静寂を書き消す託生の叫び声。
それにパタパタと足音が続いて。
バタン!
勢いよくドアが開かれた。
「・・・・おはよう、とうさん。」
キッチンにて、ほうれん草を鰹節とゴマと出し醤油で和えながら、奏太はのんびり挨拶を返した。
「うん、おはよう。・・・じゃなくてっ、どうして起こしてくれなかったの。ズボンがしわしわになっちゃっただろ~っ。」
予想と一言一句違わない託生の台詞に、奏太は深く溜め息を吐いた。
「・・・・起こしたよ。起きなかったのはとうさんだろ?」
和えたほうれん草を小鉢に移しつつの奏太の言葉に、うっ、と声を詰まらせた託生。
「なら、せめて。脱がしてくれたら良かったのに・・・。」
天然全開の託生のこの言葉に、奏太の眉間にはぐっと深くシワが刻まれた。
「―――本気で言ってるの?俺が脱がしても良かったって?」
奏太の低い問い掛けに、託生は目をパチパチとしばたかせた。
ついでに小首を傾げて宣う。
「当然でしょ?」
一欠片の疑問も抱いていない様子に、奏太は心の中でがっくりと肩を落とすのだった。
―――そうだよな。
これがとうさんだよ。
自分で自分を慰めつつ、奏太は冷蔵庫から卵を取り出す。
卵焼きになる予定の卵を3つ掌に載せたところで託生のぼやきが聴こえてきた。
「あーあ、クリーニング出さなきゃ・・・。」
―――ぼやきたいのはこっちだよ。
そう、心の中で愚痴りつつ、くるりと振り返った奏太。
瞬間、あり得ない光景に衝撃が走る。
手から滑り落ちた卵がぐしゃり、と足下で潰れた。
そこにはスラックスから片足を引き抜く託生の姿が。
「うわっ、何、脱いでるんだよっっ!」
「へっ?や、だから。クリーニング・・・、」
「部屋で着替えろー!!!」
奏太は託生に皆まで言わせずキッチンから追い出したのだった。
―――天然、恐るべし。
あの人には危機感というものはないのか?
・・・けど、いいもの見たなあ。
瞼の裏に残った光景を反芻してしまう。
そんな自分を棚に上げて、奏太は託生の危機感の無さを嘆くのだった。