首都星ハイネセンの隣の惑星テルヌーゼンのとある小学校・・・。


 その4時間目・・・。
 今日最後の授業が始まろうとしていた。
・・・国語の授業である。


 「じゃぁ、みんな!今日は作文を書いてもらうぞ~!」


 先生のその言葉に生徒達は騒ぎ出す。


 「え~作文!いやだ~!」
 「やりたくないよ~!!」  


 大声で叫んだ子もいる。
 その子は、先生に「そこ静かに!」と、派手にチョ-クを投げつけられた。
 それがもろに額に当たり、「痛って~・・・」と言ってさすっていた。
 その様子を見た隣の席の子に笑われ、思わず「笑うな!」と大きな声を出す。
 「騒ぐなと言っているだろう。まだチョ-クが欲しいのか!」と先生に怒られて、慌てて口を噤んでいた。
 僕は叫びはしなかったけど、心の中で(作文だなんていやだなぁ・・・)と思った。


 先生から出されたテーマは、「憧れの人」で、そのテーマで1時間以内に作文を書くのだ。


 先生は、「憧れの歌手でもいいし、ご両親の事でも、友達でも誰でもいい。とにかく、自分が憧れている人にについて書いてほしい」と言った。
 「先生!質問してもいいですか?」と、女の子が挙手をした。
 「ん?なんだい?」
 「えっと・・・尊敬する人と憧れる人は違うんですか?」
 先生は「尊敬している人でもいいよ。とにかく、憧れとか尊敬とかをしていて、こういう人になりたいなぁ・・・みたいな人をの事を書いてほしい」と言ったので、その子は「分かりました」と首肯した。


 「じゃぁ、原稿用紙を配るぞ」


 先生は原稿用紙を配った。

 「原稿用紙は1人2枚だ。いいな~!」


 前の子から原稿用紙が回って来て、僕は2枚取って、後ろの子に回した。
 僕は喋るのも苦手だけど、作文もどちらかと言うと苦手なので、どう書いたらいいのか・・・と悩んだ。
 憧れている人・・・そんな事を急に言われても分からない。


 僕の両親はとっくに亡くなっていて、今は父方のお祖母さんとの2人暮らしだ。
 僕は気が弱くて引っ込み思案だから、仲の良い友達もいなかった・・・。
 お祖母さんは立体テレビ<ソリヴィジョン>があまり好きではないから、憧れの歌手なんていないし。
 それにドラマもあまり見ないから、好きな俳優や女優もいないし・・・。
 さぁ、どうしよう??
 僕は原稿用紙を前にして溜め息をついた。


 先生は机と机の間を行ったり来たりして、生徒に声を掛けている。
 僕はペンも持たずに俯いていた。


 「ウィリアム・メイヤー・・・どうした?書けないかな?」


 先生に言われて、僕はハッとして顔を上げる。


 「・・・えっと・・・誰でもいいんですか?」
 「誰でもいいよ。生きている人でも死んだ人でも。ただし、いくら憧れていても、架空の人物だけはダメだけどな。アニメーションのヒーローとかはダメだぞ?他のみんなも、架空の人物は厳禁だからな」

 その途端に笑いが起こった。
 生きている人でも死んだ人でもいい・・・先生は僕の両親がとうに亡くなっている事を知っているからそう言ったのだが、僕は・・・少しホッとしていた。


 そして、僕はたった1人、憧れの人がいた事を思い出した。


 あの時、思い切って話が出来ていたら・・・。
 あの人と握手が出来ていたら・・・。
 けれど、昔の僕は今以上に僕は人見知りが激しかった。
 なお且つ、引っ込み思案で、いつもおどおどしていた。
 僕は憧れの人を目の前にしてどうしようもないぐらい恥ずかしくなって・・・。
 憧れの人を目の前にしてドキドキして、逃げ出しくなって・・・慌てて祖母にしがみついていた。
 だから本当に気持ちを伝えきれず・・・。
 そんな僕の様子を見た祖母がこらえ切れずに助け船を出してくれたれど、僕は、「憧れ」の思いを相手に伝えられなかった。
 だから多分・・・相手に誤解されてしまった様な気がする。


 それは苦い思い出だった・・・。

 僕はあの日の事を思い出しながら、ペンを取った。


 


 あこがれのヤンていとく        ウィリアム・メイヤー


 今から5年前、ぼくが5才の時にお父さんが亡くなりました。
 ぼくのお父さんは、どうめい軍の軍人さんで、亡くなった時、お父さんは少佐でしたが、二かい級とくしんして、大佐になりました。
 ぼくのお母さんは、ぼくが2才の時に死んだので、ぼくはお父さんが戦死するまでは、母方のおばあさんと一緒に住んでいました。
 けれど、そのおばあさんが亡くなってすぐに、お父さんまで戦死したので、今度は、父方のおばあさんと一緒に住むことになりました。
 ぼくはそれまでハイネセンに住んでいたのですが、おばあさんはおとなりの星のテルヌーゼンに住んでいました。
 だから、会えるのは1年に1回ぐらいでした。
 おばあさんがテルヌーゼンにいるので、ぼくはハイネセンから、となりの星のテルヌーゼンに引っこすことになりました。
 おそう式の後、おばあさんの知り合いの人とかが来てくれて、ぼくの家のタンスや机とかの荷物せいりを手伝ってくれました。
 ぼくがおばあさんに「ぼくも軍人さんになって、お父さんのかたきをうつんだ」と言ったら、おばあさんはびっくりしていました。
 ぼくは気が弱いし、人みしりをします。
 人とじょうずに話せないし、運動も苦手です。
 そして、すぐにきんちょうしたり、はずかしくなってしまうのです。
 そんなぼくが軍人さんになりたいなんて言ったので、おばあさんはぼくのことを心配したみたいでした。
 でも、「ウィルががんばれば軍人さんになれるかもしれないわね」と言ってくれました。
 そして、いっしょにニュース番組を見た時に、「ヤンていとく」の話をしてくれました。
 ヤンていとくは、昔、エル・ファシルというわく星がこうげきされた時、300万人の民間人をだっ出させた英ゆうだと教えてくれました。
 みんかん人をぶじにだっ出させるなんてだれにも出来ないことだとおばあさんが言っていました。
 ぼくはその話を聞いて、ヤンていとくをすごい人だなぁと思いました。
 おばあさんは、番組を見ながら、お父さんだけじゃなくて、ぼくのおじいさんも、そのまたおじいさんも軍人さんだった話をしてくれました。
 だから、今は気が弱くても、りっぱな軍人さんになれると言ってくれました。
 ぼくは知らなかったのですが、ぼくのお父さんも、小さいころは気が弱くて、泣いてばかりいる子供だったと、おばあさんが教えてくれました。

 テルヌーゼンに行く日に、うちゅうこうへ行ったら、ぼくはニュース番組で見た、ヤンていとくを見かけました。
 ぼくが「おばあさん、あそこにいるのはヤンていとくだよ」と言ったら、おばあさんは「本当だわ。すばらしいことよ」と言って、ぼくの手を引いて、ていとくの所につれて行ってくれました。
 アスターテ会戦で、同めい軍はまけてしまったけれど、ヤンていとくのおかげで、大きなまけではなかったとニュース番組で言ってたのを思い出しました。
 ぼくは番組を見ている時に、おばあさんに、「あの人みたいになって、お父さんのかたきをうちたいな」と話したのです。
 だから、ヤンていとくを見た時、おばあさんは、ぼくのために、ていとくに声をかけてくれたのです。
 はじめて会ったヤンていとくは、とてもやさしそうな人でした。
 ぼくは茶色のかみの毛だけど、ヤンていとくのかみはまっ黒で、ぼくのお父さんのかみと同じ色でした。
 ぼくはあこがれのヤンていとくと会えて、とてもうれしかったです。
 でも、ぼくはとてもはずかしくて、そして、ドキドキしてしまって、おばあさんのうしろにかくれました。
 それで、ヤンていとくに、ちゃんとあいさつができませんでした。
 おばあさんは、ヤンていとくに、ぼくとあくしゅをしてあげてほしいと言ってくれたのに、ぼく自身があくしゅができなかったのです。
 おばあさんは僕がモジモジしているので、「なんです、ウィル、そんなことでゆうかんな軍人になれると思うの」と言ってくれましたが、ぼくはますますはずかしくなってしまいました。、
 ヤンていとくは、ぼくのようすを見て、ぼくが大人になるころには平和な時代になっているからと言ってくれました。
 そして、「ぼうや、元気で」と言ってくれました。
 その後、ていとくは用事があったのか、遠くに行ってしまったのです。
 せっかくヤンていとくと会えたのに、ぼくがそんな感じだったので、おばあさんはあきれてしまったみたいでした。
 もう少しゆうきを持って、ていとくにあこがれていることをお話して、あくしゅをしてもらえば良かったと思います。
 とくに、ヤンていとくはもう亡くなっているので、本当に、あの時にゆうきがあればよかったのにと、とってもくやしくてなりません。
 でも、ちょくせつ、ヤンていとくに声をかけてもらえたのは、ぼくにとって、とてもいい思い出です。
 ぼくは、今は軍人さんになろうとは思っていないけれど、ヤンていとくのように、色々な人からみとめられるりっぱな人になりたいと思います。




 僕は時間ギリギリまで作文を書いていた。
作文はどちらかと言うと苦手だったから、書きたい事はあっても思うように書けない。
 隣の席のナンシー・ブライトンは作文が得意らしいけど、どうしたら得意になれるのかな?
 作文が得意なんて羨ましいや・・・。
 でも、僕は言葉を選びながら一生懸命に書いた。
 作文を書き終わって、もう1度読み返して、誤字脱字がないかチェックした。


 「はい、みんな~作文・・・書けたかな?書けてない人は居残りして今日中に書いて、職員室にまで持って来て。書けた人は、後ろの人から前の人に作文を回して。前の人は教壇まで持って来て」


 先生の声。
 皆一斉に作文を回す。
 何人かが、「げ~居残りだぁ」との声を上げた。
 僕は時間内に何とか書けた。
 居残り組にはならなくてホッとしていた。 

 最前列の子がまとめて教壇まで持っていき、先生はそれをトントンと整えた。


 「じゃぁ、今日の授業はここまで」


 先生の声に、日直が「起立!」と声を出す。
 皆立ち上がって、日直の「礼!」の声に頭を下げた。


 先生が出て行くと、僕達は教科書を鞄に詰め始める。
 ・・・そして、居残りの子達と、掃除当番の子だけを残して、次々と教室を後にした。


 



 THE END




 100のお題より、「憧れの人」です。 

 もう、思いっきりマイナーです。
 何だかやりたい放題って感じですよ。


 ここに出て来たウィリアム・メイヤーですが、ウィル坊やと言ったら分かるかな?
 それでピン!ときた人はコアな銀河英雄伝説のファンだと認定します。

 誰かと言いますと・・・。
 憂国騎士団に嫌がらせをされたジェシカ・エドワーズを宇宙港まで送って行ったヤンが、そこで出会ったのが・・・メイヤー夫人とその孫のウィル坊や。
 ジェシカはテルヌーゼン行きのシャトルに乗り込んでいました。
 もしかしたら、「それ、誰だよ」って人がいるかもしれません・・・それぐらい、マイナーなキャラです。
 だって・・・。
 その時の1回きりしか出て来ないのです。

 ウィルだから、これは愛称なんだと思い、正式な名前を「ウィリアム・メイヤー」にしました。
 ウィリアムだと、ウィリーとか、ビルなんかも、愛称になるんですけどね。
 でも、原作にあったのはウィルだから・・・^^@


 原作では、メイヤー夫人ばかりが喋っていて、肝心なウィル坊やは、夫人の陰に隠れてヤンと話をしていません。

 メイヤー夫人は、夫や息子が名誉の戦死を遂げた事とか話した上に、ウィル坊やとヤンを握手させようとしています。
 原作では、怯えたような、ウィルの頑なな態度に居たたまれなくなったヤンは、「その子が大人になった時は戦争は終わっていますよ」みたいな事を言って、その場から逃げ出す・・・という描写ですが、もし、実際はメイヤー夫人が無理やり握手させようとしたのではなかったら?
 実は本当は、ウィル坊やはヤンに憧れているけれど、人見知りが激しくて、恥ずかしさのあまり、あのような態度に出ていたのだとしたら?
 そんな事を考え、ウィル坊やの立場で、しかも、その時から数年後のウィルの立場で書いてみました。
 しかも、作文という形態で^^@


 そうすると、メイヤー夫人の言葉は、孫に対する助け船の言葉に変化します。
 自分で書いていてびっくりしました・・・この発見には。
 視線を変えた場合、メイヤー夫人の言葉が違う輝きを放つ事に気付きました・・・これは本当に意外な発見でした。

 子供の作文なので、漢字ではなく、ひらがな・・・変換してしまいそうで、結構大変でした。

 学校の授業風景を切り取った作品ですので、銀河英雄伝説っぽくはありませんが。


 正史には全く影響がないエキストラ的なキャラクターですが、このメイヤー夫人は・・・忘れる事が出来ないキャラです。
 こういう、一見、どうでもいいようなキャラが輝いている小説って本当に素晴らしいと思います。


 その内に、肉屋に鶏肉を買いにくオーベルシュタインの事を、オーベルシュタインではなくて、肉屋のおかみさんの立場で書いてみるか・・・とか、ミッターマイヤーに黄色の薔薇を売ってしまった花屋の立場で書くとか・・・そう言うのも楽しいかな?って。
 そう考えると、色々な人の視点で、色々な話が書けそうだなぁ・・・って。
 意外な人物で書くと楽しいかも。

 オーベルシュタインの執事とかね。


 まぁ・・・。
 本当に書くかは・・・分かりませんが^^@
 

 
 



今日も、宝塚歌劇の花組の観劇だけど、実は、私は今日が見納め。

サブリナは、華やかだけど、とりあえず3回でいいかな。

それにしても、最近のヅカは映画が原作のが多いなあ・・と。
最も、その映画も原作があったりするのですが、それを無視しても、映画のが多い。

「カサブランカ」、「麗しのサブリナ」、「誰が為に鐘は鳴る」、「愛と青春の旅立ち」とくれば、「映画?」って思うでしょ。

でも、きっと観てしまうんだろうな。

映画なら、ある程度は内容が分かっているので、ストーリーを咀嚼しながら、観る舞台より、最初から、ジェンヌさん達や衣装やセットなんかをじっくり見られるもん。

サブリナもね、衣装とか、自動車とか、凄く綺麗で。
今日は2階の2例目なので、じっくり観られます。

あ、全くの余談ですが、月組の「ジプシー男爵」で、娘役トップがトルコ総督のお姫様様として着ていた黄色のワッカのドレスは、雪組の「ゾロ」の時に、となみちゃんが着ていたお衣装だとあちこちで書かれてます・・着回しですか・・それもコアなファンなら、すぐに気づく程の・・。







 士官学校の2年次の終わりに、リチャード・グレイ主任教官から呼び出されたヤンは言いようのない衝撃を受けた。


夢が断たれた瞬間であり、理不尽過ぎると憤った。
 それは、学業半ばで「戦史研究科」が廃止になり、他の教科よりも成績がいいという理由で、「戦略研究科」への転科を命ぜられたからだ。
 自分の意思ではない・・・急に迫られた“路線変更”に戸惑いを覚えた。


 ヤンは、元々、心から軍人を目指していた訳ではない。
 歴史が学びたくて、本当は大学の史学科に進学を希望していた。
 ところが、父親に大学進学の許可を貰った矢先に、その父親が宇宙船の事故で死亡した。
 父親のヤン・タイロンは商人であったが、ろくに遺産を残さず、遺族であるヤンに残されたのは父親の作った借金だけだった。
 骨董収集が趣味の父親のコレクションを借金の返済に充てようと思っていたヤンだったが、本物はたった1つしかなかったので当てが外れて、進学を諦めざるを得なかった。
 それでも、何とかしてタダで歴史を学べるところはないだろうかと探し回った結果・・・。


 士官学校の「戦史研究科」ならば、戦史に限定はされているものの、“タダ”で勉強出来る事を知った。
 卒業後、軍人になるしかなかったが、色々と調べたら、「戦史研究科」の卒業生は、殆どが「戦史編纂室」という部署での勤務との事だった。 
 それならばなんとかなりそうだったし、前線に送られる事もないのが魅力・・・これがヤンの士官学校への進学理由だった。


 こんな事、他の士官候補生には言えない話だが、ヤンにとっては“重要”だったのだ。
 ヤンは、戦史研究の成績だけがずば抜けて良く、それ以外の教科は低空飛行だった。
 赤点スレスレの成績の教科も多かったが、元々、軍人志望ではなかったので全く気にしておらず、教官達からすれば不真面目な学生だった。

 学生の募集だけしておいていきなり辞めるのはフェアじゃない!と、ヤンは教官に意見した。


 ヤンの言い分は尤もだったが、財政難である昨今、前線で早々と活動出来る科に比重をかけたい同盟軍にとっては、戦史の研究はハッキリ言って無駄だった。
 それで、思い切って仕分け対象にしたのであった。
 教官は、君には辞める権利はあるが、今辞めたら、それまで免除されていた授業料と、士官学校生に支払われていた僅かばかりの給料の返還を求める事になると説明し、ヤンは退路を断たれた・・・どうあがこうとも軍人になるしかなかった。
 本当はタダで学べていた訳じゃなかったのだ。
 士官学校に入った時点で、下士官待遇であり、既に軍人・・・その事にもっと思いを馳せるべきだったのだ。
 将来軍人になる者だけがタダで学べるのであって、それを途中で辞める場合は、それなりのペナルティーが科せられる・・・という訳である。


 「戦略研究科」は秀才揃いであり、入学時に「戦略研究科」を希望をしても成績で振り分けられて、他の科に流れるのが常である。
 ヤンのように、途中での転科が認められるのは稀有な事だった。
 反対に、「戦略研究科」に入ったものの、成績が振るわずに他へ転科する者の方が多いのだとヤンは主任教官から言われた。
 そして、悪い話ではないからと、教官から昏々と諭された。


 ヤンの転科が認められたのは、進級時の大事なテストで、戦略・戦術シミュレーションを行った際に、“10年来の逸材”と言われている、主席のマルコム・ワイドボーンを打ち破った実績を買われたのだ。
 その時、ヤンの評価を下したのが主任教官のリチャード・グレイ教官だった。
 また、そのシミュレーションの成績表を目にしたシドニー・シトレ校長もその結果に興味深げだったし、主任教官から意見を求められた校長は、ヤンの転科について許可を出していたのだ。



 「戦史研究科が廃止か・・・。学生20人が他へ転科・・・と。機関工学科に3名、航空科に4名、経理研究科に3名、情報処理科に8名・・・と。・・・ん?戦略研究科に2名・・・と。あれ?ヤン・ウェンリーって・・・あぁ、あいつか。あの秀才揃いの科に移るのか・・・。ここに入ったのはタダで歴史を学びたいと言う話だったが・・・。花形セクションの科に転科とは意外だったな・・・」


 事務長のアレックス・キャゼルヌは転科の書類を作成しながら、自分より6歳年下の後輩の意外な“路線変更”に驚いてた。




 「ええ!先輩って最初から『戦略研究科』じゃなかったんですか」


 二期下のダスティ・アッテンボローに言われて、士官学校3年生のヤンは「そうなんだよな」と頷いた。
 因みにアッテンボローは機関工学科に籍を置いていたが、ヤン同様に戦略や戦術を考えるのは得意だったようで、シミュレーション室で顔を合わせる事が多かった。


 「『戦史研究科』って、去年廃止になってたんだ・・・知らなかった・・・」


 アッテンボローは今年の入学生だったが、去年の願書の書類には既に「戦史研究科」の名前はなかったそうでヤンを苦笑させた。
 最近、更にヤンを苦笑させたのは、今年、同盟軍の「戦史編纂室」の勤務に就いた新人は、大学の史学科の卒業生だと聞いた事だった。
 大学進学を諦めて士官学校への入学をきめていたヤンにとっては皮肉な結果と言えた。


 「でも先輩・・・戦略を立てる際、歴史って役立つんじゃないですか?」
 「・・・ん、まあね」


 過去の戦闘を知っているのと知らないのとでは、かなりの差が生じる。
 知っていれば、過去の戦闘での失敗箇所に手を加えて、より強固な戦略を練る事も可能だった。
 実際にヤンの戦略の多くは、過去の産物に独自の見解や修正を加えた物が多い。

 ヤンにとっての不幸中の幸いは、「戦史研究科」が廃止になったと言っても、戦史死に関する書物が学校の図書室から運び出された訳ではなかった事だ。
 こうなったら、歴史の勉強は独学でするしかない・・・とヤンは腹を括った。
 ヤンは、今まで以上に図書室に通い、歴史に関する本だけを熱心に借りまくった。





 「ちょっと試したい作戦があって・・・誰か、シミュレーションに付き合ってくれないか?」


 そう言って、ヤンは戦略研究科の同級生に対戦を頼んだ。
 戦略研究科の在校生は、シミュレーション装置を日常的に使う事を許可されている。
 ゲーム感覚で作戦案を試してみたりして、シミュレーション室に自由に出入りしていた。
 ヤンも時々はシミュレーション室に行くのだが、他の学生にあまりいい顔をされない。
 
 「・・・やるのはいいけど、どんな作戦案だ?」
 「あっと・・・これなんだけど。赤い方の受け持ちがこっちで、黄色い方がそっちの受け持ちでやってみたいんだけど」


 学年3位の、これまた秀才のクリストファー・マリガンにヤンは作戦案を見せた。
 マリガンはワイドボーンの親友で、いつも彼にくっついている。
 だが、ワイドボーンよりは人当たりが良いので、比較的声を掛けやすい。


 「・・・黄色い方を俺がやるのか?これだと、俺が圧倒的に有利だぞ?」


 その言葉を聞いて、それまで他の場所でシミュレーション装置をいじっていたワイドボーンが眉を顰<ひそ>めた。
 ヤンの作戦案などに興味無い素振りを見せていたが、ヤンが作戦案をマリガンに見せた事に引っかかりを覚えたのだ。


 「おい、俺にも見せてみろ」


 横合いからヤンの作戦案を取り込んだシミュレーション装置を覗き込む。
 「あ・・・えっと・・・」
 口ごもるヤン。
 ワイドボーンにはあまり見せたくはなかったのだが、見られたものは仕方ない。

 「・・・俺がやってみる。いいな、マリガン」
 「え、ワイドボーンが?」
 


 ワイドボーンが即断したので、マリガンは目を丸くした。
 だが、マリガンは慌てて頷く。
 ワイドボーンは、自分の受け持つ黄色の艦隊数がヤンの赤い艦隊の艦艇数を凌駕している事と、その布陣を見てニヤリと口の端を上げた。


 「こっちが黄色い艦隊でいいんだな?」
 「あ・・・そうだけど」
 「分かった。すぐにやろう」


 マリガンはワイドボーンが自ら引き受けた事に驚いたが、ワイドボーンなら軽く勝利するだろうと思った。


 その場にいた者達が見守る中、ヤンとワイドボーンの対戦が始まった。
 真っ黒いディスプレイに艦影を模した光が点滅する。
 ヤンは2万隻の艦隊・・・色は赤。
 ワイドボーンは、3個艦隊で4万5千隻で色は黄色。
 どう見ても、ワイドボーンの方が艦隊数が多い・・・そして、その布陣は・・・。


 「ダゴン星域会戦の時と一緒だな。・・・俺が勝つさ」


 “ダゴン”と聞いて、マリガン、その他の仲間はヤンの負けを予想した。

 宇宙暦640年に大挙して同盟領に遠征して来たヘルバルト大公率いる銀河帝国軍。
 それが、自由惑星同盟と銀河帝国の最初の接触だった。
 同盟軍総司令官リン・パオ、総参謀長のユースフ・トパロウルの両中将は、ダゴン星域で地の利を生かして、銀河帝国軍を包囲殲滅させたのだ。
 以降・・・。
 一世紀半に及ぶ・・・2つの国の戦闘の幕開けだったのだ。


 ヤンがやろうとしているのは・・・それと似たような布陣である。
 大体、2万隻足らずの艦隊で、3方向から迫りくる合計で5万5千隻の艦隊にどう対処しようと言うのか。
 3倍の兵力差・・・尋常ではない。


 約1名、シミュレーション室にたまたま来ていた情報処理科の学生がいたが、彼だけはヤンの味方だった。
 彼は「戦史研究科」から「情報処理科」に転科になった学生で、ヤンの親友のジャン・ロベール・ラップである。




 シミュレーションの結果は・・・圧倒的にヤンの勝利だった。
 ヤンは、ワイドボーンの艦隊に対して各個撃破の策に打って出たのだ。


 「・・・発想の転換をしないと。ダゴンの時はダゴンの時であって、いつもそれが通用する訳じゃない」


 勝利の後、そう呟くヤン。
 それに対して、ワイドボーンは口を歪めた・・・ひとくさり、嫌味を言わねばやってられない。


 「大した自信だな。途中で転科してきた“秀才”の言う事はさすがに一味も二味も違う訳だ」
 「秀才じゃないけど・・・」
 「へえ、殊勝に謙遜する訳か。・・・いいか。・・・こんなシミュレーションで勝ったからって、偉そうにされても困るんだよ」


 ワイドボーンは苛立たしげに、自分の仲間を引き連れてシミュレーション室を後にした。

 あとに残された格好のヤンは大きく息を吐いた。
 
 「・・・正攻法にこだわるのもいいけれど、柔軟性が欠けてるな・・・」


 ヤンはワイドボーンに柔軟性が欠けていると評価した。
 そして、(また嫌われたな・・・)と溜め息をついた。


 「さて・・・と」


 ヤンは欠伸をしながら、シミュレーション装置の電源を落とした。
 
 「・・・ったく。嫌味な奴だよな、ワイドボーンは。偉そうな態度をしているのはそっちだって言ってやればいいのに。昔から態度がでかかったが、益々磨きがかかったな」
 「・・・ん?」
 「いや、一時期、同じ小学校に通っていたんだ」
 ジャン・ロベール・ラップの言葉に目を丸くするヤン。
 「そうだったのか。・・・遊びでも、負けるのは悔しいのかな?」
 「あいつ、子供の頃から完璧な勝利を科せられていたんだ。確か、親も戦略家で参謀とかをやっている軍人だったはずだよ。100点以外は絶対に認めない・・・そんな感じの人でね。あいつ・・・幾つもの塾や習い事を掛け持ちしてて、同級生と遊んだりしていなかった。・・・遊びに行った友達の話だと、『息子の為にならないから成績の悪い子はもう来ないでほしい』と言われたらしくて憤慨していたっけ。実は俺もその1人でね。だから、あいつの周りにはあいつと同じような成績で、あいつと同じ価値観を持った連中しかいないんだ」
 「なるほどね・・・」


 実は、ラップとワイドボーンは小学校時代、一時期、同級生だった事がある。
 ラップ家が家を購入した為、4年生の半ばで引っ越したのだが、3年生から4年生・・・つまり、引っ越す前までは同じクラスだったのだ。


 「あの頃から勉強漬けでね。・・・何でも一番でないとダメだった」 
 「そういう環境だったのか・・・良くそれで反抗とかしなかったな・・・」
 「本当にそうだよな。俺は勉強の事で親に煩く言われた事はないし、叱られた記憶もないんだが・・・なぁ、ヤンはどうだった?」
 「うーん・・・。宇宙暮らしが長かったから学校には通わずに通信教育で勉強していたけど・・・。親に特に勉強しろって言われた事はないな。勉強の事では怒られなかったから、その点は親に感謝をしている」



 ヤンはそう言いながら、ワイドボーンの事をチラリと考えてみた。
 ワイドボーンは、親の敷いたレールを何の疑いもなく歩み続け、“路線変更”なんて、これっぽっちも考えた事はないんだろうな・・・と、ヤンは漠然と思ったのだった。





THE END





 100のお題より「路線変更」です。


 ヤンがやったシミュレーションはアレ。
多分・・・ダゴンを模したシミュレーションだと思う。

 でも、立場を変えると、アスターテ会戦とほぼ同じ状況では無いかと。
 だからこそ、試してみる価値があるシミュレーション。


 ヤンも、ラインハルトと同じ立場なら、同じ行動をしたのではないかと思います。

 ただし、それは味方が整然と行動してくれないと成功はしませんが。

 リチャード・グレイや、クリストファー・マリガンはオリキャラです。


 士官学校時代の話なので、本当の事を言うと、「衝撃」でも、キャゼさんや、ラップ、アッテンボローを出したかったのですが、あそこじゃ出せなかったので、この「路線変更」で3人を出す事が出来ました。
 まぁ、ラップとワイドボーンが・・・幼なじみってのは、私の勝手な妄想の産物なのですが^^


 ヤンとワイドボーン・・・上手く結び付いたら最強なんだろうけど、ヤンとは全くソリが合いません・・・^^@

 原作であまり出て来なかったのでその為人<ひととなり>を想像するしかないのですが、断片的に拾い集めただけでも、ワイドボーンは融通の利かないタイプだな・・・と思いました。


 それを10年来の秀才と言っていた同盟軍の人達って・・・。
 ワイドボーンは、帝国でも同盟でも使えない人だと思います。


 OVAで一時期、ラインハルトの副官に抜擢された、フェルデベルトなる人物が描かれていました。
 彼は士官学校を優秀な成績で卒業したのに全く使い物にならず、とうとう解任されて、その後釜に座ったのがシュトライトでした。
学校の成績が良くても、社会に出て、実際に使えるかと言うと・・・必ずしもそうではない。


 私の以前の職場で、何かと言うと「僕は青学(青山学院大学)を出ているんです」と言う後輩がいました。
 確かに学歴は凄いのだけど、新規開拓に行かされてもちっとも新規開拓出来なくて。
 高卒の男の子の方が、よっぽどシッカリしててちゃんと新規を取って来る。
 オマケに体育会系の男の子だったので、挨拶も元気が良くて、実に清々しかった・・・反対に青学君は挨拶もろくに出来ず、とにかく暗いのね。
 学歴じゃないんだ・・・要はどれだけ社会性があるかって事で。
 女の子にアッシー君代わりにこき使われて、あっちの顧客の所に連れて行って、こっちの顧客の所に・・・って。
 私もかなり離れた顧客の所に自転車じゃ無理だから、運転を頼んだ事がありましたが、「はい、いいですよ」って。
 恥ずかしくないのかな・・・とは思ったんだけど、とにかく、仕事が出来なかったです、その人。
 自分は頭がいいんだって事を言うのだけど、それならそれを仕事で生かせば?って感じで、女子社員も呆れていました。
 同じ営業の社員として、「あんた間違っている」と言ってあげたかったけど、それを言う前に辞めてしまいました・・・やっぱりこの仕事は自分には合わないって。
 辞めた後で、公務員試験を受けると言っていましたが、結局、受からなかったみたいで、なんだったんだ、あいつ?って感じです。


 ワイドボーンも、頭でっかちで融通が利かず・・・。
 こういう人ですから、早々に戦死してしまったのは仕方ないのかも。