「・・・つくづくお前は・・・最低な男ね」


 軋むベッド。
 ギラギラした瞳で睨<ね>め付けるように男を眺め見て、吐き捨てるように女は毒づいた。


 「最低?その通りだろうな。それに今頃気が付くとは・・・呆れた女だな」


 口の端に微妙に・・・そう、自嘲的な笑みを浮かべている男。
 確かに端正な顔立ちをしてるが、左目は青く透き通るような瞳だが、右目は黒く、まるで深い闇を思わせる。
 左右の瞳の色が異なるせいか、男の笑みは独特だ。
 多くの女達達が、この男の妖しげな瞳を「神秘的」だの「魅力的」だと思っているらしい。


 実際、男のそばには女が絶えないようで、自宅に戻って来ない場合はどこぞの女と一緒の事が多いのだ。
 だが女は、男のこの瞳には危険なものを感じていたし、何が魅力的なものか!と腹立たしく思っていた。


 大体、この男は我が一族を死に追いやった最低な男だ。
 直接命令を下したのが誰であろうとも、それを実行に移したのはこの男とその部下達であった。

 こんな冷たい悪魔のような男に“魅力”があるなど、考えるだけでも馬鹿馬鹿しい・・・。


 この男にはそんな価値がある訳が無い・・・もっと心を強く持たなくては。
 男の見かけに惑わされてはいけない、絶対に!!
 男は女の鋭い視線に嘲笑を向けていた。
 その厭らしい笑みに、反吐が出そうになるのを感じて女は身震いした。


 「お前に・・・お前のような男に騙されている事に気が付かないなんて、世間の女性はなんて甘いのかしら・・・」

 
 女は溜め息を付いた。
 まるで自分は世を達観しているような口振りで。
 その様子に、斜に構えていた男が小さな含み笑いを漏らす。

 「甘い・・・か。そうか?お前のような世間知らずな女がそれを言う事とは・・・」


 思いっきり馬鹿にされたような気がした女。
 言葉で返すのではなく・・・無言で、男の背に艶<つや>やかに磨きこまれた美しい小指の爪を立てた。

 華奢な女性の小指の爪。
 だが、鋭利な凶器と化した爪が、肉に深く食い込んで、男の背にクッキリと痕を付けた。


 (馬鹿にされた・・・この私が・・・!)


 更に腹立たしさを覚えていた女は、小指の爪に力を込めた。
 気丈な男も、さすがの痛みに耐えかねてボソッと呟く。


 「・・・ふむ。たかが小指の爪だと思っていたが、そいつは凶器だな」

 「ふん・・・今頃気付いたの?女はね・・・全身、そう・・・至る所に凶器を隠し持っているのよ。女を甘く見ない事ね。爪を喉に食い込ませて、相手の喉をかき切ったり、窒息させる事だって可能なのよ」
 「ほう・・・喉をね」


 男は不敵に笑う。

 そのゾクッとした冷たい笑いに・・・ギクリとする。


 「そいつは面白い」


 女は、この男に何を言っても無駄だと今更ながらに気付く。

 この男は危険な獣なのだ。


 「いつか・・・お前のその薄ら笑いが一生出来ないぐらいに追い詰めて見せるわ。・・・お前が想像も付かないような方法でね!」

 「・・・それは、それは・・・。面白い余興になりそうだ」
 「な・・・!」
 「・・・期待しておく。それまで・・・退屈せずに済みそうだ」


 男の乾いた笑い声を聞いた女は腹を立ててベッドから勢い良く跳ね起きた。
 手近にあったガウンを着込んで、スタスタとドアに向かう。


 「・・・おい、どこへ行く?やっと出て行く気になったのか?」


 男は女の怒る様を明らかに楽しんでいた。
 女はそんな男の態度が気に入らない。
 ドアの手前で勢い良く振り返り、男に鋭く言い放った。


 「ふん!どこへ行こうと私の自由でしょ!言う事がいちいち癇に障る男ね。美しい手だと褒められていたのに・・・私の自慢の爪が折れそうなんだから!全く、お前の背中は一体何で出来ているのよ!答えなさいよ!」


 男は黙って、怒りに紅潮した女の顔を・・・冷笑を湛えて眺めていた。
 血走って真っ赤に彩られた女の目は、まるでルビーのようだった。

 男は一言も発しない。

 冷たく無視されている事に、ますます腹を立てた女は更に目を吊り上げる。


 「馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」


 ヒステリックに叫んで乱暴にドアを開け、派手な音を立てて部屋を出て行く女。


 「・・・勝手なものだな」


 男は小さく呟くと、女が出て行ったドアを見つめて、乱れて額にかかった黒髪をゆっくりとかき上げた。





Das Ende




 
 100のお題より、「小指の爪」です。

 ロイエンタールとエルフリーデの話です。


 「男」と「女」と言う言葉で書いてありますが、まぁ、読めば・・・銀河英雄伝説のファンなら、「あぁ、あの2人の事だな」と分かってもらえるだろうと。


 ロイエンタールはエルフリーデの事を嫌っていなかったと思う。
 本当に心から嫌っていたら、すぐにでも追い出しているはずだし。
 からかって楽しんでいる節がありました・・・原作でも。
 この一軒矛盾した関係が、ファンにとっては美味しいと言うか、想像をかき立てられるのでしょうね。


 この2人をテーマにした作品は何作品か書きました。
 元々、ロイエンタールの事を書くつもりは全くなかったのですが、(ロイエンタールは好きなんだけど、もっとマイナーなキャラの方を書く方が楽しかったんんですね)ある時、ふと書いた・・・って感じ。
 まぁ、目の前に、とあるキャンペーンがあったからなんだけど。
 今は閉鎖した某サイトで、「ロイ&エル祭り」ってのをやっていて、作品を募集したりしてました。
 私的にはこの手の話を書くのは実は苦手なのに、ちょっと書いてみるか・・・と。


 エルフリーデに関しては、「荒野」で書いた事はあったのですが、ロイエンタールと絡ませて書く事を考えていなかったので、苦労の末に生み出した・・・って感じですかね。
 書きながら・・・「こんなのロイエンタールじゃない!」とか言われたら落ち込むなぁ・・・なんて思いながら書いたな。


 キャンペーンがあったから奮起しましたが、本当に、それまでロイエンタールの事を書いた事がなかった私は不安でいっぱいでした。(大体、ミッターマイヤーの事ですら殆ど書いてないんだよ、私・・・。どれだけマイナーなキャラを書いていたんだ!!ってこの時、愕然としたのを覚えております)


 作品を送ったサイトのキャンペーン用の掲示板に、「2人の関係が良かった」と書かれてホッとした記憶があります。
 そのサイトの常連さんは、殆どがロイエンタールのファンだったのです。(そりゃそうだ。ロイエンタールメインのサイトだからな)


 いやぁ・・・改めて読み返してみると、喋り過ぎでロイさんには全然見えないし、エルフリーデもエルフリーデっぽいのか、非常に怪しい・・・。


 もうちょっと手を入れて長くしたくもあるのだけど、長ければいい!!ってモノでもないので、多少、文章的におかしな所だけ直しただけ。


 これ以上書くと・・・ボロが出るのでやめておきます。