどうだ?」
ギイの強気の発言に、佐智は眉を寄せた。
「じゃあ言うけど。・・・託生くんを抱いたよね?しかも無理やり。」
ぐっ、と息を呑んだギイ。
「・・・・託生が?」
掠れた声をやっと押し出す。
「まさか。彼は何も話したくないって。けど、何かあったことは明白でしょ?だから―――、」
佐智の瞳がすぅ、と細まる。
「―――見させてもらったんだ。託生くんの躯。」
瞬間、逸らされていたギイの視線が驚愕の色を帯びて佐智へと注がれる。
息詰まる眼光。
その先で佐智が悠然と微笑んだ。
「託生くん、最初は嫌がってたけれど・・・そのうちに話してくれたよ。―――勿論、僕が責任もって慰めておいたから。心も、躯も、ね?」
「っ、佐智っ!」
一際強まったギイの眼光は、それだけで人を射殺してしまいそうな類いのもの。
だけでなく、ギイの両手は佐智のシャツの襟元へと伸びる。
ぐっと締められて。
佐智は苦しげに貌を歪めた。
「・・・・それが義一くんの本心?」
押し出された掠れ声に、ギイの指の力が緩んだ。