2年ほど前に、閉店してしまったのですが、近くのラーメン屋の店員さんに、Dさんと言う人がおりました。
Dさんは、お店の大将の息子さんで、厨房でラーメン作ったり、餃子を焼いたりしていました。
このお店は家族経営で、大将、女将さん、女将さんの妹、それから件の息子のD
さん、そしてアルバイトのM子ちゃんの子の計5人。
このアルバイトの子は、お店の常連さんの娘さんなので、家族みたいでした。
大将も、女将さんも、妹さんも、アルバイトのM子ちゃんも、かなり喋る明るいお店です。
ところが・・・Dさんは全く喋りません。
その店に行き始めて・・・私はDさんがアイゼナッハに見えてきました。
こういうサービス業には不可欠な、「いらっしゃいませ」とか「ありがとうございました」の挨拶もしません。
ただ単に頭を下げるだけなのです。
因みに・・・顔はイケメンかな?
一瞬、耳が不自由なのかな?と思うぐらい、喋りません。
実際、障害を持ってはいないようですが、とにかく喋らない。
・・・喋らないにもほどがあるって感じでした。
20年近く通っているSさんが「声を聞いた事がない」って言っていて。
うちのダンナも、「自閉症とかでもないと思うよ。だって、俺が行き始めた頃・・・D君は高校生だったもん。それで、やっぱり厨房にいたもん」との事。
でも、考えてみたら、その頃から、彼の声を聞いた事がなかったのだそうです。
Sさんが、「Dちゃんを喋らせる会」を作ろうかなんて、冗談で言っていました。
1度、開店して早々に行ったら、客が私だけって時がありました。
何故か、元気なバイトのM子ちゃんもいないときている。
本当は女将さんに用事があって行ったんだけど、仕方ない・・・待つか・・・って。
ただ待つのもなんだから、ラーメンと餃子を注文してみました。
「注文いい??」って言ったらば、Dさんが振り返りる、無言で頷きました。
Dさんは、私の注文を聞いて、これまた黙って頷いたので、あぁ、OKなんだな・・・って思いました。
そんでもって、作り始めて・・・やがて、無言でカウンターに料理がを差し出されて。
私が食べ始めた直後に、バイトのM子ちゃんが戻ってきました。
忘れ物を家に取りに行っていたらしい。
「ごめんね~お客さんを1人にさせちゃって」
彼女はそう言ったけど、Dさんがいるんですが??って感じ。
その直後に女将さんもタバコのカートンを手に戻って来ました。
お客さん用のタバコを買いに行っていたらしいです。
そして、「あら~1人だったの?大丈夫だった??」って。
でも、ラーメンを見て、「あ~大丈夫だったんだ」って。
とにかく、喋らないんだけど、耳は聞こえていて、ちゃんと仕事をこなしてます。
以前、市民会館でお芝居があって、私はその公演の実行委員会の委員長をやったので、ラーメン屋さん一家を誘ってみたんですね。
たまたま・・・定休日が公演日だったので、「いつも来てくれるからお芝居に行くよ」と、5枚買ってくれて、Dさんも来てくれたんです。
女将さん曰く、「面白かった!Dちゃんも笑っていたし」との事で、あ~良かったと思いましたが、「笑った」に驚いて、M子ちゃんに確認したら、「うん、声を出すっていうよりは、ククッって感じでちょびっと。でも、始終にこにこしていたから、面白かったんだと思う」と。
うーん・・・そうか。
やっぱり、感情はあるんだな・・・と、耳は聞こえるんだな・・・と思いました。
ラーメン屋を完全に畳んでしまったのですが、最近は違う所でカラオケスナックやっていて、(これまた家族で)私は遠い為に、殆ど行けなくなりました。
そこはカラオケがあって、結構お客さんが来るらしいのですが、電車に乗らないと行けないし、しかも、着いた駅からも遠いので・・・。
不便な場所にある為、Dさんは車でお客さん達を送り迎えを担当してます。
酔ってお客さんが運転して事故でも合われたら困るから、最寄り駅やその人の家まで。
そのサービスの良さでお客さんが来てくれているって女将さんが言っていました。
Dさんは・・・車の運転上手いし、飲まないですからね。
車の免許を持っているって事は・・・教習所に通っている時、多少は喋っていたのかしら?なんて思って、ダンナに言ったところ。
「そう言えばさ~・・・。大型の免許を取りに行った時に、年配の教官が・・・昔来ていた生徒の中に、全く喋らないヤツがいて大変だった・・・って言っていたよ。アレ・・・もしかしたらD君かもね。だってK教習所は・・・D君の家から一番近いじゃない?」って。
ある時、用事があって、スナックの方にお邪魔した時、やっぱりDさんが駅まで送ってくれる事になりました。
それで思い切って、「ねえ、Dさんが免許を取った教習所って、K教習所ですか?」って聞いてみたんですよ。
市内には幾つか教習所があるのですが、K教習所は・・・Dさんの家から近いんです。
そしたら、一瞬、驚いた表情をしていましたが、コクンと頷いてくれました。
「うちのダンナ、あそこで大型取ったんだよ」って言ったら、にっこり笑ってくれました。
そう、笑顔も良いし、人の話も聞いている。
だけど・・・頑なに喋らないので、誰もDさんの声を知らない。
とにかく、頷くか、首を振るか・・・で会話が成立している感じです。
・・・まるで、アイゼナッハのようです。
こんな人が近くにいましたので、私の書くアイゼナッハの二次小説は・・・頷きと首振り。
いやぁ、Dさんっていう最強のモデルがいますので、すんなり書けた感じですが・・・。
もしや、本当にDさんがモデルとか・・・んな、訳ないか。←いや、分からんよ。
しかし、本当にDさんは謎です。
タダね・・・。
お店の常連さん達も、大将や女将さんに面と向かって「なんでDさんは喋らないんですか?」とは聞きにくいらしく、誰も触れようとしないので・・・本当のところ、何故、Dさんがあそこまで無口なのか分かりません・・・。
謎です・・・ホント。