「あら、ユリアン・・・お買いもの? 」
「フレデリカさんもお買い物ですか?」
ヤンとフレデリカが結婚したのは、今から2週間前の話である。
買い物に行った先のスーパーで偶然にも彼女と出会ったユリアンは、急に深刻な表情を取ったフレデリカに、つい自分も顔を引き締めた。
「・・・ふう。何でなのかしら。・・・どうも上手く行かないのよね」
「あの・・・どうかなさったんですか?」
何も入れていないスーパーのカゴを見つめたまま溜息ばかりついているフレデリカに、ユリアンは戸惑いながらも声を掛けた。
「あのね・・・。こんな事、キャゼルヌ夫人にも聞けないし・・・」
「え・・・キャゼルヌ夫人に聞くって・・・」
「あ・・・何でもないわ。気にしないで・・・はぁ~・・・」
「あの・・・もしかして、料理の事で何か・・・?」
恐る恐る聞いてみるが、フレデリカは微妙な笑みを浮かべるだけだった。
ここは大型スーパーの食品売り場。
しかも豊富な品揃えが売り物の『惣菜』売り場だった。
もっとも、ユリアンはここでは何も買う予定はなかったが。
ただ単にレジへの近道に通っただけだったのである。
この売り場をうろうろするフレデリカに、何となく不安を覚えたのだった。
「もしかして・・・ここのお惣菜を買うつもりで・・・」
「あら・・・察しがいいわね。あのね、聞いてくれる?」
「はい?」
「あのね・・・キャゼルヌ夫人に教わって、ピラフだけは練習に練習を重ねて作れるようになったのだけど・・・」
「ピラフですか。あ・・・そう言えば提督がこの間、ピラフがとても美味しかったって言っていました」
「え・・・本当に?」
フレデリカは嬉しそうな顔になったが、急に溜息をついた。
「あのね・・・それでピラフを応用しようと思ったんだけど・・・」
「はぁ・・・応用ですか?」
「そう・・・あのね・・・」
フレデリカから事のあらましを聞いたユリアンは吹き出しそうになったが、そこはそれ、何とか踏みとどまった。
「・・・フレデリカさん、オムライスを作るのに、ピラフにそのまま生卵をかけちゃダメですよ」
「あぁ、やっぱり?」
しゅん・・・として、肩を落とすフレデリカ。
出来上がったピラフに溶き卵をそのままかけてしまったのだ。
さすがのフレデリカも自分の失敗を悟ったらしい。
「・・・何かいい方法はないかしら。このままでは主婦失格よね・・・」
「いい方法ですか。あるにはありますけど・・・とっても簡単な方法が」
ユリアンの言葉にフレデカリは顔を輝かす。
「え、本当に!?ねぇ、悪いけど今から教えてくれない?」
「今からですか!?」
「そう・・・あの人が戻るまでに何とかしたいから・・・」
「はぁ・・・」
「お願いよ・・・助けて!」
フレデリカの必死の訴え。
それで、ユリアンは乗りかかった船と覚悟を決めた。
助っ人を買って出る事を約束して・・・急いで2人の新居へと向かったのである。
キッチンはまさしく前線の戦場そのものだった。
何をどうしたら、ここまで凄まじくなるのか・・・。
ユリアンは息を呑んでその場に立ち竦み、言葉を失ってしまった。
2人の為に用意された新居のキッチンは、飛び散った卵とライスで奇妙奇天烈な模様を作っており、見るも無残な有様。
この強烈な汚れは・・・どうしたものか。
料理が全くダメなフレデリカも、キャゼルヌ夫人の指導の甲斐あって、最近漸く特訓の成果が出てはいた。
フレデリカの作ったピラフを、ヤンが褒めたとユリアンは聞いたが、それはかなり“怪しい”と思われた。
多分、半分はヤンののろけだったのだろう。
ところが、やっとピラフが作れるようになって、自信のついたフレデリカは、無謀にもオムライスに挑戦したのだ。
ところが、元々作った事が無いから手順が分からない。
フライパンの中の、せっかくの出来た苦心の作のピラフに、ボールに割りほぐしたドロドロの生卵液をかけてしまったのだ。
せっかくのピラフはオムライスになるどころか、ドロドロ卵のゴチャ混ぜ焼き飯状態になって、フライパンの底でバリバリに焦げ付いてしまった・・・。
その焦げた匂いに驚いて慌ててひっくり返そうと、コックよろしくフライパンを振り上げてみたのだが、元々料理オンチなのだ・・・上手く行くはずは無い。
勢い余ってフライパンから飛び出した物体は、派手に飛び散って壁にぶつかって散乱した・・・。
フライパンの中に多少の残骸が残っていたが、とても美味しいようには見えないし、怖ろしくて、味見をする気も起こらない。
それで、惣菜を買いにスーパーへ出向いてユリアンに会った・・・と言う訳である。
「・・・見れば見るほど、美味しくなそうな物が出来ちゃって・・・」
肩を落として床をじっと見つめるフレデリカ。
「それにこれじゃぁ、掃除だって大変だわ。もう泣きたいぐらいよ」
ユリアンでなければ、とうに大爆笑しているだろう。
「・・・簡単な方法は・・・。薄焼き卵を作って、その中にピラフを入れて包むのが一番キレイで楽ですよ。・・・って、ピラフはもう無いんですよね?」
ピラフの残骸は使い物になりそうもない。
フレデリカの方を見ると、彼女は「・・・あ、一昨日、買った冷凍チキンピラフがあったわ・・・」と苦笑いをしてフリーザーから取り出した。
「良かった。じゃぁ、今回はそれを使いましょう。ごくごく簡単なオムライスを作りますね。この方法だとあまり失敗は無いんですよ」
ユリアンは、卵3個をボールに割り入れて泡だて器でかき回す・・・。
白身と黄身をキチンと混ぜるのがコツなのだ。
そして、予め熱して、油を薄くひいたフライパンに溶き卵を回し入れて薄焼き卵きを手早く作った。
出来上がった薄焼き卵きは、フライパンに当たっていた方がツルツルでキレイなので、それを上にして別のお皿に取っておく。
卵液は半分量ずつ焼くので、卵焼きは2枚出来た。
冷凍ピラフを電子レンジでちょっと温めて、楕円形の型に入れて別の皿に空けて、その上に薄焼き卵を乗せて、丁寧に包み込む。
卵焼きの余った部分はピラフの下にギュッギュと押し込んでしまえばいいのだ。
あっと言う間に、ツヤツヤした黄金色のオムライスが出来上がった。
「わぁ・・・とっても美味しそう!」
見た目もスッキリで本当に美味しそうなオムライスだったので、フレデリカは大きく手を叩いた。
ニコニコしたフレデリカの笑顔を眺めてユリアンはホッとした。
最後の仕上げにオムライスの上にケチャップをかける。
その上にみじん切りしたパセリを散らして、更にオムライスの横に小さなパセリとミニトマトを3個ほど乗せる。
・・・これでオムライスの完成である。
「・・・本当に、これなら凄くキレイね」
お皿を持ってフレデリカはしげしげと見つめる。
「・・・ええ。これだったら、キッチンに卵が飛び散る事も無いですし、見た目もいいですしね。これからもきっと上手く行くはずですよ。それじゃぁ、僕は帰りますから、次はやってみて下さいね」
ユリアンは、時計を見た・・・そろそろ帰らなければ、と。
「良く分かったわ。でもね、ユリアン・・・その薄焼き卵って、どうやって焼けばキレイにいくのかしら?」
「え?」
思わず聞き返すユリアン。
「前に薄焼き卵を作ったら、穴が開いたボロボロの雑巾みたいなのが出来ちゃって。それから作った事ないのよ」
「今・・・僕が作った時に見てましたよね?」
「ええ、見ていたわ・・・でも、ただ見ていただけで・・・その・・・」
フレデリカは申し訳なさそうに呟いた。
「だからね・・・その・・・」
歯切れが悪いフレデリカ。
まさか、自分が作るなんて思っていなかったのだろう。本当に見ていただけだったのだ。
フレデリカにニコニコと笑顔を向けられたが、さすがのユリアンも、これには頭痛を起こして言葉を失ってしまった・・・。
「分かりました・・・薄焼き卵の作り方を教えますからね・・・」
「はい、先生!」
先生と呼ばれたものの、掃除を含めて、当分帰れそうにないな・・・と、ユリアンは大きく溜め息をついたのだった・・・。
THE END
100のお題より、「オムライス」です。
フレデリカは軍務の才能はありますが、料理はダメダメ・・・まともなのはサンドイッチぐらい。
確か、ハンバーガーとか、挟む食べモノばっかり得意だったはず。
ただ、それすらも・・・私からすると、得意かどうか怪しいです。
ハムやキュウリを挟むだけのサンドイッチなんて、子供だってやろうと思えば出来る・・・はたして料理と言えるかどうか?な軽食です。
因みに、私もオムライスは、ユリアンがやったのと同じようにして作ります。
これなら見た目はキレイだし。
余ったご飯があったら、土曜日とか日曜日のお昼とかに、これまた、冷蔵庫の中のありあわせの野菜(キャベツの芯とか、格安で買ったピーマンとか、にんにくの芽とか・・・)で、ケチャップご飯を作って、卵焼きで覆えば、立派なオムライス!!
プロだとオムレツの中にピラフを手早く入れて、フライパン1つで手早く作りますが、無理なら別々に作れば問題ない・・・と言うか、一般人はこれで十分!!
きっとユリアンは電子レンジで作る薄焼き卵を伝授したのではないか・・・と。
ラップの上にタマゴ液を流してそのまま1分程度チン!すると、立派な薄焼きのタマゴ焼きが出来ちゃうそうです・・・テレビでやっていたんだけど、お試しあれです!
あと、深めの器にラップを敷いて、電子レンジで軽くチンして菜箸でかき回して、半熟状態にして、ピラフやケチャップご飯の上に乗せるという方法もあります。
最近は半熟オムライスが人気ですからねぇ。
どちらにしても、フレデリカの料理オンチはどうにかしてほしい・・・。
私がこりゃダメだ・・・と思ったのは、ヤンが風邪ひいて寝込んだ時に、自分が作った訳でもないのに、お店から取り寄せた料理を持参した話。
あれで、この女・・・最低かも?って。
まるで、自分が作ったような感じで差し出してたし・・・ヤンは美味しいって言っていましたけどね。
仕事が出来ても、あれじゃぁちょっとね。
料理は多分・・・ヒルダも不得意な感じがしますが、彼女の場合は・・・自分で作る経験は、生活環境上無かったと思うので、作れなくても仕方ないかな?って思うんです。
貴族のお嬢様で、お抱えの料理人がいる環境ですからね。
でも、2人に料理対決をさせてみたいですね・・・ハハハハ。