な、なんでこんなことになってるんだろう!?
すぐ前を走る泉。
その手は託生の手へとしっかりと繋がれていて。
つまり、自分は絶世の美少女に見える美青年と仲良く(?)手を繋いで走らされていて。まさに引っ張られるかのような勢いで連れ去られていく。
訳も分からず引かれるままに懸命に走る託生だったが。
なんか、すっごく目立ってない!?
道行く人達全てに注目されているような気がする。
確かに、泉はものすごくキレイだから皆が見てしまうのもわかるけど。
多分この、手を繋いでの全力疾走。
これがとんでもなく目立っているのだ。
もうっ。
いったい、なんなんだよ~!
「ちょ・・っ、と待っ・・・はぁ、もぉ・・ム、リ・・。」
息が乱れて脚がもつれる頃、託生は泉に白旗をあげた。
「・・なん、だよっ。・・葉山ってば・・相変わらず・・体力、ないんだな・・っ。」
そう返してくる泉だって随分息が上がってるのに。
すごく、理不尽だ。
はぁ、はぁ、と。
乱れた呼吸を整える間、託生越しに遠くを透かし見ていた泉。
その呼吸はもう平常時に戻りつつあって。
ぼ、僕って高林くんよりも体力ないの?!
密かに託生を落ち込ませた。
「やっぱり、こんなんじゃダメか。」
「え?なに?」
ポツリとこぼした泉に思わず訊き返す。
「なんでもないよっ。」
その不貞腐れたようなセリフと表情なのに、あくまでも、どこまでも可愛らしい泉につい、くすくすと笑ってしまう。
「なんだよっ?」
そんな託生に噛みつくように刺々しく言ってくる泉。
でも、やっぱり可愛いのだ。
益々くすくす笑いが止まらない。
「や、ごめんね?あんまり高林くんが可愛いから。嬉しくて。」
「は?」
いやいや、葉山が日本語に不自由なのは仲間内では有名な話だ。
翻訳だ。
ここは意訳をフル活用しろ・・って、無理だろ?!
「・・・まあ、僕が可愛いのは当たり前だとして、それでなんで葉山が嬉しいの?もしかして・・僕と浮気したい、とか?」
ズバリと訊いてみた泉の言葉に託生の笑顔がピシリと固まった。
「や、やややっ、違うし!どうしてそうなるの?」
「そうとしか取れない。」
真面目に答える泉に慌てて言い募る。
「僕が言いたかったのは、高林くんが全然変わってなくて嬉しいってこと!前に会った時はこんな風に楽しく喋れなかったから・・。」
その言葉はトーンダウンして消えた。
最後に会った時、託生はまだギイと再会出来てはいなかった。
消息不明の恋人がまだ自分を想ってくれているのか、想い続けてもいいのか。託生は弱音を吐くようなことはなかったけど、その心の中が穏やかである筈はない。
全てを一人心の中に抱え込んで、ただひたすらに音楽へ、バイオリンへとのめり込んでいく託生を祠堂の仲間達は心配して時間のある時には託生の下へと顔を出していた。
あの頃の託生とは違う生き生きとした表情、柔らかな雰囲気。
ギイとの再会が託生を鮮やかに変えた。
判っていたことだけど、やっぱり二人は一緒に居なければいけないのだ。
言葉を呑み込んで俯いてしまった託生の頭をポンポンと叩く。
「ギイに逢えて、良かったな。」
泉の言葉に目を見張った託生が、次の瞬間にはとても、とても柔らかな笑顔を浮かべたから。
「うん!ありがとう、高林くん。」
その声が本当に幸せそうだったから。
まあ、ギイが過保護になるのも仕方ないよね。
あのウザイ“付き人”達にも我慢してやるか。
迂闊にも赤くなってしまった顔を託生から逸らしながら考える。
でも、折角だから楽しまなきゃな。
「はい、手。」
「えっ?!」
自分へと差し出された泉の手をマジマジと見る。
これは、手を繋げってこと?なんで??
「はやく!」
急かす泉におどおどと問い掛ける。
「えっと・・なんで?」
「・・・葉山、駅はどっちだ?」
すると逆に問い返された。
さっき無茶苦茶に走ったお陰ですっかり方向を見失ってしまった託生である。
「駅?・・・・は、あっちかな?」
確証はないものの何となく答えてみたが。
「ブーッ。正解はこっち。という訳で、手。」
「なにソレ。僕、迷子になったりしないよ!」
「駅分かんなかったクセに。いいんだよ!はぐれたら面倒臭いんだから。」
有無を言わさず握りとられた手。
そのまま歩き出した泉に半分諦めの境地で従う託生。
何しろ今までに泉の押しに勝てた試しがないのだから。
泉は例の“付き人”をチラリと見遣り極上の微笑みを投げ掛ける。
コレをギイに報告してくれれば。
ギイはとっても悔しがるかな?
それって結構楽しいよな!