2025年もあと10日余り。いわゆる冬ドラマも、ほぼ最終回を迎えています。そんな中から『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系、日曜21時)について書きます。

 このドラマは競馬にかける人たち(男たち?)のドラマです。その情熱の熱さに打たれるのか、俳優の演技力に引き込まれるのか、ドラマを見ていて「感動的!」と思ったこともたびたびありました。

 一方で、その感動にはなにか「居心地の悪さ」を感じたことも確かです。競馬にまったく関心がなく、ドラマを見ても競馬に魅力を感じないためか、登場人物たちが熱いのはわかりますが、見ているこちらも熱くなれるのかどうか。なにか「感動の強要」というか、無理に感動を押しつけられているような印象は残りました。

 そこから思い出したことがあります。あるテレビ局のプロデューサーにインタビューをさせていただいたときのこと。その方は俳優に、「俳優が泣くんじゃない、俳優が泣くのを必死にこらえている演技を見て視聴者が泣くんだ。」と演技指導をすると言っていました。なるほど、俳優の演技が熱すぎると、視聴者にとっては押し付けられているように感じることああります。

 また、勤め先の大学院生と話したところ、「馬の話と馬主の話が、男社会の血統主義で重なっていて気持ちが悪い」と言っていました。なるほど、この大学院生の方が私よりもテレビドラマ研究者らしいかもしれません。確かに、「あの馬とこの馬の子だからどういう走りをする」といった話と、「馬主が本妻以外の女性との間に設けた子が何も教えないのに馬に詳しい青年に成長する」といった話が、ドラマの中で重なり合っているように感じられます。それを感動的と受け取れる人とそうは受け取らない人がいることでしょう。私は競馬にまったく関心が持てないせいか、遺伝子操作や動物実験を連想してあまりいい気持ちはしません。そういうところも「感動的だけど居心地が悪い」という印象につながっていいます。

 こんな見方をするのは視聴者のごく一部にすぎないでしょうけど、今回はあえて書きました。『ザ・ロイヤルファミリー』に純粋に感動していた皆さまは、どうぞ気になさらないでください。

 

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 将棋女流タイトル8冠のうち6冠を保持する福間香奈6冠の発言が話題になっています。ことの発端は、将棋連盟が作った新しい規定。「タイトル戦の日程に出産予定日の6週間前から産後8週間までの期間が一部でも重なる場合は、対局者を変更する」という規定です。これに対して、福間6冠が「妊娠か将棋かどちらかを選ばなければいけない」「第二子は無理だと絶望的な気持ちに」「人間の尊厳にかかわる」といった発言をし、「妊娠・出産と将棋を指すことが両立してできるような制度」になるよう、規定の見直しを求めたとのことです。このことに関する私の意見を書きます。

 私は福間6冠の全面擁護はしかねます。しかしながら、将棋連盟の決定過程には大きな問題があると思います。福間6冠の要望が公表されると、いったん規定を作っておきながら、「専門家の見解等を参考に」「より柔軟に当事者の意思に沿った対応が行える仕組みを検討している」というコメントを発表しました。う~ん、「検討している」なら、新規定を先に発表するべきではありませんでした。

 まず前提条件ですが、出産等による棋士の不利益をできるだけ回避するように努めるのは当然のことです。これは大前提。一方で、将棋(や囲碁)のタイトル戦は年間のスケジュールがあり、日程の変更は容易ではありません。また、タイトルに挑戦しようとする棋士たちの中に出産にかかわる人はいないのか、それをコントロールして棋戦に備えている人はいないのか、タイトル保持者の事情だけでタイトル戦の時期を動かしていいのか、といった問題が連鎖して出てきます。となると、福間6冠の要望をできるだけ叶えたいと願いながらも、実務的な問題や公平性の観点から、この問題の解決策は容易に見つからないのです。

 こうした難題に取り組む場合、組織にとってより重要なのは、「結論」に至る「過程」です。私が所属する組織であれば、おおかたの納得のいくメンバーで協議体を作り、そこで作った原案(場合によっては複数の案)を提示して、その後にパブリックコメント期間を設け、意見の集約を時間をかけておこなっていくことでしょう。そもそも福間6冠の意見は重要ですが、その福間6冠と戦う立場の女流棋士たちの意見はどうなのか。また、棋戦を運営するスポンサーや新聞社の意見はどうなのか。そういう意見集約の過程(手続き)を経ることなしに新しい規定を策定してしまったところに、今回の大きな問題があると私は思います。言い換えれば、「将棋連盟VS里見6冠」のような形になってしまうこと自体が組織としての問題だということです。

 この件についての将棋ファンのコメントを見ると、福間6冠に共感しつつも、「日程をタイトル保持者の都合で変更するのは難しい」「妊娠中はいったんタイトルを返上し、復帰後にタイトル挑戦権(スーパーシード権)を与えたらどうか」「暫定王者制度を作るのが落としどころか」といった意見が多く見られます。私もそのあたりが妥当なように思います。

 

 関連する別の件ですが、将棋連盟は過去に「AIの不正使用」を理由に棋士のタイトル戦出場をとりやめさせました。そのときにも思いましたが、人を処分・断罪するのには絶対ともいえるような万全の証拠固めが必要です。ところがこの件は、将棋連盟が結局「AIの不正使用」を証明することができず、タイトル戦出場をやめさせられた棋士に対して、将棋連盟が慰謝料を支払うことで和解するに至りました(金額非公表)。それと今回の出産に関する新規定とに共通しているのは、過程を軽視して先に結論を出してしまうということです。

 私は福間6冠の要望をすべて叶えるのは難しいと思っています。しかしながら、いきなり「出産予定日前後14週間とタイトル戦が重なったら出場棋士交代(つまり出場権を剥奪される)」となったら、「はい、わかりました」といえるはずがありません。将棋連盟には「結論に至るまでの過程を重視する」姿勢をもっと見せてほしいと感じました。

 

 将棋のことばかり書きましたが、実は囲碁の日本棋院にも同様の懸念を感じることがありました。日本棋院の経営が危機的な状況にあることは周知の事実です。そこで日本棋院は棋士の新規採用数を減らす決定をし、公表しました。日本棋院の経営になんらかの強い対策をとらなければいけないことは誰もが認めるところですが、いきなり「棋士採用数の削減」が発表されたように感じられました。そして、「現在の所属棋士の削減が先にではないか」「将棋には引退制度があるのに囲碁は本人任せ」「棋士志望者の夢を奪うことは囲碁界の未来を狭めることだ」といった多方面からの反発が聞こえてきます。この件も前述のように、過程をもっと重視した意思決定の手順がほしかったと思います。現状のままでは数年後に日本棋院が通常の運転資金すら確保できなくなる、ということが発表されています。それなら複数の財政再建策を提示して棋士、スポンサー、一般ファンから広く意見聴取をおこなったり、それ以外の再建アイデアを一般公募したり、といった手順をとってほしかったと思います。

 

 将棋と囲碁では事情が大きく異なり、財政的には囲碁界の方がはるかに深刻な危機に直面しています。しかし、どちらもファンあっての業界です。結論に至る「過程」を大切にし、広く意見を聴取するような姿勢を持ってほしいと切に願います。

 

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(12月16日追記)

 私がこのブログを書いた3日後になって、将棋連盟から発表がありました。妊娠中の対局が不戦敗になる規定を削除し、新規定に関する検討委員会を立ち上げるそうです。う~ん、だから書いたじゃないですか。発表してから指摘を受けて変更するのではなく、結論を出す前に広く意見を聴取するのが、開かれた組織のあり方だと私は思います。

 

 

 12月になりました。かつては年賀状を書く季節でしたが、時代はすっかり変わり、年賀状を書く/出す人は少なくなりました。

 私にとっては長年の習慣でしたので、年賀状に対する思い入れはやはり残っています。普段から会う機会や連絡をする機会のある人はいいとして、普段接点のない人との年賀状は貴重でした。年に一度だけ近況を確認し合ったり、新しい近況を知らせてもらったりすることには、大切な意味がありました。また、元旦に届いたたくさんの年賀状を一枚ずつ読んでゆっくり過ごすのも、正月の楽しみの一つでした。

 そういう長い歴史のある年賀状という習慣ですが、近年に急速に廃れました。書くのが面倒で、費用がかかり、やりとりするのに日数がかかるのが年賀状です。現在のSNS全盛の時代にあって、年賀状が廃れるのはやむを得ません。

 私自身は、まだ完全には年賀状をやめていませんが、数年前から紙年賀状を大幅に縮小してきました。近年は、年配の恩師や年配の親戚にのみ紙の年賀状を送り、他の方たちにはメールの一斉送信で年賀状を送っています。しかし、メール一斉年賀状というのが定着していないので(おそらくこれからも定着しないことでしょうから)、それもまた考え直さなければいけないように思います。若い人たちはLINEで挨拶したり、Xにポストしているのでしょうか。

 「年に一度近況を伝え合う」……。その行為には意味があったと思いますし、年賀状は人と人がつながる大切な習慣だったと思いますが、もはや懐かしむ対象の、過去の習慣になってしまいました。それに代わる方法を考えたいと思っています。

 

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 教員は、週に何種類かの授業を併行して担当しています。今年度後期(9月~1月)の授業のうちの1コマで、私は村上春樹の作品について講義をしています。作品ごとに講義するというよりも、毎回テーマを設けて考察していて、今週のテーマは村上春樹作品に登場する人物像についてでした。

 講義科目というのは、演習科目と違って教員の一方的な話になりがちです。また、私の講義科目には履修者が100名以上いるので、双方向的な授業をするのが難しい面があります。それで、毎回いろいろな質問を履修者にして、その回答をプロジェクターに映しながら講義を進めています。ちなみに、履修者からの回答はスマホ・パソコンなどでその場でしてもらい、その集計は即座にプロジェクターに映せるようになっています。

 たとえば、今週の授業の最初には「村上春樹作品の登場人物の男性像」について、履修者たちがどのようなイメージを持っているか質問してみました。こちらで10の選択肢を用意しておいて、複数回答可で答えてもらった結果がこれです。

 

 

 もちろん、サンプル数が100余りですので、これが一般読者全体の傾向とまではいえません。また、回答者のほとんどが20歳前後の若者たちであること、これまでの授業を聞いてきて村上春樹作品に対する私の考えから影響を受けていること、などから、一定のバイアスがかかっているといえます。そういうことを割り引いた上でですが、村上春樹作品の男性登場人物たちを学生がどう見ているのか、それを知る手がかりになって興味深いデータです。

 回答の選択肢には、ポジティブなニュアンスの語とネガティブなニュアンスの語を両方入れておきました。そのどちらにも回答が集まっています。村上春樹作品が世界的に膨大な読者を獲得していることは間違いありませんが、一方で、読んで好きになる読者と嫌いになる読者が大きく分かれるともいわれています。今回の男性像への回答からも、好悪が大きく分かれる印象があり、たいへん興味深い結果になっていました。

 私は、村上春樹作品を授業で扱っているからといって、「村上春樹作品を好きになれ」といった姿勢では講義していません。よく知った上で、自分たちなりの判断をしてほしい。そういう姿勢で、今後も文学作品やフィクション作品を論じていきたいと思っています。

 

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 このブログでは3か月ごとにテレビドラマへの感想を書いていますが、NHK朝ドラや大河ドラマは放送期間が異なるので、あまり感想を書いていません。ですので、今回は『ばけばけ』のことを書きます。

 「明るく前向けな女の子が不幸や困難にも負けずに生きていく」…そんな朝ドラの典型が今回も踏襲されていて、その点ではあまり目新しくはありません。ただ、今回は「笑い」の要素がとても強いのが『ばけばけ』の大きな特徴です。「バラエティ番組のコントか!」と思われそうな場面がたびたび挿入されていて、従来の朝ドラよりも笑える要素がかなり強くなっています。話は「没落士族の家の娘が家族のためにラシャメン(西洋人の妾)になることを覚悟する」という内容ですから、かなり悲惨な内容です。それを暗くなりすぎずに見ていられるのは、この「笑い」要素のおかげでもあります。

 現代のテレビドラマには競争相手が多々あります。以前のような「テレビは娯楽の王様」という地位はもうありません。ですので、「笑い」要素を入れて視聴者を楽しませるのは意味のある策と思います。ただ、逆にいえば「笑い」だけではもっとお手軽な娯楽にはかなわないので、テレビドラマには「笑い」だけではない人間の描き方があってほしいものです。『ばけばけ』では今のところ「家族愛」の要素が強いのですが、これからいよいよヘブン先生(モデルはラフカディオ・ハーン)とトキ(モデルは小泉せつ)の夫婦愛が描かれていくのでしょう。この時代に文化も年齢も境遇も異なる二人がどのように心を通わせていくのか。その描き方に注目していきたいと思っています。

 ハーンの日本への視線には、かなり屈折した日本びいき/反西欧の感情が含まれています。しかし、そういうハーンの視線を経ることで、日本人の私たちが普段気づかない日本の美しさを再発見することがあります。このドラマがそういう役割を果たしてくれることにも期待したいと思います。


 

 

最初の写真は小泉八雲記念館(松江)の内部です。八雲(ハーン)は隻眼で視力が弱かったため、机が通常より高く作られています。眼と机面を近くするためです。

最後の写真は、ダブリン(アイルランド)で八雲(ハーン)が住んでいた家です。

いずれも現地で私(宇佐美)が撮影した写真です。

 

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