「・・・女と会っていたのね」
夜半過ぎに、男が自分の屋敷へ戻って来たのを知った女。
女は寝付かれなくて・・・居間のソファーで本を読んでいたが、男の気配にバタンと勢い良く閉じた。
そして、男にキッとした視線を向けた。
「ほう?それがどうした?お前には関係あるまい?」
男は素知らぬ振り。
関わるのは面倒だった。
女の方をちらりと見ただけで、部屋の片隅の小さな冷蔵庫から氷とミネラルウォーターを取り出してグラスに注いで口にした。
ふと漂う男の香りがいつもと違う・・・。
そして、その香りがなんであるかに気付いた女は思いっきり眉根を寄せる。
「嫌な残り香・・・。悪趣味な香水を使っているのね、その女・・・」
読書をやめ、急に爪を磨きだした女が口に出した言葉。
「悪趣味・・・?」
グラスを片手に、つい男は女に聞いた。
関わるのが面倒だと思っていながら、相反する、矛盾した行動を取っている自分に半分呆れながら。
今日会っていた女の使っていた香水は、薔薇香水では老舗ブランドのエメレット・ローゼン社製の製品だ。
確か、「女優<シャウシュピーレリン>」という人気香水で、鼻に付くほど嫌味な香水ではない。
むしろ、品の良さを感じさせる香りだ。
「そうよ、悪趣味。私達貴族女性の間ではね、『娼婦の香り』って言っていた香水よ。男を惑わす・・・魔性のね」
「・・・惑わす・・・か。お前もたまには気の利いた事を言うのだな」
男の声には冷たい響きが宿り、それは女を苛つかせていた。
「ふん・・・本当にあんたは何も分かってないのね。まぁ、あんたは誘蛾灯みたいなものだし・・・」
「誘蛾灯・・・か。何でそんなモノを知っている?」
「別に・・・前にキャンプに行った時に・・・」
「キャンプ!?」
女の意外な言葉に、それまで表情を変えなかった男も、さすがに驚いたように女を見やった。
「な・・・何を驚いた顔をしているのよ。・・・貴族だって、アウトドアな旅行ぐらいするわよ。父は自然が好きで優しい人だったのだから・・・」
女は当時を思い出したのか、悔しげに唇を噛んだ。
彼女の父は・・・品が良くて優しくてかった父は、特に悪い事など何一つしていないのに、まるで“虫けら”みたいに処刑されたのだ。
目の前にいる男によって・・・だ。
「・・・放っておいても女が群がってくるなんて、あんたはまるで誘蛾灯だわね。その上、こっぴどく振るんでしょ?本当に悪趣味・・・最低ね。あれは集まって来た虫を殺傷するのだから」
それを聞いた途端に男は、「お前は何故ここにいる?逃げたければ逃げればいい」と冷笑を浮かべた。
「あら、おあいにく様。私は逃げようなこれっぽっちも思っていないわ。私は・・・あんたが惨めに死ぬところを見たいのよ。逃げてしまったら何の為にここに来たのか意味がなくなるわ・・・」
女が顔を歪めて男を睨みつけると、男は低く笑った。
「誘蛾灯がどう女を扱うか・・・試してみるか・・・?」
そう言うなり、女の手首を乱暴に掴んで強く引っ張った。
「ひっ・・・!」
あまりの痛さに女は鋭い悲鳴を上げ、その瞬間に男は手を離し、女は無様に床に転がった。
痛さに喘いだ女は、ギラギラした目で男を睨めつける。
「・・・その悲鳴・・・興ざめだな」
男が冷たい視線で女を一瞥して部屋から出て行く。
女は床に座り込んだまま茫然としていたが・・・。
悔しげに、「なによ!誘蛾灯だって・・・いつかは壊れるのよ!」と、男の出て行ったドアに向かって叫んでいた。
Das Ende
100のお題より、「誘蛾灯」です。
男とか女とか書いているけど、一応ロイ&エルです。
誘蛾灯と聞いた瞬間、ロイエンタールとシェーンコップが頭をよぎって。
そして、ロインエタールに軍配が上がりました!
「誘蛾灯」は、虫が集まってくるし、殺傷能力もある・・・キャンプなどでは欠かせないですよね。
あと、テキ屋さんの屋台なんかにも・・・。
ただ、あのバチッ!!とした音が好きになれません。
青白かったりする光も嫌いです。
まぁ、私は元々、虫が大嫌いですから・・・。
私が書いた、一連のロイ&エル物は、かつて、友人のサイトで開催された『ロイ&エル キャンペーン』に寄稿した物なので、ちょっと女性向けかも・・・。
しかし、これまたロイエンタールが喋り過ぎ。
エルちゃんも屈折しているし、あぁ、ダメダメだな・・・この作品。
・・・ってか、艶っぽくないんだよ、ううう・・・。
他のロイ&エル作品もメタメタなヘタレですが、また、その内に・・・忘れた頃にUPするかも・・・です。