※今回のこの小説は原作終了後の世界を描いております。その為、階級や役職等が変化している場合がございますが、ご了承願います。
アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトの死後、彼の遺産を管理したのは彼の姉や妹・・・即ち、彼の身内達であった。
死後、元帥に叙された彼の遺産はかなりの物だったが、一旦相続したのは、彼の母親だった。
そして・・・。
色々と遺品を整理している中で・・・。
とあるディスクが、小さな鍵付きのキャビネットから出て来た。
このキャビネットは、生前・・・ファーレンハイトがオークション用に使っていたキャビネットだった。
だから、私的な物であるはずなのだが・・・。
このディスクは、他のディスクとはかなり異なった様相を醸し出していた。
他のディスクには・・・プロテクト等はかけられてはおらず、今迄の取引明細やら、出品品目の管理リストだったり、誰でも自由に見る事が出来た。
だが、たった1枚だけ・・・厳重なパスワードによるプロテクトがかけられ、彼の遺族達は読み解くのが不可能だった。
それに、ディスクには1枚の付箋が付けられていて・・・。
そこには、ファーレンハイトの手書きで『ギュンター・キスリング用』と書かれていた。
遺品であるそのディスクを管理していたのは、彼の年の離れた末の妹のアデライードだった。
彼女は軍の事にはかなり疎かったので、それが誰であるか全く知らなかったし、その人物にディスクを渡す事など全く考えてもいなかった。
そんな訳で、彼女からこのディスクがキスリングの手に渡るまでに、実に数年かかる事になった。
ここ最近、アデライードは楽しみにしている立体テレビ<ソリヴィジョン>のニュース番組がある。
新皇帝の幼帝プリンツ・アレクと、それを後見する皇太后ヒルダの動向を伝えるその番組・・・。
それは、第一、第三土曜日の早朝に放映されている「帝室アルバム」という15分程度の番組。
つい1年ほど前から放映が開始されたのだ。
殆どがプリンツ・アレクの動向を伝える物で、ご学友との勉強のワンシーンだったり、とにかく、お2人の公務での映像が流れた。
時には、庭を散策する伯母のグリューネワルト大公妃殿下とプリンツ・アレクの時もある。
祖父であるマリーンドルフ伯は番組出演を固辞しているが、それでもパーティーなどの映像では姿が映り込む事もある。
今は亡き、前帝ラインハルト譲りの豪奢な金髪、そして、爽やかな青石色の瞳。
どちらかと言うと母親のヒルダの快活さを受け継いだ明るく愛くるしい表情。
父親の死後、生後二カ月で帝位に就いた幼い皇帝は、銀河帝国の臣民の間では希望の象徴のように思われ、その動向が注目されていたのだ。
ゴールデンバウム王朝時代は、宮廷内での皇帝の様子などを垣間見る機会は一般大衆には無かったが、ローエングラム王朝、特に代替わりしてからは、開かれ
た帝室を目指していて、この番組は人気になっていた。
映像と共に近しい人物がインタビューに答える時もある。
ある時、親衛隊長のギュンター・キスリング大将が登場し、プリンツ・アレクのほのぼのとした談話を披露した。
そして・・・アデライードは、兄の遺品にあったディスクに書かれていた名前と、この親衛隊長の名が一致する事に漸く気が付いたのだった。
現在、彼女は17歳で、かつて、ルッツ元帥の婚約者だったクララ・アインシュタイン嬢が理事を務めている看護学校の学生だった。
兄と同じく、元帥となったルッツ。
その元帥への愛に殉じた形で、フロイライン・アインシュタインは独身を貫いているのだと言う。
兄には恋人はいなかったが、そんな女性がいたら良かったのに・・・と、アデライードは時々思う。
自分達家族の為に働いて・・・そして、30代で逝ってしまった兄が不憫でならなかった。
「・・・親衛隊長のキスリング大将ね。あれから数年経ってしまっているけど・・・やっぱり、このディスクを渡しに行った方がいいわよね」
学校が3日間、創立記念で休みだった5月半ば。
アデライードは意を決して、皇宮「獅子の泉<ルーヴェンブルン>」へ出向いた。
キスリングが親衛隊長なら・・・ここに行けば会えるだろうと思ったのだ。
朝から大雨が降っていたが、午後になると小振りになった。
アデライードが着いた午後2時過ぎには、すっかり雨は上がっていた。
しかし、「獅子の泉<ルーヴェンブルン」はさすがに広すぎて、どこが入り口かサッパリ分からなかった。
かつての、「新無憂宮<ノイエ・サンスーシ>」ほどの広大さは無いものの、それでも一般人の感覚からすると広大で、似たような門がいくつもあるのだ。
どの門も豪奢な造りで入口に見える。
中央の門は、良く見れば紋章が掲げられひときわ大きいのだが、建物そのものに圧倒されているアデライードは緊張のあまり、思考回路が飛んでしまっていて、殆ど迷子になっていたのである。
途方に暮れた彼女は、「獅子の泉<ルーヴェンブルン>」前の広い道路で、うろうろと歩きまわるだけ。
「もっと・・・色々と調べてからくれば良かったわ・・・」
アデライードは溜め息を漏らし、兄が軍人だったのだから、軍部からキスリングに会う方が確実ではないかと思い直した。
宇宙艦隊指令部か、軍務省、それから憲兵隊、総帥本部・・・と色々と考えてみた。
「考えてみたら・・・軍部も色々なセクションに分かれているし・・・本当にどうしたらいいのかしら?あぁ、迷うぐらいなら、軍の施設に行く方が良かったわね。でも、どこに言うのが一番なのか分からないし・・・困ったわね」
そう言って顎に手を当ててみる。
その時、1台の地上車<ランド・カー>が、彼女の位置から一番近い門に滑り込んだ。
だが、朝からの雨のせいで、大きな水たまりが出来ていて・・・。
タイヤがはね上げた泥が・・・アデライードの衣服にかかってしまったのだった。
「キャア!!泥はね・・・最悪じゃない・・・」
アデライードがスカートの裾の泥を見て溜め息をついていると、地上車が止まって、中から人が出て来た。
「フロイライン!もしや・・・泥が・・・」
「ええ、まぁ・・・」
アデライードはそう答えながら、恐る恐る相手を見る。
そこに立っていたのは・・・かつて、兄の同僚であり、現在は国務尚書である、ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥だった。
真赤なマントを翻した颯爽とした姿。
優しそうな笑みを浮かべた・・・かつての兄の同僚。
元帥の称号を得たと言っても・・・兄の場合は死後の昇格だった為、この姿を見た事が無い。
(もし、アーダルベルト兄様が生きておられたら・・・きっと、こんな感じなのだろうな・・・)
「あ・・・えっと・・・。ミッターマイヤー元帥・・・」
「あぁ、困りましたね・・・。申し訳ない。とにかく、その汚れを何とかしないと・・・」
「え・・・あの、大丈夫です。すぐにクリーニングすれば何とかなると思いますから、お気になさらず」
「そうは言っても・・・それでは・・・クリーニング代を・・・」
ミッターマイヤーは恐縮して困惑の表情である。
とにかく、アデライードのスカートは泥だらけなのだ。
大丈夫だと言っているが、ちっとも大丈夫には見えない。
「クリーニング代?あの・・・別に大丈夫ですから・・・」
「それでは申し訳が・・・」
「それより・・・何か用があってお急ぎだったのでは?」
「いえ、別に急ぎの用でもないのですが・・・」
「あ・・・そうだわ。元帥閣下。ひとつお願いしたい事があるのですが」
「ん?お願いですか・・・。私で出来る事でしたら」
「あの・・・親衛隊長のキスリング大将って・・・こちらにおられるのでしょうか?」
「え、キスリング?フロイラインは、あの男に何か用なのですか?」
「はい。どうしてもお渡ししたい物がありまして・・・」
「まさか、ラブレターとか?」
「は??ヤダ・・・違います」
アデライードはびっくりして表情を硬くした。
下らぬ事を口に出してしまってから、自分にユーモアのセンスが無かった事に気付いたミッターマイヤーは、彼女が気を悪くしたのではないかと焦ったが、アデライードは小さく笑っただけだった。
「ラブレターなんてロマンチックな物じゃないんです。実は兄の遺品を整理していたら・・・『ギュンター・キスリング用』と書かれたディスクが出て来たのです。調べたら、この名前に該当する方は、キスリング大将閣下だけだと分かりましたので・・・大将閣下にお渡ししようと思って、それで持参したのですが・・・」
「お兄さんの遺品?」
「あ・・・私とした事が・・・スミマセン。つい、うっかり名前名乗っていませんでしたわね。私・・・アデライード・フォン・ファーレンハイトと申します」
この名前を聞いた瞬間、ミッターマイヤーは目を丸くした。
「ファーレンハイト!!?それでは・・・あなたは・・・」
「はい、お察しのとおりです、元帥閣下。私・・・アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトの末の妹です」
「そうでしたか・・・」
あの、ファーレンハイトにこんな年の離れた・・・美しい妹がいたとは。
いや、あのファーレンハイトの美丈夫振りを考えれば、美しい妹がいても何らおかしくはない。
「キスリングに、ファーレンハイトの遺品を・・・ですか?2人は交流があったのか・・・」
「・・・私には良く分かりません。ですが、大将閣下のお名前がありましたのでお渡しした方が良いかと思ったのです」
「なるほど、そういう事でしたら、直接お連れ致しますよ。多分、キスリングは中にいるはずですから」
「本当ですか!」
「普通は・・・この中には部外者は入れませんが、謁見用の広間などがあるセクションなら入れますから、そちらでお待ち下さい。すぐにキスリングを呼びますから」
アデライードが名乗った事で、ミッターマイヤーは彼女を連れて、一般人が入れるセクションまで案内してくれた。
そしてすぐさま、親衛隊の詰め所に連絡を入れ、キスリングを呼び出した。
元帥からの直接の呼び出し。
少し遅めの昼食をまさに取ろうとしていたキスリングだったが、慌てて部屋を飛び出した。
「はじめまして。私、アデライード・フォン・ファーレンハイトと申します」
アデライードに名乗られて、キスリングはかなり面喰っていた。
彼女の訪問の意図が分からない・・・。
生前のファーレンハイトとはそれなりの付き合いはあったが、妹とは一面識もないのだから仕方がない。
一体、彼女の用事とは何なのだろう?
つい身構えてしまうキスリング・・・何やら嫌な予感がする。
「あの・・・このディスクなんですけど、見て頂けますか?」
差し出された1枚のディスク。
付箋とケースに、ファーレンハイトの手書きで「ギュンター・キスリング用」と書かれていた。
「これは?」
「分かりません」
「・・・分からない?」
「はい。読み込めないんです、パスワードが分からなくて。どうやら、何重ものパスワードを入れ込んであるみたいで。それで解析を諦めました。名前が書いてあるし、これはもう・・・大将閣下にお渡しした方が良いと思って持って来たんです。本当は兄が亡くなった後すぐにお持ちすべきだったのですが・・・私、気が利かなくてこんなに時間が経ってしまって・・・。兄の遺品だったのにこんなに遅くなってしまって・・・」
アデライードの声は小さくなり、消え入りそうだった。
もっと早く持って来れたかもしれない・・・渡すのが遅過ぎてキスリングの機嫌を損ねたらどうしよう?と考えると泣きそうになった。
それを必死でこらえて、アデライードはキスリングを見つめていた。
「そう言われても・・・小官もさっぱり分からないのですが。何故、このディスクに名前が書いてあるのか・・・。それに、これは・・・軍用のディスクとは思えないし・・・」
「そうですか。でも・・・持ちかえっても・・・。あ、これ、多分、オークション関連の資料だと思います。兄が使っていた、オークション資料の入った鍵付きの引き出しの中に保管されていたんです」
「オークション用の・・・!?」
「はい。小さな5段キャビネットで・・・。全部鍵付きで。ただ、他のディスクはすぐに解析できたのですが・・・これだけは見られなくて、よほど重要なモノなのかと思って・・・。とりあえず、大将閣下にお渡ししますから、解析なさってみて下さい。私達家族には必要ない物ですし」
そう言って、アデライードは、ディスクをキスリングに渡すと、丁寧に頭を下げて宮殿から辞した。
形見を手渡した事で肩の荷が下り、足取りも軽く自宅へ戻ったのだった。
反対に・・・足取りが重くなったキスリング。
ディスクを手に・・・キスリングは、その中身についてあれこれ考えていたが、思い当たるのはただ1つ・・・。
かつて、ファーレンハイトと交わした秘密の共有。
きっと・・・外部には出せないであろう、フェルナーの写したあの写真達ではないかと察しを付ける・・・。
いつもは残業を好んでするキスリングだったが、この日は早々に宮殿から辞して、自宅のコンピュータルームで、様々なパスワードを打ち込んだ。
そして、「リップシュタット戦役」と打ち込んだところで、1つ目のパスワードの解析に成功し、2つ目のパスワードは「ラインハルト・フォン・ローエングラム」、3つ目は「アンネローゼ・フォン・グリューネワルト」、4つ目は「アントン・フェルナー」で、5つ目はてこずったが、「ギュンター・キスリング」ではダメだったので、「親衛隊」と打ち込んだらビンゴ!!となった。
「・・・全く、凄い写真の数々だな・・・。そう言えば、彼もこの写真は表には出せないと言っていたっけ・・・。早い話が・・・俺に管理しろと言う訳だな。死んでからも巻き込むつもりなのか・・・なんともはや・・・」
かつて、ファーレンハイトが幾枚か写真をくれたのだが・・・。
あの写真などはまだ可愛い方だったのだと思うほど、えげつない写真まであった。
「入浴中の写真、こっちは食事中・・・。そして、着替えの真っ最中・・・おい、就寝中のまであるのか!?うーん・・・プライベートが丸裸だ・・・」
当時、ブラウンシュヴァイク公の子飼いの部下として、その当時はまだ侯爵だったラインハルトの暗殺を企てていたフェルナーは、ラインハルトの弱点などを探ろうとして、色々な写真を盗み撮りをしていたのだそうだ。
まったく、どこに盗聴器やらカメラを仕掛けていたのか。
しかも、それがバレていないとは・・・よほどの高性能で巧妙な仕掛け方をしたのだろう。
フェルナーを敵にはしたくないと、キスリングは溜め息をついた。
「全く・・・それにしても、フェルナーは当時何をやっていたのだ?」
今では、軍務省の官房長としてすっかり収まっているあの男の・・・過去の仕事とはいえ、えげつない写真には、キスリングは頭痛を覚えていた。
因みに、現在の軍務尚書はメックリンガーだったが、メックリンガーもフェルナーの仕事ぶりは評価していたし、とにかく、この写真は・・・世に出してはならなかった。
だから・・・。
キスリングは、先のパスワードの他に、あと2つ、新たなパスワードを入れた。
1つは、「アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト」と、もう1つは「オークション」と。
そして、自宅の金庫にしまい込み、「自分の死後、焼却処分」と手書きの付箋を付けた。
本当は・・・今すぐにでも焼却したかったのだが、写っているのがあの方なので・・・恐れ多くて、自ら焼却する事に気が引けたのだ・・・。
今も敬愛してやまない、ローエングラム王朝初代皇帝・・・ラインハルト・フォン・ローエングラム・・・。
焼き捨てるなんてとても出来ない・・・それを見越して、このディスクを残していた訳ではないうだろうが・・・。
「それにしても、とんだ形見を残してくれたものだ・・・」
今は亡き・・・ファーレンハイトに対して、妙なおかしさを覚えるキスリングであった。
Das Ende
100のお題より、「形見」です。
実は、最初はファーレンハイトの死を看取った幼年学校の少年を題材に・・・なんて思っていましたが、それだと他に書いている人がいたりするので、視点を全く変えて・・・書いてしまいました。
他人と同じはちょっとアレだしね。
かつて100のお題で書いた「秘密」の言わば続編のようなものです。
あの時の写真が収められたディスクが、今回の「形見」だったりします。
それが思わぬところから・・・ファーレンハイトの手を離れて、キスリングの元へ。
貰ったキスリングも困ったと思いますが・・・まぁ、そこはそれ。
シッカリ保管をして頂きましょう!!
妙な内容になってしまいましたが、まぁ、所詮は二次小説でコメディって事で書き逃げ。←いい加減な^^@
なお、ファーレンハイトの妹は、同じく100のお題の「オレンジ色の猫」に登場したあのアデライードです。
ファーレンハイトが特に可愛がっている末の妹。
私の勝手なオリキャラですから、エンクロ等で名前を探しても出て来ません。
しかし・・・とんでもない物を押しつけられたキスリングは可哀相です・・・ホント。
いやはや・・・本当に凄い「形見」だよなぁ・・・アハハハハハ。