「いいか!絶対に引くんじゃないぞ!!一気に全速前進だ!!」


 爛々と目を輝かせて、閣下は指揮シートから立ち上がる。
 そのままの体勢で、大声を張り上げて全艦隊への指揮を出す。
 司令官の指揮シートのそばにはマイクがある。
 だから大声を出す必要は全く無いのだが、閣下はいつも物凄い大声で号令をかけられるのだ。
 指揮を執っている時の閣下は、仁王立ちで実に楽しそうである。
 座って指揮を出すのは性に合わないらしく、身振りも声も大きいのが閣下の指揮の特徴だった。

 閣下の大声に呼応するように、鮮やかな艦隊運動をするご自分の艦隊に閣下は満足げな笑みを浮かべる。


 「うーむ・・・さすがは黒色槍騎兵<シュワルツランツェンレイター>艦隊だ!そう思うだろ、オイゲン!」
 「はい」
 「猪突猛進とか色々言われもするが、うん、実に華麗なもんじゃないか!なぁ、そう思うだろ、オイゲン!」
 「はい」


 閣下はにこやかにそう言われたが、急に苦しそうに4、5回咳き込まれた。
 私は驚いて閣下を見る。


 「どうかなさいましたか?」
 「う・・・ちょっと大声を出し過ぎたかもしれん・・・喉が痛いっ!う・・・痛いぞ!」


 閣下のその声に私はそばに駆け寄った。
 「あの・・・閣下大丈夫ですか!?まさか、風邪をひかれているとか・・・」
 「風邪!?そんな訳ないだろう・・・少し大声を出し過ぎただけだ。俺はいたって元気だから安心しろ!!」
 「でも・・・」
 私が何か言いかけると、「オイゲン、大丈夫だと言っておろうが!卿も参謀長ならば、目の前の戦闘に専念しろ!」と豪快に笑われる。
 「・・・分かりました、閣下。でも、まだ喉が痛いようでしたら、どうぞ、これでも舐めて下さい」

 そう言って、上着のポケットに入れっぱなしになっていた、カラフルな包み紙にくるまれた『のどあめ』を3個ほど差し出した。
 閣下は私の手の中の飴と、私とを交互にご覧になる。


 「なんだ、これは・・・。菓子なんぞを食いながら戦闘をしているのか卿は・・・」


 閣下の声は呆れた様子だ。
 私は、(そんな訳はありません・・・)と言いたいのをグッとこらえて、つとめて明るい声を出した。


 「閣下、これは『のどあめ』です」
 「あぁ、『のどあめ』か。・・・なるほど、卿も用意がいいな」


 物が『のどあめ』と分かると閣下は苦笑された。
 閣下に渡した『のどあめ』は、数日前、ちょっと喉が痛かった時にポケットに忍ばせておいたモノだ。
 少し風邪気味だったのだが、早々と風邪薬を服用し、『のどあめ』を舐めていたお陰で、今は全快している。


 「じゃ、ありがたくもらうな!!」


 閣下は、『のどあめ』を受け取られたのはいいのだが、包みを一気に開けて、3個とも豪快に口の中に放り込んでしまわれた。


 (・・・いっぺんに放り込まれるとは・・・あぁ、豪快すぎますよ、閣下・・・)


 「おい、卿はいつも、『のどあめ』とか・・・そういうのを持ち歩いているのか?」


 舐めるのではなくて、ガリガリと豪快に齧りながら喋る閣下。
 その様子を見た私は少しばかり呆れていた。
 私は『のどあめ』の舐め方やら効用やらを説明すべきかどうかで、やや頭痛を覚える。
 いや・・・言っても聞いてもらえるかどうか分からない。
 多分・・・面倒臭そうな顔をされるだけだろう。
 ・・・と言うか、既に全部、閣下のお口の中なのだ。
 言ったところで無駄だった。
 私は、「いつもと言う訳ではありません。これはたまたま持っておりましたので」と答えるに留めた。
 
 私がそう答えると、閣下は「ふうん、そうなのか・・・」と気のない返事。
 そして、「おい!!狙いを外すなよ!!」と大声を張り上げてまた指揮に専念されている。
 だが、大声を出し過ぎて、また喉を押さえたれた。
 
 「閣下、大丈夫ですか!?今日は大声を出さない方が無難かと思いますが・・・」
 「くっそ~!早く効くかと思って3個ともいっぺんに食ったのに!!」


 悔しげな表情をされる閣下。
 私は吹き出しそうになった・・・。
 なるほど・・・。
 3個いっぺんに食べたのはそういう事だったのか・・・。


 「おい、オイゲン!まだ持ってるか?」
 「え?」
 「さっきの『のどあめ』だ」
 「いえ・・・閣下に差し上げた分で全部なのですが・・・申し訳ありません・・・」
 「そうか。卿に言えば、無限に『のどあめ』が出てきそうな気がしたんだが・・・」


 (・・・閣下、申し訳ありませんが、私のポケットは魔法のポケットではありません・・・)


 本当の事を言うと、『のどあめ』は本当にたまた持っていただけだった。
 だが・・・常時持ち歩いている薬はあった。 
 それは、件のポケットにいつも入っている。
 ・・・さすがに閣下の前では面と向かって言えないが、胃薬と頭痛薬である。


 あぁ、でも、これだけは・・・閣下には言えない。




Das Ende 





 時期は特に設定していませんが、ビッテンフェルトとオイゲンです。

戦闘中でも、演習でも、読み手が勝手に判断して下さい。
 それこそ、アムリッツァでも、回廊の戦いでも・・・要するに、大勢とは何の関係もありませんが、この2人の話を書いてみたかっただけです。


 それで、100のお題の「のどあめ」を使ってみた訳です。


 私・・・風邪をひくとすぐに喉がやられます。
 重度の鼻炎でもあるので、鼻も悪いのですが、喉をやられると、喘息用の薬が出されるぐらい酷い状態になるのです・・・それで思いついた話です。


 オイゲンって、銀河英雄伝説の同人界では、何故か“副官”ってイメージなんだけど、本当は『副参謀長』って言う立場なんですよね。
 ・・・そんでもって、苦労人。(笑)
 気苦労が絶えない感じです。
 あの艦隊の中では常識人だし、ビッテンフェルトに染まらないところがナイスです。(他の部下はビッテンフェルトの影響をモロに受けた猛将タイプなのに)


 ・・・で、ホントの副官はディルクセンだったりするんですよ。
 彼は高級副官って事で将官なんですけど、同じ艦隊のハルバーシュタットやグレーブナーよりも、ファーレンハイトの艦隊から転属になったホフマイスターよりも目立たない。
 ディルクセンって、凄く地味な感じなんですよねぇ・・・。
 ビッテンフェルトの副官なんて美味しい地位にいるのに目立たないのは何故なんだ??←司令官が凄過ぎるから?

 いつか、副官のディルクセンをネタと言うか主人公にして何か書いてみるかな!?(笑)

 それにしても、副官という美味しい立場にいながら・・・何故、ディルクセンって影が薄いのかなぁ??
 それは多分・・・オイゲンがビッテンフェルトと正反対の性格だからだと思う。
 原作読んでてそう思ったですね・・・。


 のどあめは、飴と言っても喉を労わる飴ですから本来は噛み砕いてはいけない。(効用が薄れるらしいです)
 実際に噛んじゃう人っているんですよねぇ・・・。


 因みに、話は変わりますが、ルビンスキー役の小林清志さんはのどあめが大嫌いだそうで、代わりに、キャラメルを手で柔らかくしたのをいつも食べているそうです・・・<ラジオで言っていました。
 アニメ関係のラジオじゃなくて、普通のラジオのゲスト。
 車に乗っている時に聞いていて、突然ゲストが小林さんだったので驚いたもんです。


 あと「魔法のポケット」は、幼稚園ぐらいの時に習いました。
 唱歌です。
 ポケットを叩くと、ビスケットが出て来るって歌。
 友達が「いいなぁ。こういうポケット、私も欲しい」って言っていたのですが、当時、ビスケットだのクッキーが嫌いだった私は、「おせんべい」の方がいいと言って、友達に「え~!!」って言われました。
 最近は、美味しいクッキーやビスケットがありますし、ケーキやジュースでも甘さ控えめなのがありますが、昔は・・・甘過ぎてダメでした。
 思えば、あの頃から辛党だったんだと思います。


 いやぁ、ビッテンフェルト・・・野田さんで良かった^^@
 コメディだと、一休さんの蜷川新衛門さんを思い出して下さいませ・・・。
 私ね・・・野田さん好きなんですよ。
 1979年の「サイボーグ009」の002のジェット・リンクとか。
 古いところだと、「バビル二世」のロデムとか・・・。
 「バビル様」って呼びかけるあの声にクラクラしてましたね・・・アハハハハハ^^@