母は元々身体が弱かったが、私を生んで・・・益々寝込む事が多くなったらしい。
 大人になってから初めて知ったのだが、母は、医者から子供は望まない方が良いと出産を止められていたそうだ。
 けれど・・・母は私を生み、父は私を可愛がってくれた。


 寝込む事が多かった母だが、家事だけは何とかこなしていた。
 そして、父の軍服のスラックスには、いつもきちんとアイロンをかけて・・・。
 皺が一つもないように、細心の注意を払っていた。


 
 『服に皺がよっているとね、それだけでだらしなく思われてしまうものなのよ。そして、お父さんだけじゃなくて、お母さんも笑われてしまうの』
 『え~何それ。お父さんが笑われるのは分かるけど、なんでお母さんまで笑われなきゃいけないの?』
 『お母さんも笑われるのよ。お父さんはだらしない奥さんをもらった・・・ってね。そう、駄目な奥さん・・・そういう風に言われちゃうのよ。そうすると、お父さんに迷惑がかかってしまうのよ』
 『お母さんがだらしないって?何でそういう事を言われるの?』
 『あなたにも・・・今に分かるわよ、フレデリカ。だからね、アイロンがけは主婦にとって命がけなのよ。ちゃんと覚えておきなさい』
 『・・・うん』


 母は私が15歳の時に病でこの世を去った。
 元々丈夫な性質<たち>ではなかったから、父も私も覚悟だけはしていたが・・・。
 やはり、母が亡くなった直後は父も私も気が抜けてしまった。

 そして、今まで母がいとも簡単にこなしていた家事が・・・実に骨の折れる仕事だと知ったのだった。
 私も父も・・・家事を殆どした事がなかったのを自覚して、そして母に改めて感謝したのだった。


 母が亡くなるちょっと前に、私は士官学校に進学していた。
 我が家は代々軍人の家系で・・・この家の娘は私だけだった。
 グリーンヒル家は、代々軍人の家系とはいえ、女子で士官学校に進学した者は1人もいなかった。
 父は、私を軍人にはしたくなかったのかもしれない。

 もしかしたら、私に同盟軍の軍人の婿養子を・・・と思っていたのかもしれない。
 だから私に、「軍人になりたくなければならなくてもいい。無理をして士官学校へ行かなくてもいいんだよ」と言ってくれたが、私は「いいえ、私は軍人になります」と宣言した。
 父は不思議そうに私を見た。


 「どうして・・・そんなに軍人になりたいのだね?この家の事を思って無理しているのではないだろうね?」


 父は心配してくれていたが、私は笑顔を作った。
 そして、「・・・私、無理をしている訳ではないの。どうしても軍人になって・・・ならなければならないの」と父に言った。


 「・・・分かったよ。お前がそこまで言うのなら頑張りなさい」


 そう父は言ってくれた。

 そして、父は理由を聞いては来なかった。

 もしかしたら、既に私の憧れの人を知っていたのかもしれない。

 あの・・・。

 エル・ファシルでの出来事の後、私は父に何度も、脱出の指揮を執っていた、ちょっと頼りない感じのヤン中尉の話をして・・・。

 

 「フレデリカは・・・その人の話になると生き生きするな。その人の事がよほど好きなのだな」


 父は、そう言って私をからかい、私は・・・その度に真っ赤になっていた。

 そう・・・。

 私は・・・ヤン・ウェンリー少佐に憧れていて、その人に会いたいが為に士官学校に入ったのだ。
 ・・・こんな話、誰にも言えない。

 私だけの秘密・・・。
 私は、出来るだけ頑張って・・・その人の近くにいたいと思っていたのだ。




 士官学校では寮に入っていた為、実家には時折しか帰省出来なかったが、帰省の度に目にする光景・・・自分でアイロンをかける父を見て私は驚いた。


 「・・・家政婦さんにでも来てもらったらって言っているのに」


 顔を顰<しか>めながら父に声をかけた。
 父は静かに笑いながら首を振った。


 「なに、いいんだよ。これくらいは自分で出来るさ」


 そう言って・・・アイロンがけを再開する父。
 
 母のアイロンがけよりも父はかなり不器用だ。
 何度もヘンな皺を作っては溜め息をついている。


 「・・・しまった。またヘンな皺が・・・。どうも、上手く行かんもんだな・・・。それを考えると、母さんは家事の天才だったのだな」


 そう呟いて、皺の部分に過度にアイロンを掛ける。
 そのせいで・・・。
 しまいには、アイロンのかけ過ぎで生地が傷んで、妙な光沢が出来てしまっていた。


 「・・・ここまで妙な光沢が出来ちゃうと、そのスラックスの色・・・アイボリーホワイトって言うより、そう・・・パステルエナメルって感じね」
 「パステル・・・?」
 「・・・象牙色って事なのよ、お父さん。どちらも同じ色なんだけど、エナメルって光沢がある感じでしょう?」
 「・・・なるほどな・・・」


 父は何とも言えない顔で笑っていた。

 父の軍服のスラックスは、妙なテカリが出て・・・ここまでになってしまうと、新しいスラックスを支給してもらえるように、申請した方が良いかもしれない。
 やがて・・・。
 私は母が言っていた言葉を思い出す。


 『アイロンがけは主婦にとって命がけ』


 私にも、命がけでアイロンをかけたくなるような人が出来るだろうか?

 勿論、そういうのをしてあげたい人はいる・・・。
 2年前のあの時から、私の心に強い印象を残した人・・・。

 まだ、単なる憧れでしかないけど・・・。

 きっと相手は私の事など全く覚えてはいないに違いない。
 でも、いつか、その人の前に1人の女性として立ってみたい・・・。
 だから、その為に私は士官学校に進学したのだ。


 父がアイロンしたスラックスを見つめて、もしかしたら、私も同レベルかもしれないな・・・とクスクス笑ってしまい、父に不思議そうな顔をされてしまった。





THE END




 フレデリカです。
 16歳の彼女です。

 100のお題で、「パステルエナメル」のタイトルを見た時、悩みました。

 でも、これが、『象牙色』だと知った時、何故か同盟軍の軍服を思い出してしまいまして。
 アイボリー・ホワイトなんですが、テカテカになると象牙色・・・と思いました。

 フレデリカが士官学校に入った時は、ヤンは少佐^^@

 だって、二階級特進したから・・・ね。

 それで、こんな感じの話になりました・・・って言うか、グリーンヒル大将(この頃は中将くらいをかもしれないけど?)を出してみたかっただけなんですけどね。
 頭の中で、父の声が政宗さんの声に変換されてしまいました・・・。←単なる声バカ!?
 ↑声優オタクって事です。(笑)


 正宗さんの声も好きですね・・・そして、正宗さんと言えば、「シャリバン」とか「ギャバン」の宇宙刑事物のナレーションですかね~・・・。
 あまり真剣には観ていなかったのですが、ナレが好きでした・・・。


 榊原さんは・・・色々な役があって、好きな声優さんなのですが、実は苦手なキャラもあります。
 「六神合体ゴッドマーズ」のフローレがダメだぁ・・・。
 まぁ、これは声と言うよりも、フローレの性格がキライなんだな・・・すっごく偉そうで、あんた何者??って感じで。


 いや、偉そうと言ったら、「機動警察パトレイバー」の特車二課第一小隊の南雲しのぶ隊長もかなり偉そうなんですが、それとは方向性が違う偉そうな感じがフローレでした。
 多分・・・マーズに対する態度が嫌いだったんだろうなぁ・・・と思います。
 私は、三ツ矢雄二さんのマーグよりも、水島裕さんのマーズの方が好きでね^^@
 大人になってから、DVDを手に入れて改めて見たけど、やっぱりフローレは好きになれなかったので、これは本当にダメですね。

 そんな訳で、ゴッドマ-ズ3部作の内、「ギシン星編」と最後の「地球編」は好きなんだけど、フローレが出て来る「マルメロ星編」はダメです。
 ガッシュ(野島昭生さんのキャラ)がいたから観ていたけど、そうじゃなかったら・・・すっ飛ばしているな。


 そして、同じ時期に、榊原さんが素敵だな・・・と思えたキャラは、「コブラ」のレディーです^^@
 あれはアンドロイドで、どちらかと言うと無表情なのに、声に色気があって凄く良かった・・・野沢那智さんのコブラがまたカッコ良くてさ~★


 あぁ、懐かしいな★ 
 
 声優さんの事を語りだすと止まらなくなるので・・・ここでやめます^^@