ベッドの中から小さな声が発せられて。
深く沈み込んでいた物思いから引き戻される。
『タクミ?目が覚めたのか?』
そっと覗き込んだそこにあったのは、あどけなく眠るタクミの姿。
起きたかと思ったが。
どうやらその眠りは深いらしい。
まあ、それも仕方のないことだ。
有らん限りの集中力をもってしての演奏の後で。
ましてや、タクミは演奏とは別な所での葛藤もあったのだ。
その上で半ば拉致されるような形で打ち上げにも参加させられたのだから。
タクミが予想を遥かに上回ってアルコールに弱かったという事実を差し引いたとしても、この沈没具合は仕方がないと言えるだろう。
だが。
―――仕方がない?
――――本当に??
控え室で崩れ落ちて泣いたタクミが頭から離れない。
声を殺して、耐えるような泣き方だった。
タクミは。
一体どれだけ、そんな涙を流してきたんだろう。
そんな苦しい涙・・・俺だったら泣かせたりしないのに。
俺だったら・・・。
だけど、あんな貌、俺にはさせてやれないんだろうな。
メッセージの書かれた紙片を固く握り締めて、しばらく俯いていたタクミ。
なかなか収まらない嗚咽がやっと落ち着いた時。
『あ、あのっ。・・・みっともなく泣いちゃって・・・ごめんっ。』
泣き腫らした赤い目と同じくらい、真っ赤になった貌で照れ臭そうに謝ってきた。
『泣くのは別にいいさ。みっともないなんて思ったりしない。けど。そんな風に泣くタクミを放っとけないだろ?』
『そうよ。私たちにも何か助けられることがあるかもしれない。ね、話してみて?』
『話したら気が楽になるとか、言うしな?な?』
『えっ・・・と、あの・・・その・・・。』
代わる代わる説得する俺たちに、タクミは非常に言いにくそうに口中でもごもごと呟くのみ。
『つまりね。タクミは、』
説得に加わらず、珍しく一人口を噤んでいたナオコが何やら重々しい口調で会話に割り込んできた。
だが、その内容は俺たちにとっても、また、当のタクミにとっても衝撃的なもので。
『音信不通だった恋人が自分ではない相手を連れている所に会ってしまった。けど、何か事情があってのことだろうと信じようとしている、のよね?』
彼女の藪から棒な発言にしん、と静まったところに。
「な、なんでっ?!」
響いたタクミの焦った声。
何て言ったか分からないが、その狼狽ぶりはナオコのセリフが当たりであると物語っている。
『ごめんね、タクミ。メッセージ見えちゃったから。』
決まり悪そうに、でも心なしか浮かれた口調で謝罪するナオコに。
何を言いたいのか。
パクパク、、と口は開くけど、結局何も言葉にならないタクミ。
『えっ、本当に?』
『そうなのか?タクミ。』
『タクミ、恋人いたのか・・・。』
『いや、ルーク。お前はもういい加減諦めろよ。』
驚きつつも、俺の重い溜め息混じりの呟きに呆れたように突っ込みを入れることは忘れないジャンの、実は痛すぎる言葉を受けて。
『それより、今の本当なのか?』
話題の当事者に確認する。
ああ、自分で自分の首を絞めるって、こういうことなのか?
『ううん、違うよ。』
否定の言葉にほっとしたのも束の間。
続く迷いのない一言に、俺は容赦なく打ちのめされたのだった。
『信じることに決めたんだ。』
赤くなった瞳を細めて、ふんわりと微笑んだタクミは、今まで俺が見てきた中で一番の優しい貌をしていた。