鳴り響いた玄関チャイムの呼び出し音。
少し前から取り組んでいる指の忙しい楽曲。
そのスケール練習に没頭していた託生は、バイオリンを肩から降ろした。
「・・・・兄さん?」
いくら待っても玄関に鍵の差し込まれる気配はなく。
不審に思いながらもバイオリンをテーブルの上に置いて玄関へと向かって。
内側からドアの鍵を回した直後。
いきなりドアが開かれる。
「わっ、わわっ、」
ドアノブを掴んだ手ごと持っていかれそうになってたたらを踏んだ託生を温かなぬくもりが覆った。
懐かしい花のような香りを吸い込んで―――
「・・・えっ・・・ギイっ?!」
居るはずのないその人の姿に目を丸くする。
「託生っ・・・・会いたかった・・・。」
吐息のようなギイの声。
熱い息がおでこに掛かる。
託生を力一杯に抱き締めながらも足下のスーツケースを器用にも部屋へと押し込んだギイ。
「な、なんでここに・・・、」
状況を把握できていない託生。
その質問に、残念ながら答えはない。
「んっ、うん・・・・っ、は、あ・・・、」
噛み付くように唇を奪われて、深く貪られる。
――こんなに深いキス、今までなかった・・・っ。
苦しくて。
酸欠になろうかという頃、やっと解放された。
すっかり息の上がってしまった託生だ。
ギイの背に回した掌にきゅっと力を込めて崩れてしまいそうな身体を支えた。
「電話のあと、尚人とナニしてたんだよっ?!」
唇が離れた直後に苦し気な声で問い質されたが、酸欠の頭では理解が追い付かない。
咄嗟に言葉の出ない託生に、ギイの苛立ったような舌打ちが聴こえて。
再び塞がれる唇。
「ふっ、んん・・・んっ、あ、れは・・・、」
ようやくギイの質問に思い至った託生である、が。
唇を塞がれたままでは説明のしようがないではないか。
「ちょ、ギイっ、ごめ、待って。」
両腕を突っ張らせてギイのくちづけから逃げる。
そんな託生に不服そうに貌をしかめたギイの頬に、決死の気合いでちゅっ、とキスをひとつ。
真っ赤になって下を向いてしまった託生に、ギイの腕の力も弱まった。
「―――――マッサージ?!」
力一杯嫌そうな感じが全面に押し出された声で。
いかにも信用してません、という風に。
ギイが繰り返す。
だが。
いかにギイが信用しなかろうとも、事実は事実なのであるからして・・・。
「そう、マッサージ。」
託生もおうむ返しに繰り返すより他ない。
そんな託生にしばし沈黙して何事か思案を巡らせていたギイだが。
「どこの?」
再びの質問にもう、首を傾げるしかない託生だ。
どこ?って・・・。
それは―――
「色々?」
例えば肩とか、腕とか、肩甲骨とか?
あ、あとは首筋もだったっけ。
そんな“色々”とは全く別の場所を想定していたらしいギイに。
「例えばこことか、こことか?」
さわさわっと触られて。
託生は驚きで飛び上がりそうになった。
「そ、そそそ、そんなっ、ところ・・・っ、」
―――してないよ・・・っ。
小さく震わせた託生の声に。
恥ずかしさに朱に染まったその貌に。
とんでもなく煽られる。
長かった託生不足と尚人への嫉妬の影響もがっつりと受けて。
ギイの理性は音を立てて崩壊していったのだった。