※この小説は、便宜上、帝国マルクを円換算しておりますのでご了承下さいませ。



 「おい、どこかに飲みに行かないか?」


 ファーレンハイト閣下に誘われた私は驚いた。
 我が耳を疑ってしまい、思わず、「・・・は?何をですか?」と間抜けな事を聞いてしまった。


 「だから、酒でも飲まないかと言っているのだが・・・」
 「閣下、小官にはお金ないですよ・・・」


 今月は懐が寒いのだ。
だから・・・極力出費を控えている。


  「あのな・・・ザンデルス。卿は何か勘違いしていないか?俺は卿に奢らせた覚えは1度だってないぞ?」
 「まぁ、そうですが・・・」
 「あのな・・・今回は俺のおごりだ・・・。ちょっと臨時収入があってな」
 「え?臨時収入ですか?」

  閣下が平然と言われたので、私は更に我が耳を疑った。
 まさか、閣下からそのような言葉を出て来るとは・・・俄かに信じがたい。
 酒を飲む時は、いつも『他人に奢らす』と言っている閣下の言動とは思えず、思わず、「ほ・・・本当ですか!?」と声を荒げてしまった。

 「本当だ。俺は、元々、そんなにケチではないのだぞ?たまたま育った環境がそうだっただけだ」
 「はぁ・・・」
 「・・・実を言うとな。大将に昇進したら、まぁ、当たり前の事だが、多少は昇給したし、心にも余裕が生まれたのだ・・・」
 「ははぁ・・・なるほど」
 「給与担当者は、調整給と言っていたが、今月は割り増し分が含まれていてな、早い話が臨時ボーナスと言う訳だ。ただ・・・これは完全に仕送りに回すのだがな」
 「・・・はぁ。それでは、いつもと変わらないのではありませんか?殆ど残らないのでしょう?」
 「いや、それでも今回は飲みに行けそうだ。本当に臨時収入があったのだ、調整分とは異なる別口・・・でな」
 「別口?」
 私が首を傾げると、「だから、どこかに飲みに行ってもいいな・・・という気分でな。たまには自分の金で飲んで、ついで部下にも奢る・・・と。・・・うーん、何だか普通の上官っぽい。・・・そうは思わないか?」と閣下は笑顔を見せる。
急にそんな事を言われても・・・私は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 「ところで、別口の臨時収入ってなんですか?」
 「ちょっとな・・・まぁ、いいじゃないか。臨時収入は臨時収入で」
 「はい」
 これ以上聞くのは藪蛇なので、私は黙って引き下がった。
 大方・・・オークションで何かが高値で売れたのに違いない。
 閣下の臨時収入は大抵・・・オークションで何かが売れた場合が殆どなのだから。


 閣下の部下になって数年。
 うちの閣下が、手放しで奢ってくれたためしは殆ど無い。
 私は何と言って分からず、呆然と閣下を見つめるしかなかった。
 いつも鬼の形相を浮かべてキッチリと家計簿をつけている閣下は、もし私に奢ったら、記入欄に何と書くおつもりなのだろう?
 ・・・それに、私も閣下と同じくらい金銭に関してはケチな方だ。
 単純に奢ると言われても、きっとケチケチと飲むんだろうなぁ・・・閣下は、ご自分の懐具合を気にしながら。


 「・・・どうでしょう、閣下。どこぞの店に行くのも良いですが、あの手の店は人件費がかかったり、家賃などを考慮して、酒類が普通に店で買う以上に高くつくんですよね。食べ物にしても、冷凍物を使っている店だってあるそうですし・・・。いっそのこと、家で飲んだ方が気兼ねがなくて、安上がりかと思うのですが・・・」
 「・・・うむ。確かにそうだな」
 閣下は遠い目をされた。
 きっと頭の中では、カチャカチャカチャ、チーン!と脳内計算機で、どっちの方が安上がりか計算しているに違いない。
 「なぁ・・・。あの手の店は・・・客にサービスする女性の給金も、やっぱり料金に含まれているのだろうな」
 「・・・多分そうだろうと思います、閣下」
 「よし!じゃぁ、こうしよう。明後日は卿も俺も休みだ。・・・卿はうちに来い。うちは家族入居用の官舎だから、キッチンも広いしな」
 「・・・え、閣下の家にですか?」
 「あぁ、卿には俺の手料理を食わせてやる」
 「・・・閣下の手料理って・・・お料理をされるんですか!?」
 「あぁ、こう言ってはなんだが、結構得意だぞ?・・・簡単な物しか作れないがな」

 私は、不用意な事を言って、閣下を怒らせる事だけはしなかった。
 かつて、閣下の副官をしていたエルレンマイアー大尉は余計な事を言って、閣下の機嫌を損ねたりしていたのだそうだ。
 ・・・私は同じ轍を踏みたくない。


 「小官は料理は不得意なのですが、お得意とは素晴らしいです」
 「そうか?褒められると嬉しいものだな」
 「・・・それでは、何時頃にお邪魔すれば良いでしょうか?」
 「そうだな。・・・じゃぁ、準備なんかもあるから、明後日の20:30<フタマルサンマル>ってのはどうだ?」

 私は、ちょっと遅いなぁ・・・と思ったが、顔には出さず、「はい、了解しました!」と言ってピシッ!!と敬礼した。
閣下は、「酒も食べ物もこちらで全て用意しておくから、卿は手ぶらで来いよ。いいか、手ぶら・・・だぞ」と念を押された。


 2日後、私は考えた末に私服で閣下の官舎に向かった。
 閣下が念を押されたので本当に手ぶらで出かけた。
 出迎えてくれた閣下はの格好は、モスグリーンのスゥエットの上下。
 実にシンプルだな・・・と思っていたら、「これな・・・上下でたったの500円だったんだ」と言われて、私は思わず、「や・・・安いですね。どこでそんなの見つけるんですか?」と尋ねた。
 すると、「倒産品を扱うサイトでな・・・送料込みでこの値段だった。これと、グレーのも買ったんだ」と嬉しそうな笑顔をされた。
 安く買えて満足なのだな・・・きっと。


 閣下は、このスゥエットに、薄い水色の木綿のエプロンをされている。
 これまたシンプルなのに・・・何故か似合う。
 ・・・と言うか、閣下は何をお召しになられても似合うのだ。

 「閣下・・・エプロンをお持ちだったのですか?」

 私が問うと、妹さんの手作りとの答えが返って来た。
 「うちの妹は手芸が得意でな。それはそうと・・・酒は、ビールが2ケース・・・と言ってもビール風味のリキュールだ。本物のビールは高いし、発泡酒もやっぱり高いからな。でも、リキュールでもこれは美味い。あとは、ほら・・・合成ワインだ。だが、酒に煩いヤツでも認めざるを得ないくらい遜色ないヤツを用意した。・・・ちゃんと冷やしてあるから」
 官舎に備え付けの大型の冷蔵庫に、酒がビッシリ・・・とまではいかないが、かなりの量が入っていた。
 閣下にしては大盤振る舞いだった。

 「・・・で、食べ物はこっちだ」

 私はテーブルに並んだ料理を見て、聊か、不信感と言うか、不思議な気持ちになっていた。
 ・・・これは一体なんだろう?


 全部で5種類。
 1皿目は、大量の人参を千切りにした人参のサラダ。
 マヨネーズをベースにしたドレッシングを閣下は手作りしたと言うが、マヨネーズを赤ワインで延ばして、ペッパーを少々入れてあるようだった。
 2皿目は、これまた大量の人参を使った料理で、人参のガーリックソテー。
 バターとガーリックの風味が食欲をそそるニオイを発していた。
 3皿目もソテーで、こっちは大量の椎茸だ。
こちらのソテーは、バター、塩・コショウでで軽く味を付けただけのようだ。
 4皿目も椎茸料理で、大量の椎茸のフリッター。
こちらは、オーロラ・ソースで食べるようだ。
 5皿目は、茹でてマヨネーズを添えたスナックえんどう豆で、これまた大量・・・皿にてんこ盛り状態だ。


 「これは・・・全部、閣下が作られたのですか?」
閣下はにこにこしておられた。
 「あぁ・・・人参と椎茸とスナックえんどうが、行きつけのスーパーの『かぶら屋』の夕方のタイムセールで激安だったのだ」
 「タイムセール!だから、この時間の宴会になったのですね?」
 「そうだ、卿は察しがいいな。夕方に食材を買う関係で・・・な。どれも、ビニール袋に詰め放題で99円なんだ。とにかく、ビニールに入っていれば、いくつ詰め込んでもいい。ビニール袋からはみ出していても、一部分でも入っていればいいと店の奴が言うから、人参は30本、椎茸は40個、スナックえんどう豆に至っては78個も詰め込んだ。・・・スナックえんどうは、もう少し頑張れば80個は詰め込めたかもしれんな。・・・実に惜しい事をした」
 「そうすると合計で・・・」
 「あぁ、297円だ」
 なんと安上がりなのだろう・・・!


閣下は、夕方のタイムセールで食材を手に入れて準備をする関係で、午後8時半と言う時間になったと説明された。
 それに、今日の夕方には、アルコール類の特売もあったのだそうだ。
 ビール風味のリキュールは1缶で43円だったそうで、1人20缶までだったので860円・・・安過ぎる。
 合成ワインは、フルボトルで1本198円・・・これを4本なので、792円・・・これまた鬼安だ。
 食べ物と飲み物の合計で、1949円!!
 2000円でお釣りがくる計算に・・・。
 私は、心の中で、(節約の鏡!!おさすがでございます、閣下!)と感動し、新たな忠誠を覚えていた・・・。


 「これだけの料理を作っても、まだ食材が余っていてな。アルコール類だってさすがに残るかもしれない。そうだ。・・・明日は、人参をフリッターにでもするかな」
「・・・食材、余っているんですか?」
これだけ沢山調理してあって、余っているって、閣下って一体・・・。
 「スナックえんどうも余っているし、椎茸も人参もまだまだあるぞ。・・・そうだ。明日も来ないか?」
ワインに酔った訳ではないだろうが、私は、閣下の節約生活の一部を垣間見て、頭がクラクラしていた。
ワイングラスに、合成の赤ワインを満たして、とても機嫌が良さそうな閣下。
私が、「美味しい、美味しい」と言って食べたのが嬉しいようだった。

 「聞いて驚け、ザンデルス。調味料とか油、粉とかは考えに入れないとして、食材の方は全部で約100円ってところだな。・・・食材は三分の二は余っているからな」
 「・・・そ、そんなに余っているのですか。それは凄いですね、閣下。そうそう、フリッターですが、先程閣下の言われていた人参のフリッターも結構イケるんですよね。人参は油を使うと甘くなるので」
 「そうだな。じゃぁ、明日はそれを作ってみよう・・・。スナックえんどうを茹でて潰して、小麦粉と混ぜて団子にして油で揚げても美味そうだしな。安い食材だって工夫次第で美味く食えるからな。明日はこの3つを入れて煮物も作ってみよう・・・」


 2人は、安い酒を飲みつつ、人参と椎茸とスナックえんどうでの料理を堪能し、夜が更けるまで楽しんだ。
安い食材ではあっても、閣下は料理がとてもお上手だったので、どれも美味しくてあっと言う間に無くなり、欠食児童並の我々2人の腹は満足&満腹になったのであった・・・。
 
 ・・・あぁ、極貧主従に乾杯<プロージット>!!




Das Ende




 くだらない話でスミマセン。

 そして、カッコイイ・・・ファーレンハイトのファンの方々・・・イメージが激崩れなので先に謝っておきます。


 ゴメンナサイ!!!!


 友人とファーレンハイトが安い材料で料理をしたらどうなるか?と言う話で盛り上がった時に、何となく思いついてメモっていた事を元に書いてみました。
 さすがにその時に出た「もやし」に関しては、帝国にあるかどうか分からないので、今回は材料の中に含まれておりません。
 あと、「しいたけ」も実は怪しくて、帝国にあるのかな・・・と悩んだ末に、まぁ、いいか!と開き直って使っております。 


 さて・・・。
 ファーレンハイトがザンデルスを官舎に招いて飲み会をする。
 しかも、彼が手料理を作ったらどうなるか?を妄想し、ケチ臭い、だけど、美味しい料理を作ってもらいました。
 どれも超簡単で、意外とイケます!!←私もケチ・・・いや、節約主婦なのよ!
 極貧主従・・・永遠に不滅です。


 因みにお酒の値段はウソですが、食材は実際に私が買った事がある“事実”に基づいてます。
 本当にこれだけ詰め込んでいて、家に帰ってから数えてビックリ!!!

 スゥエットは、近くのバッタ屋で、本当に上下500円でしたよ。
 ダンナがパジャマとして着てます・・・値段は言っていないけど、何故か気に入ってくれた。
 
 因みに、かつて知人に、『かぶら屋のモデルは▼★■でしょ?私も良く行きます』ってメールを貰った事がありました。
 まぁ、バレたのは彼女だけでしたが・・・。
 彼女は私が住んでいる市内で働いていたからバレたんだけど^^@

 一昨年ぐらいに、旦那さんのお仕事の関係で引っ越されて、彼女とは・・・それからは疎遠になってしまいました・・・。


 この店、今年の春ぐらいに、本物かどうか怪しいですが、ベネトンの長袖Tシャツが570円で売られていて買ってしまいました・・・。
 それに、メンズの柄物Tシャツが300円だったしね・・・サイズはSからありましたので、女性にも十分で、今年の夏はコレを買ってしまいました。


 そうそう・・・作中に出て来たオークション云々の話ですが、ファーレンハイトの趣味の一つがオークションに何かを出品する事だったりします。
 売れそうな物を見つけ出し、本当にそれを高値で売る。

 ファーレンハイトのオークションは、「売り専門」です

 ・・・物凄い鼻が利くんですね、ファーレンハイト。
 なので、彼がザンデルスに奢る場合は、殆どがこの臨時収入の後って事になるのでした・・・アハハハハハ。


 きっとね、これからUPする作品の中に、出てきますよ~オークション絡みの話とか。

 それに巻き込まれるのは、ミュラーだったり、キスリングだったり・・・まぁ、色々な人を巻き込んでます。


 馬鹿馬鹿しいけど・・・待っていてやって下さい。