※今回のこの小説は原作終了後の世界を取り扱っております。その為、役職や階級などが原作とは異なります事をご了承願います。
「あの・・・父上、これは一体なんなのでしょうか?」
最初にその廃屋を見つけたのはフェリックスだった・・・。
鬱蒼とした山奥の中の廃屋。
物珍しい物を発見した彼は、やや興奮状態で写真を撮った。
そして、山から戻るなり、その出来あがった写真をミッターマイヤーに見せたのだった。
ミッターマイヤーは現在は元帥のまま国務尚書の任にあり、つい最近、14歳のローエングラム王朝第2代皇帝のアレクサンデル・ジークフリード・フォン・ローエングラムの随員としてオーディンに来ていたのだ。
そして、その随員の中にはミッターマイヤーの息子のフェリックスも名前を連ねていた。
フェリックスは、アレクのご学友としての随員として・・・。
ミッターマイヤーは写真を見ると一瞬、目を細め、それから溜め息をついた。
「・・・山の中にあったのだろう?多分、かつての貴族の屋敷跡だろうな・・・」
「貴族の屋敷ですか・・・」
「シュバルツメイヤー山には今は無いが・・・昔は貴族の別邸などが数多く建てられていたそうだ。きっと・・・リップシュタット戦役以降に没落した貴族の屋敷跡かもしれない」
そうミッターマイヤーは答えた。
フェリックスは朝から、休暇中のミッターマイヤーの部下5人と山に遊びに行って、この廃屋を見つけたのだが、見つけた時には既に西の空から夕闇が迫っていたので、その廃屋の調査はせずに、一旦、調査を打ち切って、随員達と共に山を下ったのだった。
ミッターマイヤーの部下達は、この屋敷が気になるらしく明日の調査する事になり、この調査にはミッターマイヤーも加わる事になった。
明日は、フェリックスはアレクと共に朝から勉強をせねばならず調査には参加出来ない・・・丸1日、数学を学ぶのだ。
「父上、今日の午前中・・・山に行く前に繁華街に行ってみましたが、父上の部下の方達は、昔よりもオーディンは活気が出たと話していました。今の帝都はフェザーンなのに、オーディンも整備されて来ていて活気があって凄いと・・・」
「あぁ、そうだ。オーディンが活気があるのは・・・良い事なのだよ、フェル」
帝都の機能の殆どがフェザーンに移っても、オーディンはやはりオーディンであり、すこに住む人々の暮らし向きが極端に変った訳ではない。
むしろ・・・大貴族の専横が無くなったお陰で、一般市民をがんじがらめ縛り上げていた規制が少しずつ緩和され、前よりもずっと生活は楽になり、都市としての機能が著しく改善されていた。
人々の生活にゆとりが生まれ、多少の言論の自由も認められるようになった。
危険が無いと判断されれば、趣味の為の集会なども開かれるようになっていた。
中には1000人規模の一般市民の為のたコンサート等も開かれるようになっていた。
かつて、音楽界の常連と言えば、貴族や軍の高官、経営者と言ったブルジョワだけに開かれたものであり、一般市民は対象外か、法外な代金を要求されたものだった。
以前は、理由の如何に関わらず、むやみに人が集まる事を規制していたのだから、現王朝を人々は支持していた。
オーディンの市民達は、皇帝がフェザーンにいて、自分達のそばに直接いる訳ではない・・・それが彼等を気楽にさせていて、結果的に人々が明るくなっていたの
だ。
実に良い傾向にあったのだ。
「・・・陛下、面白いものを見つけましたよ。実は昨日、父の部下の人達と数人で行った深い山の谷間に・・・凄い廃屋があったんです。まるで幽霊屋敷のような建物でした」
「廃屋」と聞いて、フェリックスの話にアレクは目を輝かせた。
いつの時代も・・・少年達は冒険譚が大好きで、ご多聞に漏れず、アレクもその手の話が大好きだった。
「廃屋?どこに??」
「シュバルツメイヤー山の谷です。谷自体は景観が良い所なのですが、本当に物凄くボロボロの廃屋がありまして・・・」
「それが幽霊屋敷?」
「はい、まさに幽霊が出そうな感じなんです。ただ、見つけた時は夕刻でしたので、一旦調査を打ち切りましたが、今日、父上達はその屋敷を再度調べているんですよ」
「え、廃屋を再調査しているのか?・・・何でそんなものを調査するのだ?僕は昨日は歴史の勉強で外出も出来ないほど忙しかったのに・・・。今日もそうだ。役に立つのか分からぬが数学の公式を山のように覚えねばならない。・・・今日はフェルト一緒だからいいけど、数学なんて頭が痛くなってくる。廃屋見学でも冒険が出来たお前が羨ましいよ。僕もその廃屋に行ってみたいな」
アレクがむくれて、フェリックスに愚痴をこぼす。
せっかくオーディンに来ているのにも関わらず、1日の大半をアレクは学問に充てていて、歴史や経済学、語学に科学、数学・・・と、専門の家庭教師がつきっきりだった。
勉強は若い内しか出来ない・・・皇太后ヒルダの教育方針であったが、とにかく、沢山の量の本に囲まれていた。
それ以外にも、軍事学や兵法等も現役の元帥や、士官学校の教官等が行っていた。
様々な勉強を、ご学友としてフェリックスも共に学んではいたが、とにかく、アレクの勉強量は半端ではなかった。
まがりなりにも、現在アレクは皇帝・・・。
色々な案件に対して、「知りません」とか「分かりません」と言う訳にはいかないのだろう。
フェリックスは1歳年下の皇帝に同情し、「それでは陛下、父に頼んでみます。調査さえ済めば、あの山にまた行けると思いますし。そしたら、陛下も一緒に行きましょう。廃屋の冒険・・・楽しそうですし」
「うん。国務尚書に頼んでみてよ、フェル」
アレクは笑顔を向けた。
「行けるとなったら、真面目に勉学に励める」
「・・・行けなかったら励めないのですか?」
「う・・・そんな事は無いけど・・・」
「とにかく、この公式・・・覚えてしまいましょう。どちらが先に覚えられるか競走しましょう?」
「あぁ・・・そうだな。フェル、負けないからな」
「はい、僕だって負けませんよ」
「・・・お前が昨日行ったあれか?」
午後4時過ぎに、フェリックスから、調査中の廃屋の事を切り出されたミッターマイヤーは表情を固くした。
その様子にフェリックスは困惑した。
「あの・・・ダメですか。陛下も廃屋にはちょっとご興味がおありみたいで。冒険みたいだから見てみたいとおっしゃっているのですが。僕もまた見てみたいです
し。何しろ、ここのところ勉強ばかりで息抜きが出来ないと陛下がおっしゃっておられて・・・」
自分がまた行きたいフェリックスは、アレクをダシにしてミッターマイヤーに頼み込んでいた。
それに本当にアレクは勉強漬けで可哀相だったのだ。
「いや・・・ダメではないよ。だが・・・あそこは・・・」
ミッターマイヤ-はフェリックスに笑顔を向けたが、どうも歯切れが悪い。
皇太后ヒルダはスパルタ教育は嫌いなようだったが、幼くして帝位に就いたアレクサンデルには普通の子供とは違う教育を受けさせる必要があった。
内心では、遊びたい盛りに可哀想だとは思ったが、それは立場上、必要不可欠な事だったのだ。
しかし、多少の息抜きは必要だろう・・・。
皇帝の友人として、一番身近にいるフェリックスの言葉に、ミッターマイヤーは暫く考えていた。
「・・・確かに根をつめての勉強ではお疲れになるだろうな。確か昨日は丸一日歴史の勉強で、今日はお前と一緒だったが、数学だったか?」
「はい。山のような公式を覚えました。それこそ、頭から何かがこぼれそうなぐらいです」
「そうか・・・数学は頭が痛くなるからな。・・・陛下は冒険がしたいのか・・・」
「ええ。僕が廃屋の話をしたら、『お前が羨ましいよ』と愚痴をこぼされてしまいました」
「そうか・・・」
「だから、調査が済めば行けるだろうから、一緒に行きましょうとつい言ってしまったんです」
「・・・あそこに行くのは・・・どうしたものかな・・・」
ミッターマイヤーの言葉に俯くフェリックス。
行けないのに、アレクに行けると言ってしまった罪悪感に囚われていた。
アレクに何と言って詫びればいいのだろう??
その様子を見たミッターマイヤーは溜め息をついた。
「分かった。明日、もう1度きちん視察して、危険が無いようなら行けるように手配をしよう。ただ、すぐには無理だ。あちこち朽ちていてかなり危ないんだ」
「あの廃屋をまだ調べるのですか?」
「まぁ・・・色々調べなくてはならない事があるのだ・・・。勿論、今度陛下をお連れする時は、私や他の者も一緒に同行するし、お前も一緒に行くといい・・・」
「本当ですか??」
「あぁ・・・嘘は言わない。ただ、陛下が行きたいのなら危険な物は取り除かねばな。怪我でもされたらかなわん。それで躊躇していたのだ。本当にボロボロだっ
ただろう?」
「はい・・・確かに。危険を取り除かなければなりませんね。アレクが怪我をしたら・・・」
「責任重大だ。そんな事になったら・・・と考えると恐ろしい。だからこそ、万全を期さなければならぬのだ。しかし・・・お前も陛下も、あんな物に興味があるのか?」
「幽霊でも出そうなぐらい怖かったけれど、何だかワクワクもするし・・・。昔本で読んだ幽霊屋敷みたいでしたね。何であんなにボロボロだったのですか?」
「・・・盗賊が、家人が長く留守なのを良い事に、金目の物を盗んで勝手に暮らしていたらしい。元の持ち主・・・いや、とにかく、昔は豪華だったが、今はただの捨て置かれた古い屋敷だ」
「・・・あの廃屋が屋敷・・・。やっぱり貴族の物だったのですか」
「あぁ・・・本邸ではなくて、別邸だったらしいが・・・」
「父上は、冒険とか・・・した事ありませんか?」
「あぁ・・・冒険か。そうだな・・・良く考えてみたら、森の木の洞に入ったり、木の上に基地みたいなのを作ったり・・・確かに冒険はしたな」
「ね?僕等も冒険をしたみたいのです」
「・・・そうか・・・それでは、調査を急ピッチで行う事にする。陛下に行けそうだと知らせなさい。きっとお前からの連絡を待っているのではないか?」
「はい、そうします」
「それでは・・・この話はこれで終わりだ」
ミッターマイヤーはそこまで言って口を閉ざした。
急に押し黙ってしまったミッターマイヤーを見つめて、フェリックスも表情を固くした。
彼はそれ以上は聞かなかったが、取りあえず、調査が済めば行けそうだとアレクに報告する為に部屋から出て行った。
ミッターマイヤーは、フェリックスが出て行った後で溜め息をついた。
かつての自分もそうであったが、どうして少年というのは、廃屋だの秘密基地のような物が好きなのだろう?
本当は連れて行きたくはないが、行きたいというものを無理に止めさせれば、フェリックスも皇帝陛下も不審に思われるだろう。
フェリックスが自分達夫婦の子ではなく、かつて親友であったロイエンタール元帥の忘れ形見である事は、彼が15歳となる今年の初めに彼に伝えてあるが、
今回の件は、いつかはちゃんと話さなければならないだろう・・・実に頭が痛い事ではあったが。
昨日・・・あの子が部下達と行った時には、あれが誰の屋敷だったのか分からなかったのだが・・・。
ミッターマイヤーは暗澹たる気分に襲われた。
「・・・気分が滅入るな。自分の表情が固い事をフェリックスは感じ取ってしまっただろうな。あの子は敏感だから・・・」
急に押し黙った自分を見て、実際にフェリックスは表情が暗くなっていた。
ミッターマイヤーは静かに椅子から立ち上がって窓辺へ行くと、ゆっくりと遮光カーテンを開ける。
重い橙色の光が部屋の中に差し込み、陽が徐々に翳りはじめていた・・・。
・・・山奥に打ち捨てられ、ボロボロになった屋敷。
それは・・・かつて、マールバッハ伯爵と呼ばれ、今は継ぐ者も無く廃された大貴族の別邸だったのである。
Das Ende
100のお題より「マヨヒガ」です。
思いっきり原作終了後の世界です。
原作終了直後には赤ん坊だった2人がすっかり成長していますから、きっとミッターマイヤー・・・老けているはず。
想像したくないけど、ミッターマイヤーの事だから、きっとカッコイイ渋さのナイスミドルになっているかな?
タイトルの『マヨヒガ』は、調べてみたら、『山奥の打ち捨てられた廃屋』という意味なんだそうです。
“マールバッハ”の名を聞いて、ピン!と来た人は、かな~りコアな銀のファンでしょうね・・・。
フェリックスにとっては、その“廃屋”は、実の父(ロイエンタールですね・・・)の祖母の実家の持ち物だった屋敷・・・っていう設定です。
ロイエンタールの母は、2代続けて放蕩物の当主のせいで没落しかけたマールバッハ伯爵の三女。
レオノラ・フォン・マールバッハというお名前で、借金の肩代わりの為に、財産持ちの、年の離れた下級貴族の妻になったんですよね。
けれど、彼女には若い貴族の愛人がいて・・・ロイエンタールの誕生後、息子の目の色が青と黒の2つを持っていた事で自分の不義が露見して、精神を病んだ挙句
に自殺してしまうという・・・。
その後の、マールバッハ家の事は出て来ないのですが、放蕩者という性格は決して直らないと思いますので、たとえ一時的に借金が帳消しになったとしても、また借金を築いてしまうと思うのです。
だから、廃絶された・・・という設定にしてしまいました。
余談ですが、ロイエンタールの目は決してレオノラのせいではなく、ロイエンタール家の遺伝による物で、何代かにそういう目を持つ物が誕生する・・・みたいな
事を二次小説で書いていた人がいました。
それは私も考えていたのですが、同じような考えの人・・・結構いるんですね。
なので、私は遺伝については考えず、アルビノみたいな突然変異って事にしてます。
さて・・・廃屋は、本邸ではなくて別邸という設定ですが、貴族なら、あちらこちらに山荘などの屋敷があったはず・・・という根拠で書いているんですけどね。
この屋敷もそんな1つで、リップシュタット戦役以降、家人がいなくなって(死んだりして)、そこに、平民が勝手に住んでた・・・なんて事もあるかもって・・・
<ホントに勝手に想像してます。
前に「プラスチック爆弾」や「コヨーテ」等で、憲兵隊が貴族の屋敷の調査をしていると書きましたが、それは現役の門閥貴族のお屋敷。
それ以前に没落して廃屋になった屋敷は調査対象じゃなくて、そのまま捨て置かれていてもおかしくないわ・・・ってんで、書きました。
なので、ケスラーが調査で取りこぼした訳じゃないのです。(ケスラーの仕事は完璧です!)
とにかく、廃屋を調査していて、それがマールバッハ家の別邸だと知った時、ミッターマイヤーはどんな気持ちだったかな・・・と。
マールバッハ家は跡継ぎもなく、没落してしまったと思うんです。
ロイエンタールに再興の意思があれば、ラインハルトに頼み込んで祖母の名跡を継いでいるかもしれませんが、それはロイエンタールじゃありませんし、彼は1㎜だってそんな馬鹿げた事を望まないでしょうし、望むような人なら、絶対にラインハルトに付かないと思うんですよね。
でも、余韻を残して終わらせてしまい、凄く中途半端ですけど・・・。
変な作品ですね・・・はぁ~・・・"◎凡ヘタリ・・・。