月と桜と君と僕。 5 | usatami♪タクミくんシリーズ二次創作小説♪

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タクミくんシリーズの二次創作です。
usatami のこうだったらいいのにな~♪を細々と綴っております(〃ω〃)
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散策路を進んでいくと、やがて開けた場所に出た。
「うわぁ。すごいっ。」
「これは・・・見応えあるな。」
そこには大きな桜の樹が淡く色付く満開の花を枝いっぱいに咲き誇らせていた。
幹の太さからかなりな樹齢だろうと思われるその桜の樹の根元に、俺は持っていた鞄からごそごそとシートを取り出して・・・よし、準備完了。
「託生、こっち。」
シートの上から見上げた託生は、未だ桜に魅入っていて。
そんな託生に俺は見惚れる。

目が離せなくて。
見詰め続ける俺の視線の先、はらはらと舞い散る桜の中で佇む託生がふいにしゃがみ込んで、手にしていたケースからバイオリンを取り出す。
そのまま軽く調弦したと思えば。
深く吸い込まれた息のあとに紡ぎ出されるバイオリンの音色。

バッハの無伴奏 パルティータ第2番。
託生のコンクールの課題曲。
秋に、桜ノ宮坂音大の学祭での演奏を聴いたが、あの時よりまた変化した音。
その音の色に、響きの深さに、俺の皮膚の表面がぞわり、と波立った。
微かに伏せられた瞳は一体何を見ているのか。
恐らく誰にでも見ることの出来るものではない何か。
それを受けて、いや、それに向かって・・・?
託生のバイオリンは伸びやかに、艶やかに響き渡る。
満開の桜と青く澄んだ空、そして爽やかにそよぐ風。
それらの風景と託生のバイオリンが響き合って、歌い合って・・・まるで対話しているかのような、そんな演奏に俺は我を忘れて聴き入ってしまった。

「・・・今、何を考えて弾いてたんだ?」
託生が何と対話していたのか知りたくて。
渾身の演奏の余韻から戻ってきた託生に早速問い掛けると。
「え?――って、あっ、ご、ごめんっ。」
放心したような瞳をゆっくりと二度三度と瞬いたあと、俺へとやっとその焦点を合わせた託生。
俺が用意したシートとその上に並べた諸々も一緒に視覚に捉えたようだ。
「ギイに全部やらせちゃって。・・・って言うか、これ、いつの間に準備したの?」
託生の言うこれ、とは。
「ああ、東京の実家で作って貰った。本当は俺が作りたかったんだけどなあ。」
五段重ねの重箱。
島岡が預かってきたそれの中身は勿論、弁当だ。
「まあ、こっち来て座れよ。早速、弁当食おうぜ。」
俺の言葉にびっくり眼だった託生の大きな黒い瞳がほわりと綻んで。
くすくす、と柔らかく笑う託生に俺の心臓はまたもやドキリとする。
だって仕方ないじゃないか。
さっきまでのあの、真剣で侵しがたく神聖な託生の貌にもかなりクるものがあったが。
今の、このふんわりと柔らかく優しい託生の貌もまた、俺には堪らないものなのだから。

「なにが可笑しいんだよ?」
わざと拗ねた声を出して託生へと腕を伸ばせば、くすくす笑いはそのままで。
「別に?でもそんなに沢山・・・まぁ、大丈夫か。
なんて、言いながら素直に俺の指先に自分の指先を重ねてくれる。
その信頼を良いことに、俺は託生を腕の中へと引き寄せ、閉じ込める。
「捕まえた。」
「くすくす。もうっ。お弁当食べるんでしょ?」
腕の中で微笑みながらも可愛らしく文句を言ってくる託生の、桜のような色の唇に、俺はくちづける。

「んっ、ギイ、ここ・・・外だから・・っ。」
つい、深まりかけたキスの合間に託生が予想通りの苦情を入れてくるから。
「確かに外だけどな。実は私有地。だから誰も入っては来ないのさ。」
だが、俺の説明にも浮かない顔の託生。
そうだよな。
託生だもんなあ。

「じゃあ、もう一回だけ。おまえのバイオリン、終わるまでちゃんと待ってたんだぞ?ご褒美、くれよな。」
今度は哀しげな声でおねだりしてみる。
託生は困ったように眉を下げて考えていたが、きょろきょろと辺りを見回して、大きく息を吐く。
「・・・わかった。でも、一回だけ、だからねっ。」
「勿論。」
心配そうな託生の念押しにしっかりと頷いて安心させて。
俺はご褒美にありついた。

柔らかな感触にこの上なく甘い味。
今度こそ歯止めは効かず。
ふと気付けばくったりと力の抜けた託生が俺へと寄りかかってきて・・・。
あー、ヤバい。
やり過ぎちまったかな。