イゼルローン要塞は周囲が60kmもあって、それは小さな小惑星に匹敵する。
人口も500万人もいる・・・辺境の惑星の中には、もっと人口が少ない所だってあるぐらいで。
だから、恒星アルテナの「人口惑星」などと口にする者までいる。
この要塞を最初に創建した帝国軍が、ここを我が物顔で使っていた時は、全エリアを使っていたようだ。
不必要なほどにゴテゴテした柱、一体何の為なのか、意味の分からない装飾・・・。
要塞内は、貴族の将官用の建造物まであったが、ヤンがここを奪取した後は、不要なものは即解と撤去をし、中には閉鎖したエリアもある。
以前、この閉鎖エリアで幽霊騒ぎまで起きた事もある・・・かなり前の話だが。
その後は管理体制が出来上がった為、さして大きな問題は起こらなかった。
ところが、最近になってある問題が浮上した。
閉鎖エリアには巨大な壁が作られたのだが、この壁にラッカーで書かれた大きな落書きが見つかったのだ。
芸術的とも取れるサイケな絵や文字だったが、防犯カメラ等が設置されていなかった為に、犯人は分からなかったのだ・・・。
「それでですね・・・。せっかく消したのに、また落書きされていまして・・・」
「え・・・またかい?」
「そうです!あそこは閉鎖エリアだし、落書き如くで大袈裟かと思ったのですが、自警団を作るって話はこの間しましたよね?」
「うん、聞いたね」
「それで、その自警団が稼働して・・・やっとの思いで犯人を現行犯で捕まえてみたら・・・」
デスクを思いっきり叩くアッテンボロー。
アッテンボローの報告を聞きながら、彼の苛立ちに溜め息をつきながら、被っていた軍用ベレーを外して、それをクルクルと回すヤン。
「ちょっと先輩!!ちゃんと真面目に聞いて下さいよ!やっとの思いで捕まえてみたら、犯人は何と・・・子供だったんですよ!」
「子供ねぇ・・・」
困惑気味の表情を浮かべるヤン。
なんとまぁ・・・。
意外な犯人像に、どう答えて良い物か・・・。
「驚きましたね。年齢は10歳から14歳までの約20人の集団だったんです。最初に捕まった5人の供述で、あとは芋づる式に全員捕らえる事が出来たんですが、これが・・・全員、商店勤務の民間人の子供らしいです」
「民間人かぁ・・・どうしよう?」
「どうしよう?じゃありませんよ!対策立てないと!」
アッテンボローはかなり怒っている様子だった。
普段は、「伊達と酔狂」だの「それがどうした!」だのと言っている彼も、子供にしてやられていたのが相当悔しいらしかった。
それに、探索の為に出した費用の事でムライから、「無駄遣いをして欲しくないものですな」などとネチネチと文句を言われて、それも腹立たしく思っているのだ。
「あれかなぁ・・・。ほら、この要塞内から出られる訳でもないし、鬱憤が溜まったのかもしれない。多分、その程度の事じゃないかな」
「そういう問題ですか?」
「まぁ、目くじら立てて怒っても仕方ないと思うし」
アッテンボローは溜め息を付いた。
ヤンが甘いからそういう輩が出て来るのだと、アッテンボローは、ムライから散々嫌味を言われてやって来たのだ。
「・・・で、一応、あの辺りは軍の管理ブロックですし。そこに子供が入り込んだのは大問題だし、管理が甘すぎるって、ムライ少将はおかんむりです。ネチネチと嫌味を言われたんですからね!」
「・・・う~ん・・・そう言われても・・・」
唸りながら、ヤンは腕を組んだ。
腕を組んだところで何かが閃く訳ではないが・・・。
「・・・あれ?アッテンボロー。ブロック全面に落書きしてあったんだっけ?」
「そうですよ。上の方までありましたよ」
「上・・・ねえ」
「良くまぁやったものですよ。上の方までビッシリと描いてあるんです!書いた子供達は芸術だって言い張っていますけどね」
「・・・そうか。でも・・・子供がそんな上の方まで行けると思うかい?」
「行こうと思えば簡単に行けますよ。運動神経の良い子供ならたやすいでしょうね。あそこは重力制御が十分ではないですから」
「あ・・・そうか!」
「・・・限りなく無重力に近いですからね。まぁ、上の方のその分、酸素は多少薄いですけどね」
「じゃぁ、酸素の問題さえクリアしたら・・・」
「そうです。酸素ボンベさえ用意してやっていたようです。身体にロープを巻いて、キチンと固定さえしておけば、上の方にだって描けますよ、それこそ・・・簡単に出来るでしょうね!あ~思い出しただけでも腹が立つ!!」
「なんでそんなに怒ってるんだ、アッテンボロー?」
ヤンは、アッテンボローの怒りがムライに嫌味を言われただけではない事に気付いていた。
どうもその怒り方が・・・尋常ではない気がしたのだ。
「・・・捕まえた中の一番チビが・・・『軍人のオジサン』って言ったんですよ!!」
どうやら、10歳の子供に「軍人のオジサン」と言われたのが気に入らないらしい。
「アッタマにきて、俺はまだ20代だって言い返してやりましたよ」
それを聞いた瞬間に、ヤンはフレデリカと顔を見合わせる。
そばにいたキャゼルヌは「なんだ、そんな事か。大人げないとは思わんのか・・・」と大爆笑し、アッテンボローを更に憤慨させた。
「何を言っているんですか!20代と30代ではえらい違いです。オジサン呼ばわりされたくないですね。キャゼルヌ少将だってそう思うでしょう?」
「そはれどうかな?そう思うのはお前さんが独身だからだろうな。子供がいるとな、子供の友達は容赦なく『オジサン』と呼ぶし、姉貴の子供も俺の事を『オジサン』と言うぞ?」
「それ・・・なんか違いませんか、こっちのニュアンスと」
「大差無い。心の了見が狭いんだよ、お前さんは」
「うーん・・・」
「まぁまぁ・・・2人とも・・・」
とりあえずヤンは、相手が子供である事、保護者が頭を下げて賠償を申し出た事で、一応彼等をうちに帰した。
ただ、その後の調べで、子供達が落書きをしたのは、閉鎖ブロックの壁だけではなく、ありとあらゆる場所に及ぶ事が発覚した。
理由を聞いてみると、『大きなモノにスプレーで絵を描いたりすると、とても楽しいし。スプレー芸術だよ』と、そんな答えが返って来たのだった。
子供達はちっとも悪びれた様子がなかった。
その事をムライは問題にしており、「灸を据える必要がありますな」とカンカンだった。
「・・・え、ヤン提督・・・本気ですか!?」
「うん、本気」
ヤンは大真面目に頷いた。
「だって、みんな・・・スプレーを使いたいんだろう?芸術だって言っているしね。一石二鳥だと思うけど」
「そういう問題ですか・・・」
「まぁ、ちゃんとしたバイト代も出せるし、労働すれば少しは反省もするだろうし。好きな事をやってお金が手に入るなら、私でもやりたいぐらいだね。そうは思わないか、アッテンボロー?」
「そりゃ・・・あいつらは喜ぶでしょうけど・・・」
ヤンが落書き犯の子供達に提案したのは・・・。
勝手にブロックの壁とかに落書きしない変わりに、塗装の剥げたスパルタニアンの再塗装の手伝いをさせる事であった。
人手も足りない事もあって、人員を回してくれと整備班から上申されていた事を思い出し、『バイト』という形で提案したのだ。
「・・・先輩って、時々、途方も無い事を考え付くなぁ・・・バイトねぇ・・・」
休憩室でコーヒーを飲みながらアッテンボローが呟く。
「そうですね。でも・・・提督らしいですよ」
ユリアンはオレンジジュースを口にした。
「小遣い稼ぎ・・・まぁ、いいんじゃないいの?スパルタニアンがキレイになるならは文句ないね」
そう言い出したのはポプラン。
「さっき、あいつらの仕事振りを見て来たけど、結構一生懸命って感じでさ。子供を働かせるのは酷な話だけど、どう見ても、罰を食らったようには見えなかったな。皆、楽しそうだったよ。整備班も喜んでいたしな」
「ほう・・・じゃぁ、お前さんの機体に、とんでもないカラーリングするように手配しておこう。『女の敵』って書いてもらってもいいかもしれない。善は急げだ。今から行って頼んで来よう・・・」
アッテンボローはコーヒーカップを握り潰した。
「・・・女の敵じゃ、つまらん。どうせなら文字じゃなくて、ド派出なグラマーな美女を描くように言っといて」
真顔でアッテンボローに声をかけるポプラン。
「却下!」
アッテンボローは即答して休憩室を後にし、ポプランは「じゃぁ、マーブル模様をベースに、『撃墜王』とデカデカと・・・」と言いながら、その後を追う。
「それも却下!」
アッテンボローの大声がした。
そんな2人を見送りながら、「・・・いつもながらに凄いなぁ・・・」と、ユリアンはカップに残っていたオレンジジュースを飲み干した。
THE END
100のお題より、「ラッカー」です。
落書きは・・・ニューヨークとかの街中の落書きみたいなのを想像して下さいませ。
オチがイマイチですけどね・・・。
実は・・・。
銀英伝を読み始めた頃は、帝国は眼中にありませんでした。
元々、長編で、完結していない作品は先が見えないので、読みたいと思いつつ、敬遠していたのです。(私が勤め始めて暫くして完結したように思う)
それが、会社の後輩に勧められて、読み始めたのですが、その子がバリバリの同盟ファンで、原作の8巻までしか持っておらず、9巻と10巻は図書館で借りたと言う話で、外伝1巻はラインハルトオンリーなので、やはり買っていないと言う・・・。
ただ、彼女の協力プッシュな刷り込みによって、ヤンとその一派を追い掛けて読んでいましたので、8巻はえらいショックでした・・・。
でも、実は・・・。
8巻は、ファーレンハイトの戦死にショックを受けたんです、最初は。
「形見を下さい」って従卒の少年に言われるエピソードは涙物です。
だけど、それ以上のショックがヤン提督の横死で、主人公が死ぬってどういう事よ!と思ったし、ポプランやアッテンボローの憔悴振りはリアルで、ハラハラしました・・・。
だから、ヤンを書く場合は、出来るだけ楽しそうなヤン艦隊の面々の話が書きたいんです。
ヤンの亡くなる直前の二次小説とかに手を付けないのはその為で。
さて・・・。
前述しましたが、後輩が私に銀英伝を勧めた理由ですが、その理由が面白かったので書いておきます。
「先輩、SFが好きでしたよね」
「うん、ヤマトとかマクロスとか、ガンダムとか好き」
「じゃぁ、お勧めします!」
「先輩、確か軍事物とかも好きですよね」
「戦争が好きな訳じゃないけど、戦争映画とかいっぱい見てるなぁ。ベトナム戦争物とか太平洋戦争とかのも。日露戦争のや、アメリカの独立戦争物なんかも映画で見た」
「じゃぁ、お勧めします!」
「先輩・・・貴族が出てくる感じの話も好きだって言っていましたよね」
「うん、ベルばらとか好きだし、最近は「女帝エカテリーナ」とか、「ピョートル大帝」を読んだよ。(アンリ・トロワイヤのロシアの歴史小説)日本のも「源氏物語」とか好きだし、華族が出て来るのとか好きだな」
「じゃぁ、お勧めします!」
「先輩・・・聖飢魔Ⅱ信者ですよね」
「うん、そうだよ~・・・。デーモン閣下が一番好き。その次は・・・ルーク参謀かな」
「銀英伝には、『閣下』とか『参謀』って言葉がいっぱい出てきます!だから絶対にお勧めします!とりあえず、ヤン提督。彼を追いかけて読んで下さい。イゼルローン攻略とか物凄く面白いので!」
こんな感じで勧められ、すっかりハマった私は彼女と最初の映画を観に行って・・・私は何故か挫折しました。
原作と違い過ぎる・・・何故、アッテンボローが出て来るの~?
何故、パエッタが飲みに誘うの~?(ヤンは丁重に断って、飲みに行かないけど)
まさか、銀河英雄伝説をちゃんと映像化するなんて、その当時は思ってもみなかったので、第2期の途中までアニメを無視していました。
そして、後輩に思いっきり呆れられ、「先輩・・・声優オタクですよね?ベテラン限定の」と言われ、「だったら見て下さい・・・凄いので」と。
え、そんなに凄いの??
慌てて見て、「・・・うそ。内容はさておき、声は・・・メチャクチャ豪華すぎる・・・」と。
第1期の途中までは違和感があり過ぎて(オリジナルって言うか、原作をアレンジされすぎた話が多すぎて・・・「女優退場」とか、何故そこでオーベルシュタインが活躍しないといけないの!?と憤慨したり・・・)イライラしますが、脚本家が統一されてからは、安心して見られるようになりました。(多少のアレンジはあっても、最初の頃よりははるかにマシになった)
この脚本家・・・河中志摩夫さんが、プロデューサーの田原正利さんと同一人物だと知った時は・・・えらい衝撃を受けましたが。
1人で・・・全部書いたのかと。
そしてね、私に銀の事を勧めてくれたBちゃんに、今改めてお礼が言いたい・・・。
本当に感謝です。