もうすっかり日も暮れた頃。
僕はアパートに帰り着いた。
僕の部屋のドアの前に立つ人影を認めて。
吐息と一緒に吐き出したその人の名前。
「赤池くん・・・。」
きっと随分とここで僕が帰ってくるのを待っていてくれたのだろう。
とても疲れた顔をしていたから。
「・・・・葉山、遅いぞ。」
そう言って。
何でもない風に僕を迎えてくれたけど。
僕の顔を見た瞬間に、赤池くんの強張ってた肩から力が抜けて、険しかった表情が安堵に変わるのがわかってしまったから。
だから。
きっと僕のことを心配して来てくれたんだろうな、って。
いくら鈍い僕でもわかってしまった。
「ごめんね、赤池くん。」
――随分待たせてしまって。
―――いつも迷惑掛けちゃって。
――――甘えるばっかりしてしまって。
「・・・葉山は本当に馬鹿だな。」
僕の声にしなかった言葉に、赤池くんは優しい声でそう言ってくれたんだ。
「どうしてここに?」
赤池くんにも部屋に入ってもらって。
荷物とバイオリンを置いて、コーヒーでも淹れようかとポットに水を入れていたら。
「僕がやる。いいから葉山は座ってろよ。・・・酷い顔色だぞ。」
赤池くんにポットを取り上げられて椅子へと押し込まれた。
「井上さんから連絡があったんだ。おまえ、レッスンすっぽかしたんだろ?」
ポットを火に掛けながらの僕の質問に対する返事に。
そうか・・・、とよく働かない頭で思う。
あれ?でも・・・。
「佐智さん、いつの間に赤池くんの連絡先を?」
「甘いな。僕と井上さんはとっくに友達なんだ。連絡先の交換ぐらい当たり前だろ。」
僕の当然の疑問に赤池くんは、人差し指を左右へ振りながら答えてくれた。
こんな仕草が様になる人はそうはいないと思う、なんてぼんやりと思ってた僕は相当に間抜けだったな、と後になって思った。
不安定で目が離せないからと、佐智さんや祠堂の仲間達が僕を気に掛けて見守ってくれていたことにも全く気付いていなかった僕。
赤池くんの言葉を素直に信じたんだ。
「そうなんだ。」
納得する僕を横目で見て。
「それで、」
手早くコーヒーを淹れながら、今度は赤池くんが質問をしてくる。
とても答えにくい質問を。
「どうして葉山は井上さんのレッスンをすっぽかしたんだ?」