師走の忙しない喧騒の中、家路を辿る。
街並みにはイルミネーション。
街路や店先を彩る光の粒たち。
今日はクリスマスイブではないか。
忙しすぎる恋人からの連絡は未だ来ず。
このままでは逢えずに終わってしまうという可能性もなきにしもあらずで。
恋人の大変な多忙ぶりはよーく分かっているから。
「絶対に逢いに来てっ。」なんてワガママ、言えるはずもないが。
それでも逢いたいと思ってしまうのは、やはりワガママなのだろうか?
「今年ももう終わりなんですね。」
「そうですね。あっという間ですよね。」
滅入ってしまった気持ちを振り切る為に漏らした呟きに、にこやかに応えてくれる岡田。
すっかり馴染んだ岡田とも、思えばつい数ヵ月前に出会ったのだった。
色々とあった一年だった。
けれども。
「色々あったけど、岡田さんとも出会えたし。良い一年でした。」
そんな感想を述べたら、何故か岡田が沈黙してしまった。
「岡田さん・・・?」
不思議に思って隣を歩く岡田を見上げてみれば。
そこには、心なしか赤く色付いた貌に満面の笑み。
「そう言っていただけて、光栄です。」
いつも頼りになるボディーガードの、らしくない態度に慌ててしまう。
「や、やだな。岡田さんったら。そんな風に返されたら照れちゃうじゃないですかっ。」
もうっ、と頬を膨らませる託生は、岡田が初めて“葉山託生”という存在を知った祠堂時代とそれ程変わるものではなく。
あれから時は流れたというのに、相も変わらず可愛らしい。
初めての出会い(岡田の一方的なものではあるが。)から
恋人との突然の別れ、そして再会。
恋人と共に歩み続ける為の決意。
あの頃の純粋さはそのままに。
時の流れと比例して積んだ様々な経験が彼をより柔らかく、しなやかにした。
それと同時に本人には全く自覚なしの艶も増した。
祠堂時代、主だけが知り得たであろう、そして全力で自分だけのものとしていたであろう彼の魅力。
あの頃の主の苦労の甲斐もなく、今では余すところなく駄々漏れである。
故に次々と事件が起きてしまうのだが。
自分の存在が、尊敬して止まない主とその唯一無二の想い人である目の前のこの美しい存在との幸せを護る一助となっていることが、堪らなく誇らしい。
「私も、託生さんにお会い出来て良かったです。」
これからもお傍で精一杯お護りいたします、とは。
思っていても、声を大にして宣誓したくても。
大仰なことがとんでもなく苦手な彼を困らせてしまうことは分かりきっているので、心の中だけに留めておく。
呑み込んだ言葉の代わりに想いを込めて笑顔を向けると、柔らかな微笑みで応えてくれた。
「少し早いですけど。来年もよろしくお願いしますね。」
岡田の気持ちを読んだ訳ではないのだろうが。
託生の言葉は岡田には素晴らしく嬉しいものであった。
「私の方こそ、どうぞよろしくお願い致します。」
ああ、幸せだなあ。
なんて思っている事が主に知られたら・・・恐ろしい限りである。
主、と言えば。
「今日、義一様はこちらにいらっしゃるのですよね。」
岡田の問いに見る間に表情の曇る託生。
おや?と思ったが、発した言葉は引っ込められない。
迂闊な発言を悔やむ岡田に
「ん。連絡はないよ。ギイ、最近なんだかとても忙しそうだし。多分、来れないんじゃないかな?」
無理に微笑おうとする姿に胸が痛む。
確かに多忙を極めている主ではあるのだが。
託生限定、アニバーサリー男の主が?
クリスマスイブという一年に一回だけの、これ以上ないロマンティックなシチュエーションに姿を現さないなんて。
・・・あり得ない。
「お忙しい方ですから。でも、きっと来られますよ。」
それは慰めでもなんでもなく確信。
大体、あの方が託生さんなしで耐えられる筈がない。
万障を蹴り飛ばしてでも飛んで来るのだろう。
「そう・・でしょうか?」
「はい。そうです。」
真顔できっぱりと言い切る岡田が、なんだか可笑しくて。
ついクスクスと笑ってしまうと。
少し沈んでしまっていた託生の気分もふわりと浮上する。
うん。やっぱり岡田さんはとってもいい人だなあ。
「ありがとうございます。なんか元気出ました。」
そう言ってにっこりと微笑んでくれた託生。
その微笑みにドキリとする。
最近、特に艶増し率が急上昇しているというのに。
その微笑を無自覚に振り撒くのはボディーガードという立場上、止めて欲しいところなのだが。
それも託生の個性なのだ。
引っくるめてガードするだけ。
マンション入口で顔見知りの管理人と挨拶を交わして、少し立ち話して。
珍しいことに岡田に急かされて、まだ話し足りなそうな管理人と別れエレベーターに乗り込む。
・・・全くアイツは・・・。
岡田の小声での呟きは良く聞き取れなかったけど。
「岡田さんは管理人さんと親しいんですね。」
何となく思ったことを口にしたら。
「ええ、まあ。職務上色々とお世話になったりもしてますので。」
岡田はにっこりと満面の笑顔。
笑顔・・・だけど。
ちょっとコワイ?
「そう、なんですね。」
「そうなんですよ。」
やっぱり笑顔。
・・・まあ、いっか。