※ この物語は便宜上、帝国マルクを円で換算しております。ご了承下さいませ。




 「閣下はオークションをなさっているんですよね」


 私からそう問いかけられると閣下は微笑んだ。


 「あぁ、まあな」


 そしてその後に、「だが、実はオークションで自分用に何かを買った事はない」と答えられた。
 私が、「え、そうなのですか?」と問うと、「いや・・・」と閣下は即座に首を振られた。
 「あ~なんだ。それだと誤解を与えてしまうな。買う事もたまにはある。だが、それは転売して利益が出そうな時だけなのだ」
 「転売ですか!そうすると、高値になるのを色々と見極めて買われる・・・という事ですよね?」
 「まぁ、そうなるだろうな。実はな、安く買えた時は、出した人間が価値を知らない場合が殆どだ。例えば、家人に不幸があって家財道具や遺品をオークション処分する場合、何の価値も知らないで出している場合がある」
 「良くある話ですね・・・置き場に困って売ってしまうと言うヤツですか」
 「あぁ、下手に鑑定にでも出して偽物だった場合、鑑定料を取られて大損だからな。だから、オークションに出して外の人間に判断してもらう訳だ。そういう出物の場合、驚くほど、あり得ないような安い値段で出ていたりするのだ。そういう場合は・・・タイミングを見て落札する。だけど、普段は専ら、『売り』に徹している訳だ」
 つまり、「買い手」となる事もたまにはあるが、商品を転売して大儲け出来そうな時にだけ買い手になるだけであって、基本的には『売専』なのだそうだ。
 私が思わず、「え・・・と」と言葉に詰まると、「オークションにも色々あってな。家に眠る不用品をフリーマーケット気分で売るのも有りだし、それを商売にしている者もいる。骨董商とかも出しているしな」と答えられた閣下。


 「でも、実際に商品を手に取ったりしないで、良く本物かどうか見極められますね・・・」
 「俺は骨董には手を出さない。そういうのは詳しい人間がいるだろう?」
 「え?」
 「ほら、メックリンガーだ。そう云う物の目利きは、芸術家であるあの男の方が優れている。だから、手を出さない」
 「まさか・・・メックリンガー提督が安く買って、閣下が高く売る?」
 「おい、話を飛躍させるな。俺はこういうのが出ているとメックリンガーに情報を流すだけだ。それを見て、あいつは・・・自分のコレクション用に買うんだ。俺とは正反対に買専なのだ。良い物と悪い物を見極める能力は優れているから、今まで、偽物を買った事は無いらしいぞ」
 「あぁ、出物の情報を流すだけなんですか・・・まさか、メックリンガー提督と一緒に売買されているのかと思いました」
 私は一瞬、ヒヤリとしたが、取り越し苦労だったようで脂汗を拭った。


 「それにしても、偽物を買った事が無いなんて凄いですね・・・メックリンガー提督も」
 「全くだ。情報を流すとな。『情報の四分の一は外れていますが、たまに掘り出し物がありますからね。それが無ければあなたから情報を得る価値は無いのですよ』なんて涼しい顔で言うんだ。全く・・・芸術家ってヤツは・・・」
 それを聞いて、もしかしたら、閣下の上手を行くのは、芸術家提督だの、文人提督だのと呼ばれている、メックリンガー提督かもしれない・・・と、一瞬だけ思った。
 「とにかく、俺が本物かどうか見極めているのは、芸能関係とか、スポーツ関係とか・・・そういう関係のグッズとかの類だ。こっちは外れた事は無い」


 閣下は自信たっぷりだった。
 なるほど・・・と私は思った。
 確か、オークションで売った訳ではないが、ミュラー提督に大女優のレジーナ・レヴァルトフのグッズを売った事があった。
 芸能関係に強いなら、手に入れたグッズを転売するのも何となく納得出来るからだった。


 「ひとくちにオークションと言ってもな。色々あるんだ。価値の高い物と低い物を抱き合わせて売る方法もある。買い手がつかないソフトと人気ソフトを一緒にすると売れるから、在庫処分になったりな」
 「でも、閣下の場合は商売ではないのでしょう?」
 「どうだかな・・・」
 そう言って不敵に笑われる。
 「積極的に売っている点で、ある意味、既に副業の領域にまで足を突っ込んでいるかもしれないな・・・内緒だがな」
 「内緒・・・なんですか?」
 「いや、オークションは個人の趣味の一環でもあるので、ストア出店さえしなければ、古美術を売ろうが、違法ではないのだ。普通は、古美術の場合は免許が無いと売買は不可能だ。だが、個人が所有する物を個人間で取引するのは違法ではないし、さすがに規制も無い。それに、軍の規約でもオークションは禁止事項には含まれていないからな。まぁ、ただ・・・こういう事は、大っぴろには言わない方がいいから、あえて“内緒”と言ったのだ」

 
 内緒と言われて、私は少々言葉を潜める。

 「まぁ、売り専門でも何でもいいのですが、今までにどんな物で儲けられたのですか?」
 「儲けは・・・大した事無いぞ。それに、金額を言うのは野暮な話だ」
 「それじゃぁ、質問を変えて・・・今までどんなのを売られたんですか?」
 「まぁ、色々・・・だな」
 閣下は言葉を濁してクスクス笑い、それ以上を言わない。
 「勿体ぶらずに教えて下さいよ、閣下。今までどんな物を売られたのですか?儲けは聞きませんから・・・せめてそれだけでも」
 「・・・なんだ、ザンデルス。もしかしたら・・・卿もオークションに興味あるのか?」
 「まぁ・・・そんなところです」


 それを聞いて、閣下は真面目な顔をされた。

 「レクチャーしても良いが・・・これはセンスを問われるのだ、最終的にはな」
 「センスですか?」
 「あぁ、タイミングとか、相手の心に訴えかけるような売り文句だったり。対面式の販売じゃないから顔が見えないだろう?相手とは文章だったり、商品画像だけで判断してもらうしかない訳だ。だから神経を使うんだ。そして成立したら速やかに発送する。信用に関わるから、金が振り込まれたら即発送をする訳だ。誠意を見せれば、リピーターにもなってくれるのだ」
 「なるほど・・・迅速が鉄則なのですね?」
 「あぁ。俺の場合は、地上にいる間にオークションをやる訳だ。俺は名前が知られている可能性もあるから、自分の名前ではなく、姉や妹の名前で発送しているのだ」
 「え・・・!!?本当ですか?」
 「あぁ、すぐ上の姉と、すぐ下の妹は結婚して姓が変わっているからな」
 「なるほど・・・ファーレンハイトではない訳ですか・・・」
 「それに、俺の影響か、姉や妹もオークションをやっていて、既に達人の域だぞ?」
 「達人・・・そうなのですか?」
 「まぁな。女性が働くと言っても儲けなんぞは期待出来ない。そこで、ある方法で臨時収入を得ているのだ」
 「凄いですね・・・」
 「そうだ。さっきの卿の質問だが、今までに売った中での儲けの話だが、儲けは殆ど無かったが面白い話ならあるぞ・・・。今まで誰にも話した事が無いのだが、聞く気はあるか?」
 そう言われると、興味が湧いてくるから不思議だ。
 私が頷くと、閣下は「ちょっと、大っぴろには言えない話で・・・」と前置きしてから話し始めた。


 「俺も色々な物をオークションで売っているが、アレは今考えても無謀だったと思うのだ」
 「え・・・まさか。何か不味いものでも売られたんですか?まさかとは思いますが、サイオキシン麻薬とか、そういう事を言わないで下さいよ・・・」
 「・・・おい、おい。さっきも言ったが、卿の考えは飛躍しすぎる傾向にあるぞ?・・・そんな危ないモノは、いくら俺でも売らないし、入手してどうしようと言うのだ?第一、首が幾つあっても足りないではない。・・・俺が売ったのは『竜の牙』だったんだ」
 「え・・・竜の牙!?」


 予想外の商品名に私は耳を疑った。
 空想上の生き物の牙・・・。
 そんな物、この世のどこを探したってある訳ないではないか・・・。
   
 「・・・竜と言っても、空想上の怪獣のではなくて、『恐竜』の牙なんだが。・・・ほら、子供の頃に聞いたは事ないか?あの地球上に、人類が発生する前に栄えていたっていう超巨大な爬虫類の話だ」
 「あぁ、子供の頃に、カラー・ヴィジュアルの本で読んだ事があります。鎧のような物が付いた、トリケラトプスとか、ステゴザウルスとか。巨大な肉食恐竜のティラノザウルスとか、長い首を持ったブロントサウルスや、空を飛ぶ、プテラノドンってのも確かいましたね。・・・えっと、隕石の衝突か何かで、地球上の大気が急激に冷えてしまった為に、その巨大な生物達は滅んだとか・・・色々な説がありましたよね。・・・閣下が売られたのは、それの化石か何かなんですか?だとしたら、考古学上、非常に貴重じゃないですか」
 「まぁ・・・本物の化石だったらな」
 やや歯切れの悪い閣下の言葉。
 「は??偽物なんですか?もしかして、化石に似せた石膏なんかで出来ているとか・・・?」
 「いや、俺が売ったのは本当に化石なんだが。竜の牙じゃない。尖ってはいるが、恐竜のじゃなくて・・・ただ・・・」
 「じゃぁ、一体・・・何の化石だったんですか?」
 「犬・・・だ」
 「犬!?」


 犬と恐竜・・・。
 似ても似つかないではないか。
 大体、大きさが違い過ぎる。
 突拍子も無い話だ。
 呆気に取られて、二の句が継げなかった・・・。


 「俺が子供の頃の話なんだが、俺の母親の知り合いが、新しく家を建てるのに基礎工事とかで地面を掘り返していたら、地中から大型犬の骨が化石状態で出て来たらしい。最初は骨だから色々と大変だったらしいが、何千年も前の犬の化石だったと後に分かったらしい。勿論、普通は、気持ち悪いから、考古学の学者でもない限りは、処分したがるではないか?だが、その犬歯が実に見事だったので、取って置いたらしいんだ」
 「その方も貴族なのですか?」
 「あぁ、やっぱり下級貴族だが、うちより・・・数倍は金持ちだ」
 「その家に行った時に見せてもらった時に、思わず、『珍しい超小型の竜の牙の化石』って事でオークションに出したらすぐに売れるかもしれませんね』って言ってしまって・・・」
 「そ・・・それで?」
 「母の知り合いは、その家の当主の妹で・・・当主に、『そんな簡単に売れるのか?』と聞かれたのだ」
 「まぁ、普通は聞くでしょうね・・・」
 「その当時、俺は士官学校に入って間もない頃で、その家には休暇の時に遊びに行ったのだ、母に連れられて。・・・で、当主が興味を持ったらしくて、『そんな事が可能なら君にあげるから売ったらどうだね?儲けも君が取ればいい』って言いだしてな」
 「それじゃ・・・本当に売られたんですか、犬の歯の化石・・・」
 「あぁ。勿論、物が物だけに、タイトルに『格安!恐竜の牙の化石かもしれない貴重な化石!?』って付けて、冗談半分で出したんだ。尤も今なら気にしないで強気で売るんだろうが、当時はまだ子供だし、それほど勇気も無かったからな。でも・・・でも売れたんだ、これが」
 「でも・・・相手だって、分かるんじゃないですか、恐竜かそうでないかぐらい・・・。良く、買われましたよね、その人も」
 「あぁ、全くだ。俺だって売れるとは思ってなかったからな。だけど、ノークレーム・ノーリターンだったし、第一、3000円で即決だったからな。3万円の値段を付けなかったのが、俺の良心の表れとも言える。それに、『恐竜の牙の化石“かもしれない”』って打ったしね」
 「なるほど・・・」
 「それに、犬とは言え、本当に化石なのだし・・・あの値段では文句を言えないかもな。実際に苦情はなかったよ。まぁ、一歩間違えれば、『詐欺師』扱いされていたかもしれないけどさ・・・」
 そう言いながら、閣下は懐かしそうな目で話す・・・。


 「これに味をしめて・・・オークションをやり始めた訳だ。15歳からやっているから、もう、倍以上の年月をオークションと共に歩んでいるのだな」
 「そういう事になりますね・・・凄いですねぇ」


 ただ、私から言わせれば、恐竜だと思って買った人は、きっと騙された事を怒ったに違いない。
 しかし、値段が値段だし、あまりにも馬鹿らしいので警察に届けるのを諦めた・・・と言った方がいいだろう。
 
 『今なら気にしないで強気で売る』


 私は、こう明言した閣下に頭が上がらない。
 せっかくレクチャーを頼もうと思ったが、ちょっと小心者の自分にはオークションは向かないかも・・・と思い始めていた。
 


 あぁ、閣下・・・おさすがです。





Das Ende





 100のお題から「竜の牙」です。

 内容は、ファーレンハイトのオークション話となりました。


 実は・・・。
 このタイトル見た時にピーンと来たのは、ファーレンハイトの声をされている速水奨さんのご趣味が関係していたりします・・・。
 何と、速水さんのご趣味は!
 『アンモナイトの化石集め』だそうです・・・意外なご趣味ですよね。
 それで、恐竜の話が浮かんできました・・・安易ですが。


 そう言えば、速水さんは、新宿の紀伊国屋書店の化石コーナーがお好きなんだとか・・・本で読んだ事があります。
 今も行かれているかどうか分かりませんが・・・。
 運が良ければ、化石コーナーでアンモナイトを物色する速水さんと遭遇するかも!!?


ファーレンハイトにこんな事をさせているのは原作とはかけ離れていますが、あくまでコメディなので・・・。


 あ・・・そうだ。
 もしタイトルが「竜の爪」だったら、ワーレンの旗艦、「火竜<サラマンドル>」をネタに話を書いていたかもしれません・・・。
 あの戦艦の下部に付いているのは、どう見たって・・・爪ですよ、爪!!
 「サラマンドル」は4精霊の1つで、火を司る精霊の事。
 因みにあとの3つは、風を司る「シルフ」、地を司る「ノ-ム」、水を司る「ウンディーネ」です。
 他の4つは戦艦の名前にはならなかったようですが、サラマンドルだけは、戦艦名になったんですねぇ・・・。
 
 まぁ、とにかく・・・「爪」じゃなくて、「牙」だったので、「恐竜」に行ってしまったのでした・・・アハハハハハ。


 ザンデルスは、私の中で勝手に、想像力の逞しい人になってます。

 ファーレンハイト関連の話で、ビッテンフェルトが出て来る話があるのですが、そこでもまた、とんでもない発想をしてくれちゃってます。
 この作品は、来週UPしますのでヨロシク~♪