僕がトラバース法に従ってヤン大佐の所に引き取られてから・・・今日でちょうど1週間目になる。
今から2週間前・・・。
僕のいた施設にキャゼルヌ少将が訪ねて来られた時、本当の事を言うとかなり緊張した。
僕の父は軍人だったけど、家に同僚が来た事は殆どなくて、父以外の他の軍人を沢山見たのは、父の葬儀の時で、それ以降は祖母との生活だったので、軍とは無縁の生活を送っていたから。
午前11時に軍の偉い人が訪ねて来ると、民間の児童養護施設「輝きの家」の先生達が朝食の席で話していのを僕は偶然に聞いてしまった。
その時は、それが僕に関わって来るなんて知らなかったけど。
理事長先生を訪ねて来られるらしいので、先生達は朝からその準備に余年が無かった・・・。
先生達は、とにかく、そわそわしていた。
そして、僕は朝食後に理事長先生に呼び出されて、今日は学校を休むように言われたのだった。
僕が理由を尋ねると、「実はね、ユリアン君。軍の偉い方がここに来られるのだ。君にとって大事なお話をして下さる事になっている。時間になったら呼びに行くから、それまで部屋で本でも読んで待っていなさい」と言われ、僕は言葉に従って部屋で待機していた。
理事長先生は“大事な話”としか言わなかったけれど、僕はもしかして“トラバース法”の事なのじゃないだろうかと思った。
僕は今、祖母が亡くなった為にこの施設にいるけれど、僕の亡くなった父は・・・同盟軍の軍人だったからだ。
施設の理事長先生や他の先生達も、来られたのが軍の高官なので気を使っておられたけれど、訪ねて来られた少将の印象は悪くは無かった。
階級章を見た途端に僕は相手が、“少将”だと分かったのだけれど、アレックス・キャゼルヌと名乗られた少将はにこやかに微笑まれた。
「理事長。・・・出来れば、この子と2人で話をさせて頂けませんか?」
「あ・・・はい。それは勿論・・・。では、我々は外に出ましょう」
理事長先生は、他の数人の先生方と一緒に部屋から出て行かれて、僕は誰もいなくなった応接室でキャゼルヌ少将と向き合った。
「・・・さてと。うるさ方がいなくなったところで・・・。これでゆっくり話が出来るな。実は君のお父さんとは縁があってね。ミンツ大尉は部下だったんだ」
僕は久し振りに聞く父の名前に驚いた。
父の方が部下だったと言うけれど・・・少将は、多分・・・僕の父よりも幾分か年下だと思われた。
あぁ・・・随分、エリートなんだな・・・。
でも、全然、気取った感じも無く、同じ目線で話して下さっていて、僕の張を解く為だろう。
少将は、まず、当たり障りの無い世間話から入られた。
「君は・・・何か、得意なスポーツはあるかい?」
「はい。フライングボールが得意です。クラブに入りたいのですが・・・」
「入ってないのか?」
「本当は入りたいのですが、僕がいるのは・・・施設ですから、下の子の面倒を見たりとかしなければならないのでクラブに入ると・・・その・・・」
僕がそう答えると、キャゼルヌ少将は、急に真面目な顔をされた。
「ふむ・・・。そうか。さて・・・と、君はトラバース法を知っているかな?」
「はい、大体の事は」
「トラバース法と言うのは、この法律の発案者の名前を取っているんだ。正式には『軍事子女福祉戦時特例法』という。これは、戦災遺児を軍人の家庭で養育する法律なんだ。銀河帝国との長引く戦闘状態で、慢性的に君のような戦災遺児が生まれてしまっている。そこでその孤児の救済と、同盟軍の人的資源確保を目的として作られた・・・という訳だ。・・・知っているかな?」
「はい。学校で習いました。孤児を他の軍人家庭で養育する法律だと先生が言っていました。・・・僕のクラスにも、僕以外に孤児が3人います。皆、トラバース法で軍人の家庭に預けられています。・・・施設にいるのは僕だけなんです」
「そうか。それなら話は早い。要するに、トラバース法で戦争孤児を養育する家庭は、孤児が15歳になるまでの養育するんだ。その期間の養育費は政府から貸与と言う形で支給される。期間終了後の孤児達の進路選択は本人の自由だが、軍人或いは軍事関連の仕事に就けば養育費の返還が免除される・・・と言う訳だ。君はお父さんが亡くなられた後は、父方のお祖母さんと暮らしていて、その後、この施設へ来たと聞いているが」
「はい。・・・2年前からです」
戦争孤児となり、誰かが引き取り手となった時点でトラバース法の対象から外れる事が多いが、僕の場合は事情が異なっていた。
祖母は、僕を引き取ってから2年後に脳溢血で急死してしまった。
祖母は、あからさまに体罰での虐待はしなかったものの、僕の母を「息子を奪った女の子供」として扱い、僕に話しかける時は命令形と禁止系の言葉を使っていた。
僕が他人から褒めれると自分の教育の賜物だと吹聴し、逆に悪い事が起きると祖母の恩を自覚していないと罵られた。
僕の幼い頃の写真は、いつの間にか祖母の手で全て焼き捨てられ、僕には居場所がなかった。
そんな訳で、僕は祖母が好きに離れなかったし、祖母が亡くなった時、涙が全く出なかったし、葬儀の後、すぐに施設に入ったのだった。
僕の場合は育った環境のせいで、すぐにはトラバース法の対象にはならなかったと、キャゼルヌ少将に言われて、そうだったのか・・・と合点がいった。
祖母以外には身寄りがなかった僕は、この施設へ来てすぐに、施設の女の先生の1人に実父が軍人だったと話し、彼女からトラバース法の話を聞いていた。
そして、いずれ、その対象になるのではないかとの思いを抱いていたし、もしそうなったら、どんな人の所で養育されるのだろうかと、多少の不安も感じていた。
トラバース法の対象となれば、将来は軍人にならなくてはならないのだろうし・・・。
「君は・・・ヤン・ウェンリーと言う名前を聞いた事があるかい?」
意外な名前に僕は息を呑んだ。
とても有名な・・・大佐の名前。
雑誌や立体テレビ<ソリヴィジョン>で大きく取り上げられている人。
「ヤン・ウェンリーって、エル・ファシルの英雄ですよね?」
とにかく有名で、学校の先生や施設の先生達からも聞いた事があった。
だから・・・名前だけは知っていた。
多分、ハイネセン中の人間が・・・いや、同盟全土の人間が「英雄」の事を知っているのではないだろうか?
僕の反応を見て、キャゼルヌ少将は苦笑を浮かべられた。
「・・・英雄ねぇ。・・・ったく、あいつも、すっかり有名人だな。そう、そのヤン・ウェンリーが君の保護者となるんだ」
「え・・・??」
僕は目を丸くした。
一瞬、耳を疑った・・・ヤン大佐が僕の保護者に!?
「驚いたかい?」
「はい・・・あの・・・」
「まぁ、あいつは独身だから、本来は対象から外されているんだが、彼の所に行く事に異議はあるかな?」
「いいえ。僕には異存はありません。ヤン大佐の素晴らしさは色々な所で聞きますし。でも、僕でいいんですか?」
「ヤン大佐の素晴らしさか・・・。君が失望しなきゃいいんだが」
「え?」
キャゼルヌ少将の含み笑いに僕は一瞬、戸惑う。
なんだろう??
ヤン大佐って・・・何かあるのだろうか?
「いや・・・何でも無い。君のOKが出たのですぐに手続きを行おう。転校の手続きやら、住所変更や、引越しやら、色々な雑事があるが、まぁ、一週間もあれば片付くだろう。そうしたら、君はヤンの所へ行くだけだ。君にとっては、これから大変な事も多くなるだろうが、君だったら十分にやって行けるだろう」
こうして、僕はヤン・ウェンリー大佐の被保護者となったのだった。
僕が初めて大佐の所に行った時、大佐は起き抜けだったみたいで、パジャマは着崩れていたし、髪はボサボサだった。
おまけに片手にプラスチックのコップを持ち、口には歯ブラシが突っ込まれて泡が立っていた。
そして・・・もう片手でグシャグシャと髪を掻き回して、僕をボーっと眺めていた。
(・・・本当にこの人がヤン大佐なのかな?)
一瞬たじろぐほど、ヤン大佐の姿は強烈で、僕の中に作っていたイメージとはかけ離れていた。
あの「エル・ファシルの英雄」だって言うから・・・。
規律正しい軍人然とした、堅苦しい感じの人を想像していたのだ。
僕は・・・正直言って、拍子抜けしてしまった。
英雄像が音を立てて崩れていった。
そして・・・。
大佐の住む官舎内は凄い事にになっていて・・・室内へと一歩入った僕は思わず息を飲んだのだった。
「あ~・・・なんだ。そう、散らかっているだろう」
大佐はそう言って髪をボリボリと掻いていたけれど、これが本当にヤン大佐の部屋なのかと疑ってしまったほどだ。
僕がイメ-ジしていたのは、英雄という呼称に相応しい威厳のある人だったから、その対極にあるように思えた。
大佐の自室は衣類と書籍が散乱していた。
衣類は、洗濯してある物か、汚れ物か判然出来ず、それこそ目を覆いたくなうようなグチャグチャ振りだった。
普段はキチンとしているけど、今日はたまたま凄いとか?
・・・そんな事も考えてみたのだけど、1日でここまで凄く汚すのも結構至難の業だと思った。
きっと、いつも凄い生活状態だったんだろうな・・・と、僕は腹を括ってキッチンを覗いてみた。
案の定、キッチンも凄かった。
いつの物か分らない皿とかコップなんかの洗い物がシンクにたまっていた。
それに、いつの物か分からないような、カラカラに乾涸びた食材の乗った皿や、半分飲んでまま放置されたミルクのコップや、腐って変色した果物がテーブルの上に平気で置いてあった。
もう、大佐には悪いけれど、正直言って物凄く不衛生で、不潔だった。
これでは、何か変な虫でも沸いて出そうな・・・。
僕は「これはもう僕がやるしかない!」って思って、大佐の承諾も無く、部屋中を片付けて回った。
そんな僕の行動に大佐は目を丸くしていた。
(そりゃ・・・到着早々に掃除を始める子供なんて普通はいないだろうな・・・)
僕自身、自分の行動に苦笑していたのだけど、僕が掃除や洗濯を始めた時、途方にくれた顔をしていたヤン大佐。
「・・・一応自分でやる事にしているんだけどなぁ・・・散らかっていても、大体、どこに何があるかぐらいは分かってるし・・・」
だけど、洗ってピカピカに磨かれ、元の輝きと取り戻した茶器。
その茶器で淹れた美味しい紅茶と、簡単だけどちゃんとした暖かい手料理は喜んで下さったようだ。
「これは美味い!これほど美味い紅茶を飲めるなんて・・・。こんな紅茶を飲めるのは専門店ぐらいだと思っていた」
「僕の亡くなった父は無類の紅茶好きでした。それで茶葉の選び方や淹れ方を僕に教えてくれたんです。大佐が紅茶好きで嬉しいです」
やがて掃除は一段落し、本はキチンと本棚に納まり、寝室のシーツはパリっとして、洗面所のタオルも真っ白になった。
「・・・うん、手確かにキレイだね」
柔軟剤も使ったからフワフワになったタオルで顔を拭かれて、その柔らかさに大佐は苦笑を浮かべられた。
「・・・そうか、手間をかけてちゃんとやれば、柔らかくなるんだなぁ」
そう言って頭を掻いておられたけど、今までハウスキーパーとか頼んでいらっしゃらなかったのかな?
大佐は、快適な生活空間作りを自分でやらなくても、『いつもなっている』事に徐々に慣れて下さった様子だった。
「ユリアン、ありがとう」
と、僕が淹れた紅茶を嬉しそうに紅茶を啜った。
その日の夕食時。
僕が作ったオムレツやサラダを食べながら、満足そうな表情を浮かべていた大佐は、食後の紅茶を飲みながら、急に真顔になった。
「なぁ、ユリアン。君が私よりもずっと料理が上手いのは認めるけどね、私は家政婦代わりに君をここに呼んだんじゃないんだから、子供は子供らしくね。無理をする必要は無いんだよ」
「はい」
僕は大きく頷いた。
「ほら・・・子供は学校で勉強したり、友達と遊んだり、それは別の意味で忙しいと思うんだよなぁ・・・そうだろう?」
「はい」
「だから家事は・・・言ってくれれば私も手伝うからね。さっきも言ったけど、ユリアンは家政婦じゃないんだからね」
「はい」
僕はまた大きく頷いた。
僕は掃除や洗濯などの家事を苦痛に思った事は1度も無い・・・祖母のところにいた時も出来る事は自主的かつ、積極的やっていたし。
僕は料理も好きなのだ・・・実は、これも父から教わったのだけど。
「僕・・・家事は得意な方なんです」
僕が言うと、「・・・私はまるでダメだけどね」と、大佐は僕の顔を見て少しだけ笑ってくれた。
そして、ヤン家に来てから1週間後の夕食時・・・。
「なぁ、ユリアン・・・学校には慣れたのかな?」
「はい」
「学校で困った事があったらすぐに言うんだよ」
「はい」
僕が「はい」としか言わないのが少し気になられたのか、大佐は苦笑して話題を変えて下さった。
「そうだ。友達は出来そうかい?転校生は色眼鏡で見られがちだから。まぁ、ユリアンはうまくやって行けるだろうとは思うけれどね」
「えっと・・・クラスの中に、何人か友達も出来ました。皆、親切で、校内の案内とかしてくれたり、クラブ活動の事を教えてくれたりしました」
僕がそう言うと、大佐は「それは良かった」と、自分の事のように喜んで下さった。
「そうそう、クラスの友達は僕がヤン大佐と住んでいると知って、大佐に会いたいなんて言ってます」
僕がそう言うと、ヤン大佐は頭を掻いて「会いたい・・・ねぇ。会ったらガッカリするだろうね」と笑われた。
そして、また巧みに話題を変えてしまう。
「そうだ、ユリアン。・・・何か、クラブ活動の事を聞いたのなら、クラブに入ったらどうだい?文科系やスポーツ系とか、色々あると思うよ」
「友人からフライングボールのクラブに入らないかと誘われているのですが・・・。フライングボールの強豪校なんです、編入した学校・・・」
「あの学校はフライングボールの強豪校だったのか。そこから誘われたのなら・・・それは凄いじゃないか」
「はい。生徒は必ず何かのクラブに所属するのが学校の決まりなのだそうです。幸い僕はフライングボールは得意な方だし、体育の授業の時に見ていた友人や先生に是非入るようにと言われて・・・」
僕はいつになく、饒舌になっていた。
僕が編入した学校は、フライングボールの強豪校で、そんなクラブに誘われたのが嬉しかったのだ。
「でも・・・。クラブに入ると朝も夜も練習があるんです。そうなると帰りが遅くなってしまうので、大佐にご迷惑をかけてしまうかもしれなくて・・・それで、考えあぐねているのですけど・・・」
僕の立場は微妙だ。
一応、僕の保護者は大佐だ。
しかし、軍人の孤児を軍人の家庭で養育するトラバース法という制度でここにいるだけで、僕は大佐の養子になった訳ではない。
大佐のご迷惑になるのなら、クラブ活動は自粛しなくてはならないし、担任の先生もその辺の事情を汲んでくれていた。
「学校の決まりと言っても無理はしなくていいからね。保護者の方と、良く相談して決めなさい」
先生はそう言って下さった。
先生も僕の保護者が、ヤン大佐菜のを知っていて、気を使っているようだった。
「あぁ、それなら大丈夫だよ。遅くなるとひとこと言ってくれればいいんだから。それに、こういう事は若い時にしか出来ないしね」
大佐がにこやかに微笑んでくれたので僕は頭を下げた。
「ありがとうございます。早速、明日にでも入部届けを出します。・・・僕、やりたかったんです」
ヤン大佐の言葉が嬉しかった。
本当のところ・・・僕は施設にいた時は、入りたくたって、クラブには入れる事が出来なかったからだ。
フライングボールは授業でしかやった事が無かったけれど、とても得意だったし、前の学校でも、友人達には何度もクラブ活動に誘われていた。
でも、施設では毎日のように下の子の面倒を見なければならなかったし、その前に一緒に暮らした事のある祖母の時も、僕には自由な時間が殆どなかった。
だから・・・クラブ活動は僕の小さな夢だったのだ。
フライングボールは、室内の重力をギリギリまで弱めた状態のドームの中で行う競技で、大抵の学校には、この球技の為のドームがある。
学校でもこれだけ盛んだし、街中にも「草フライングボール」のド-ムがあちらこちらにあって、国民的スポーツになっている。
勿論、プロチームもあれば、実業団のチームもあって、僕はプロチームでは、ハイネセン・レッドイーグルスのファンだ。
ハイネセンには、ハイネセン・タイガースというチームもあって、こちらはファンが熱狂的で怖いぐらいのチ-ムだ。
スタジアムの周囲には、虎模様の揃いのシャツを着たファンが沢山いて、周囲の店も個性的で、虎模様の壁の店とか・・・本当に凄い。
ハイネセンで、他に人気がある球技は、ベースボールとフットボール、バレーボール、あとはテニス。
他にも球技はあるけれど、人気があるのは、この4つとフライングボールだ。
昔はバスケットボールが大人気だったみたいだけど、今は、フライングボールの方が派手なので、こちらが主流になっている。
「ところで・・・大佐はスポーツでは、何がお得意だったんですか?」
「え?」
「あ・・・球技とかで」
「うーん・・・どうだろうね。キャッチボールがとても苦手な上に、打席に入れば三振ばかりだったからベースボールは全然駄目だったね。バレーボールやフライングボールも話にならないぐらい下手くそだったし。フットボールもパス回しが・・・まるでダメだったね。恐ろしく足も遅かったから。テニスは論外だし。・・・それに子供の頃から宇宙暮らしをしていたから、ちゃんと学校に行ったのはほんの少しだったんだ」
「そうなんですか」
「勉強は殆んど通信教育だったんだ。友達もいないから、球技って殆どやっていないんだ。・・・それだとやっぱり苦手にもなるだろう?」
「・・・そうですねぇ」
殆ど言い訳にしか聞こえないけど、確かに1人では大人数でやる球技は不可能だ。
僕は何と答えて良いか分からず、ちょっと笑って誤魔化す。
「それでも唯一やったのは卓球かな」
「・・・地味ですね」
つい・・・地味だなんて言ってしまって僕が慌てると、大佐は「あ~・・・確かに」と笑みを浮かべられた。
僕の不用意な言葉に怒りもせずに微笑んでくれた。
「地味・・・だね、確かに。でも、あれは重力さえ制御で切れば宇宙船の中でも出来るし、第一場所を取らないからね。一対一で出来るだろう?テニスも一対一だけど、あれは場所を取ってしまうしね」
「・・・それでお得意だったんですか?」
「どうかなぁ・・・大して上手くもなかったよ。人に自慢出来る腕じゃない。勝ったり負けたりだったしね。そう言えば、親父は『卓球は民族的には伝統のスポーツでお家芸だ』とか言っていたけど、あれはどういう意味だったのかなぁ?クルー達も息抜きに卓球をやっていたけど、あれは親父が『相手をしろ』とうるさいからやっていたに過ぎないし。それにね、親父はお家芸と言うわりには物凄く下手でね。皆に『船長が一番下手だ』って笑われていたんだ。・・・本当に私以上に下手だったんだからね」
「そうなんですか」
「うん・・・それに、今更やりたいとは思わないね」
「何でやりたくないんですか?」
僕が尋ねると、大佐は頭を掻いた。
「だって、あれはイメージ的にやっぱり根暗なスポーツだし、ユリアンだって、今、『地味ですね』と言っただろう?」
大佐の答えに僕は吹き出してしまった。
確かに卓球は『根暗』なスポーツだと言われているけど、本当のところは下手くそなのを知られたくないだけかな・・・と僕は解釈したのだった。
THE END
100のお題より、「球技」です。
球技と聞いて真っ先に思い浮かんだのがサッカーとフライングボール。
サッカーは外伝の「朝の夢・夜の歌」に登場しますし、フライングボールは、帝国・同盟通じて出てきます。
それ以外は殆んど出て来なかったので、銀の時代では上記が、スポーツの主流なのでしょうね・・・。
あ・・・フライングボールは、「汚名」にも出て来ますものね。
そこで、多分、球技が苦手であろうヤンと、得意であるユリアンを描く為に、ヤン家に引き取られてから直後という事にしてみました。
だから、「提督」ではなくて「大佐」なんです。
逆にこれが新鮮と言うか、書いていて楽しかったです。
だって、本編って、ヤンは准将だったし、准将って既に「提督」ですから。
ユリアンは、苦労が多かった為に、子供の癖に妙に悟っていると言うか、その辺りが苦手だという人も多いですが、私は好きかな<一家に1人は欲しいですよ、家事の得意なユリアン少年(爆)
子供の癖に妙に大人びている・・・マジメに。
何だかね・・・どうも、「えな●かずき」君を見る度に、ユリアンを思い出してしまうんですよね・・・。(笑)
それからネタにする為に、卓球を馬鹿にしてしまいました・・・選手やファンの方・・・ゴメンナサイ。
"○凡 土下座します・・・愛ちゃん、ゴメンね。
それから、本当は球技だけの話を書くつもりだったのですが、あまりにも文章が短い上に、何かが足りないなぁ・・・って思っていて。
この話を、施設からヤンの引き取られた直後って事にした事で、引き取られる直前のユリアンや、ユリアンを面接したキャゼルヌについても書ける事に気付いた訳です。
この辺りの話は原作でも深く描かれてはいないので、書き甲斐はあった気がします。
一応、「球技」がテーマなので、「卓球」を取り上げていますが、ユリアンとキャゼルヌの会話、ユリアンとヤンの会話・・・って事で、言葉の「キャッチボール」を狙っています。
ユリアンは、最初の頃はそんなに話さなかったと思うけれど、ヤンやその仲間と接する内に、やっぱり毒舌の影響を受けていたし、小気味良い会話をしていたなぁ・・・って。
だから、徐々に心開いていくユリアンを描いてみたかったんです☆
この小説では触れていませんが、原作では、ユリアンも厳密には帝国では由緒ある家柄の子孫らしいです。
ミンツ家は、アーレ・ハイネセンの「長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)」に参加した名家であり、ユリアンの母は帝国から亡命した平民の子孫で、それが嫌われた原因だそうです。
名家とは言え、「フォン」の称号が付いていないので、私に言わせれば、どうでもいいような事ですが、祖母にとっては、“「長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)」に参加した”のが重要みたいです。
考えてみれば、ユリアンって名前は、ドイツ語読みですものね。
英語圏の人間なら、「ジュリアン」になるはずで、ビートルズのジョン・レノンの長男は、「ジュリアン・レノン」だったなぁ・・・って。
二次小説「Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~」で、ユリアン達が地球でワーレンと出会う話を書きましたが、ポプラン達はともかく、ユリアンは名前で救われたんじゃ・・・って思います。
少なくとも、「リチャード」みたいな名前だったら、本当に偽名を使わないとヤバかったかも・・・。
因みに、「リチャード」はドイツ語圏では「リヒャルト」になります。
同様に、「アーネスト」なんて名前なら「エルネスト」になります。
余談ですが、以前、宝塚歌劇で「Ernest in love」と言う舞台観た時、私は「エルネスト・イン・ラブ」と読んでしまい、一緒に行った友人に「アーネストだよ。エルネストって何??」と聞かれ、「ドイツ語読みした」と答えました。
「エルネスト・メックリンガー」と名前のスペルが一緒だと言ったら、やっぱり、銀が好きな友人は「あ~メックさん!」って笑ってました。
さて、私が想像するに、キャゼルヌは施設側からの推薦状みたいな物を元に、ユリアンを面接したのではないかと。
そして、そこには、類い稀な家事能力の事も書かれていて、それで、面接してヤンの元へ送り込んだ・・・と。
今回の小説では、ユリアン視点なので、その辺りは触れていませんが、キャゼルヌ視点で書いたら、その辺りの事は詳しく書く事になるだろうな・・・と思います。(・・・書きませんけどね)
トラバース法については、私も色々と考えていたのですが、引き取られる子供が必ずしも士官学校に入る訳ではないと思います。
もしかしたら、大学進学を希望する子供だっているでしょうし。
そこで特殊な研究等をして、その知識を持って違うルートで軍に入る人もいたりして。(士官候補生として)
それから、軍人にならなくとも、軍と関係の深い関連施設や民間企業に就職すれば、自ずと軍に近しい存在になるので、トラバース法の目的達成とみなされたりして。
例えば、軍の施設のレストランやら、軍服製造の工場や、帳票類の印刷工場など、軍に関わる施設は多いと思います。
それから、児童養護施設も、公営だけではなく民間経営も多いと思います。
民間経営の所は、めぼしい子供を軍に紹介する事で、経営面での援助を受けている可能性もあります。
ユリアンを軍に紹介する事で、施設側にメリットがあるのなら、理事長・・・推薦状を書くでしょう。
その上、ユリアンなら問題ないですし。
その内に・・・加筆修正したいですが、これはあくまで「球技」の話なので、ユリアン以外の子供のトラバース法の事について書きたいです。
だって、トラバース法で軍人家庭で養育されいてるのが出て来るの・・・ユリアンだけだったでしょ。
オリキャラになってしまいますが、他の子供について書いてみたいです、男の子の場合と、女の子の場合で・・・。