※この小説は、便宜上、帝国マルクを円換算して書いております。ご了承下さいませ。




 私の名は、エミール・フォン・ザンデルス大尉。
 私の上官は、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト中将である。

 内戦のリップシュタット戦役が終結して・・・。
 貴族連合軍から、敵として戦っていた勝利者のローエングラム陣営に迎え入れられて漸くオーディンの地を踏んだ時、閣下は私に不意にこう言われた。


 「なぁ、これで羽が伸ばせるな、ザンデルス」
 「はぁ・・・正直言って、生きて帰って来られるとは思いませんでした」
 「あぁ・・・それは俺も同じだな」
 そう言って、微かに笑っておられた。
 「・・・で、卿は住む所は決まったのか」
 「あ、はい。何とか元の官舎に。・・・ありがたいです」
 「あのコンクリ打ちっ放しのボロか・・・」
 「まぁ、それでも個別のフラットですからね。文句は言えないですよ。・・・で、閣下はどうなりました?この内戦に伴って、前のところからは出られたとお聞きしましたが・・・」
 「あぁ、借り上げ住宅がどうとか言っていたが・・・断った。家賃の負担分の費用を考えるとな。佐官クラスのでも、家族入居用とかのモノがあるのではないかとねじ込んだら、怪訝そうな顔をされた」
 「はぁ・・・」
 「担当者が言うには、大抵の貴族の将官は、個人所有の家を持っていたり、それなりの家を借り上げるんだそうだ」


 閣下は、家族が多い。
 妹や弟が沢山いて、何と12人兄弟であられ、ご長男なのだった。
 お父上は既に亡く、お母上も最近お身体の具合があまり良くはないので、貰った給料の殆どを仕送りしていて、自分で使える分はそれほど無いのだそうだ。
 だから切り詰める為に、住む所も、「官舎」を希望したのだ。
 実は、以前の官舎は佐官クラスの官舎で、「住み心地がいいからここにしてくれ」と、将官になっても住み続けていたそうだ。
 貴族連合軍に入る事が決まってから、とりあえず、以前の官舎を出る事になって、個人所有の荷物をトランクルームに預けてあるそうで、その代金も馬鹿にならないから、借り上げ住宅ではなく官舎を希望されていたのだ。


 「・・・佐官用の官舎で十分だって掛け合ったら、少し郊外になるが、新築の官舎があると聞いて見に行ったら、環境が良くてな。妻帯者向けの官舎らしくて部屋数もあるし、独身ならそれで十分だからと交渉したら認められた。実を言うと、郊外だから、大型のディスカウント・ショップがあってな。オーディンにはああいう類の店は少ないから、かなり嬉しい」
 「そうですか。まぁ、何にしても、これからは良い事がありそうですね・・・」
 「あぁ、本当にそうだな」


 閣下は快活に笑われて、私達はそれぞれの家路についた。


 「それにしても、閣下と同じ官舎に住む人達は・・・閣下に気を使うのだろうな。特に隣の人達は。隣が中将宅なんて気が重かろうに・・・。普通は将官なんて煙たい存在だからなぁ・・・」と私は、その人達にちょっと同情した。




 新聞の広告・・・どこで何を安売りしているかを調べるのは貧乏性だからか?
 私は、電子新聞を見る時、真っ先に広告に目を通す。
 それで時間があれば、買いに行ったりもする。
 尤も軍務の方が忙しくて、ここ何ヶ月もそういう暇がなかったのだが、特別に出た休暇があったので、久し振りに買物もいいだろうな・・・という、リラックスした気分になっていた。


 「あ・・・閣下の官舎のそばのディスカウント・ショップで安売りがある!最近人気のリキュール風味の発泡酒が安い!なになに・・・今日限りの特売商品か・・・。よし、買いに行ってみよう。・・・なになに、お1人5缶限りか。まぁ、そうだよな。それなら早く行かないと無くなってしまう!!」


 私は官舎裏の自転車置き場(これも軍の至急品)に行って、すぐさまサドルにまたがって飛び出した。
 自転車には荷物を入れるような大きなカゴはないが、後に荷台が付いているので何とかなるだろう。
 荷物が少なければ、ハンドルに引っかければいいだけの話だ


 
 「あれ、閣下!」


 店内で閣下を見つけて、思わず声を上げてしまった私。
 プライベートでの買い物だろうから慌てて口を押さえたが、閣下は気にした風もなかった。


 「なんだ。そっちも買物か?」


 閣下は非常に機嫌が良さそうだった。
 その笑顔に私はホッとする。


 「今日は安売りの日ですからね。もしかしたら、閣下に会うのではないかと思っていました」
 「そりゃそうだ。俺が安売りを逃すと思うか?」
 「いえ・・・」
 「あぁ、官舎はここから歩いて15分だからな。俺のいる官舎は、家族がいる士官用の官舎だから、ここは軍人とその一家が良く利用している」
 そうだろうな・・・と私は思い、ふと、閣下のカゴに視線を落とす。
 「あ・・・それ・・・」
 「今日の目玉だそうだ。これ・・・最近人気が高いからな。1度は飲んでみようと思っていた。それが43円とは驚くべき安さだ。今日は1人5缶までだがな。・・・賞味期限が1ヶ月以内らしいが、そんなの大した事ではないし」
 「実は小官もそれを買おうかと・・・」
 「なんだ、卿もか?」
 「はぁ・・・」
 「それならば、早く売り場に行った方がいいぞ。・・・さっき見たら、凄く減っていたからな」


 私は慌てて売り場に行ったが、もう殆ど残っていなかった。
 何とか残っていた3缶をカゴに入れた。


 「凄いですね。やっと3缶だけ・・・」
 「だろう?3缶でもあって良かったな。無かったら“骨折り損のくたびれ儲け”ってヤツになるぞ?この店はフェザ-ンの資本で作られたそうだ。リップシュタット戦役後、フェザーンから資金が流れてきていると言う話だ。きっと、これまで以上に経済状態は良くなるはずだ」


 どうやら、ローエングラム公が勝った事は、市場経済にも活気をもたらしているようだ。
 色々なところで・・・活気が出ていて嬉しい限りである。


 「・・・ところで、閣下は他には何を買われたんですか?」
 「1個30円の玉ネギが2個。これでマミを作る。オニオンスライスやオニオンリングフライとかを作ろうと思ってな。それとフェザーン製の合成ワイン。合成だが、こいつはかなりイケるんだ。フルボトルで1本198円!見切り品ではなく、この値段・・・あぁ、嬉しい」
 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 何だか・・・閣下は興奮状態。
 私には何と言っていいか良く分からないが、閣下が嬉しそうにしているのは・・・見ている私も嬉しい。


 「じゃぁ、レジに行こうかな」
 「あ・・・小官も行きます!」


 ファーレンハイト、ここで、食費の中から500円を支払い、お釣りの27円を受け取る。
 私も、炭酸飲料代の129円を支払った。


 「27円の残りか。まぁまぁだな」と呟かれた閣下。

 そして歩き出す。

 「この上は、2階が生活雑貨と玩具で、3階が婦人服、4階が肌着と寝具、5階が紳士服売り場、屋上にペットショップと軽食の売店がある」
 「あ・・・そうなんですか」
 「今日は5階に行こうと思ってな。部屋着を買おうかと思ってな。こっちは自由に使える金で・・・な」
 「自由に使える金・・・」
 「あぁ、そうだ」
 「・・・って、ここで服を買われるんですか!?」
 「うーん・・・ラクに着られる物はな。かなり安いぞ、ここ。そうだ、卿も一緒に行くか?」

 「あ・・・はい!」


 私は閣下と共に5階へ行ってみる。
 そこは、如何にもスーパーらしい品揃えの紳士服のコーナーだった。

 だが、閣下は・・・ルームウェアのコーナーに行く・・・カッチリした服には一切見向きもせずに。
 そこは、パジャマやスウェットスーツ、Tシャツやトレーナーなどを置いたコーナーだ。


 「・・・おう、これは安い!」


 見ると、白いTシャツが、1枚198円で大量にワゴンに入っていた。
 閣下は素材や縫製にも気を配ってじっくり見ていた。
 このようにしっかり見極める事で、安物でもシッカリとした物を買われるのだ。
 閣下が“安物買いの銭失い”にならないのは、この見極めの為だ。

 「ザンデルス、あっちの238円のシャツは値段は高いが、縫製がまるでダメだな」
 「え、そうなのですか?」
 「あぁ、ロックミシンを使った処理をしているが、縫製が甘い。・・・多分、袖口とか裾がすぐにほつれそうだ」
 「安くても、こちらの方が遥かに物がいいぞ。細かい処理が上手く出来ているから安くても丈夫だ。・・・よし、これを2枚買おう。1枚は今日買った玉ネギの皮で染めてみるかな・・・」

 それを聞いた途端、私は「・・・・・・・・・・・・・・・」となった。
 玉ネギで染色・・・確かに出来るが、この発想が凄い。


 更に歩いていると、ワゴンでスウェットの上下が売られていた。
 黄色の紙に、赤いポップ文字で、『レジで更に半額割引!!』と書かれた垂れ幕が天井から垂れ下がっていた。
 ワゴンの中からオレンジ色のを選んだ閣下は、「・・・先月もここで、ネイビーのスウェットを買ったが、今回のこのセールは凄い。1500円の品だから、750円になる訳か。うん、これはいいぞ。家の中では楽なのが一番だからな。あ・・・このエンジ色のも買っておくか」

 閣下は自分に似合うサイズを見付けられて、とても嬉しそうだった。


 「なぁ、家の中で着るのはこれで十分だろう?」
 「はぁ・・・」


 早速、Tシャツ2枚と、2組のスウェットスーツをレジに持って行く閣下。
 ファーレンハイト、ここで1896円を支払い、104円のお釣りを貰う。
 閣下は、財布・・・と言っても小銭入れだが・・・を覗き込む。
 そして、ブツブツと呟く。


 「よし、今日使ったのは1896円。・・・という事は104円の残り。・・・これは来月に繰り越しだな」
 「繰り越しって・・・閣下?」
 「あぁ、実はな、俺が自由にお金を使えるのは・・・月に1日という事にしているのだ。そうしないと際限がないからな」
 「なるほど・・・予め使う金額等を決めておくのですね」
 「ああ・・・それしないと残らなくなるからな。そして、決めた金額の範囲で自分の服とか、欲しい物を買うんだ。一応、持ち金は2000円。少ないが、これが俺の純然たる小遣いという訳だ。それで余ったら、それを翌月に繰り越すんだ」
 「それでは・・・来月は2000円プラス、今日の繰り越し金ですか?」
 「違うな。今日余ったお金が104円。だから来月は、これに1896円を足して2000円にするのだ。決して2000円を出ないようにしているんだ」


 私は、二の句が継げないほど驚いた。
 帝国軍の中将の小遣いが、たったの2000円とは・・・。
 まるで小学生の小遣い並みの金額・・・。
 私もこれには、かなりの衝撃を受けた。
 貧乏なら私も負けていないが、さすがに自由に使える金が2000円ではないので・・・閣下にかける言葉が見つからない。
 漸く、「感服しました、閣下・・・」と言うが、本当に驚いた。 
 「いや・・・な。普段、飲んだり食べたりする分は食費の中でやり繰りするし、同僚に奢らせたり、臨時に出費する場合は別枠で取っておいた予備費で賄うが、俺にとっては、この2000円が月イチの贅沢になるのだ」
 「贅沢・・・はぁ・・・」

 あまりの事に呆然と立ち尽くすしかない私。
 2000円が“贅沢”とは・・・もう、返す言葉もない。


 「この店・・・本当に安いですね。小官も物の値段はマメにチェックしていますが、今までここよりも安いところを見た事がありません」
 「だがな・・・ザンデルス。ここよりももっと物価が安いところがあるのだ」
 「え、本当ですか?」
 「フェザーンだ。以前・・・ミュラーがフェザーンで駐在武官をやっていた事があったらしくて、その当時の事を聞いたのだが、フェザーンではオーディンよりもかなり物価が安いらしい。実際に調べてみるとその通りなのだ。今日買ったワインにしても、フェザーンでは30円から50円程度は安い。衣料品やその他の生活必需品も驚くほど安いのだ。・・・これを知ったら、一瞬、住んでみたくなったほどだ」


 本当に羨ましいのだろう。
 遠い目をしながら熱く語られる閣下に私は圧倒されていた。


 「はぁ・・・そうなんですか。そういう事までお調べになられているとは・・・さすがです、閣下」
 私も今後、閣下を見習おうと、改めて貧乏生活の達人の閣下を“師匠”と仰ぐ事にしたのだった。
 「閣下・・・小官も閣下を見習います!」


 そんな私に閣下は、「・・・じゃあな」と言われて、お買いになった品々を大事そうに抱えて帰って行かれた。




 この日、私が買ったのは・・・例の発泡酒3缶、129円のみ。
 本当はもっと買物を・・・と思ったのだが、閣下の買物に付き合ったら気力が失せてしまった。
 結局これだけを入れたビニール袋を、転車のハンドル部分にぶら下げて、私は官舎に戻って来た。
 あんな風に生活しているとは・・・閣下の凄さを思い知った。


 冷蔵庫で発泡酒を冷やす。
 1時間程度の昼寝をして起き上がった私は、1缶を冷蔵庫から取り出して・・・飲んだ。




 私の頭の中に浮かんだのは、今日買ったオレンジ色のスウェットスーツを着て、2個の玉ネギでオニオンスライスとオニオンリングフライを作り、それをツマミにして合成ワインや発泡酒を飲みながら、本来は捨ててしまう玉ネギの皮で一生懸命にTシャツを染めている閣下の姿であった・・・。





Das Ende




 ファーレンハイトの副官のザンデルスが目撃した、ファーレンハイトなりの「贅沢」な話。
 
 はたから見たらば・・・。
 ちっとも贅沢には見えないのだけれど、ファーレンハイトは実に楽しそうにしていますから、やはり、「贅沢」で楽しい「買物」」なのでしょう。
 それにしても、2000円で楽しむ・・・お買い物。(^^#)


 実は、これは私の実体験でもあります。
 実は、うちの近くにもあるんですよ・・・超格安の店。


 ポンジュースの缶が1缶19円とか、安いです。(毎日じゃないけど)


 人参をビニールに詰め放題99円ってのがあって、とにかくビニールに入っていればOK!って事だったので、苦心して詰め込んで買って帰ったら、何と28本詰め込んでいました・・・。(母と義理姉、義理叔母にあげてもかなり残った・・・)


 なので、2000円もあれば、相当お買物が出来るんです、この店って!!


 ファーレンハイトは、こういう所で楽しみを見つけそうよね?
 こういうお店は、多分・・・ロイエンタールには全く似合わないけど~!
 ミッターマイヤーはエヴァと買い物している姿を想像出来ますが、本当にロンエンタールは似合わないです^^@


 因みに、リップシュタット戦役が終結した年の10月に、ファーレンハイトは大将に昇進。
 多分、これに伴って、ザンデルスも佐官に昇進してます。
 しかし、書いたのが本当に古い上に、細かいところが何だか間違っていて。(階級とか、まぁ、他にも色々と)
 直すのが大変だった・・・アハハハハハハ。


 それにしても、ビンボー臭い話^^@