沢山の同僚の中でも、私と彼は何故か気が合った。
どうやらお互いの価値観が似ているらしい。
そんな訳で、単なる同僚を超えて、プライベートでも出かけたりする。
仕事帰りに飲みに行く機会も他の同僚に比べるとかなり多いし、私の息子も彼の事は好きだと言っていた。
とにかく、片意地を張らずに気楽に付き合えるのが良かった。
ただ、多少困った問題もあって・・・。
彼は知っているのだろうけれど、私にはちょっとしたコンプレックスがあった。
どういう訳だか、彼と出かけると、どこに行っても必ずと言っていいほど聞かれる言葉がある。
「失礼ですが、ご兄弟ですか」
どうやら、相手は社交辞令のつもりで言っているらしいのだが、これは本当に返答に困ってしまう・・・。
その度に私は、またか・・・と内心舌打ちしながらも、精いっぱいの笑顔を貼り付けて答える。
「いえ、単なる同僚なんですが」
それで会話を打ち切ってくれればいいのに、同僚は横合いから余計な事を言うのだ。
「ええ、同僚です。それに、私の方が年上なんですよ」
本当に余計な事を・・・。
私は相手が「そうなんですか」と言って、その話題をそこでやめてくれるのをひたすら待つ。
ところが、私の思いとは裏腹に話が違った方向に転がって行くのだ。
「それにしては似ていますねぇ。私はてっきり、あなたの方がお兄さんかと思いましたよ」
そんな事を言われるのは、同僚が自分の方が年上なんて言うからだ。
この話になると、こいつは本当に親友なのか?と、少しばかり腹を立てて、親友をやめたくなる。
相手は私の気持ちなど知らないから、「お兄さん」なんて余計な事まで言ってくれる場合が多くて、その度に私の気持ちは沈み込んでしまう。
・・・どうせ私はふけ顔だ。
そう、親友の方が私よりも2歳も年上なのだ!
童顔なので、余計に私が老けて見える・・・そういう事なのだ。
「似ていますね、“弟さん”かと思いました」
1度でも良いからそういう事を言われてみたい。
だが、私はいつも「兄」扱い・・・世の中はなんて理不尽なんだろう・・・と思う。
「なぁ。フェザーン宇宙港のそばに、『闘牛士<シュティーア・ケンプファー>』って店があるんだが、凄くいい店だぞ。そこに飲みに行かないか?」
「あぁ・・・いいよ。いつだ?」
「明日辺りはどうだ?ただ・・・その店な、安くて美味しくて雰囲気はいいんだが、午後7時過ぎると労働者の溜まり場になるから、仕込が終わった17:00<ヒトナナマルマル>ぐらいに行った方がいいんだ。・・・いい店なんだが、それがネックなんだ、あの店の」
「17:00<ヒトナナマルマル>!?残業無しで帰らないと行けないじゃないか」
「たまには早帰りもいいんじゃないか?」
「・・・そうだなぁ・・・。じゃぁ、明日行ってみるか・・・」
いつもは、そんな早い時間に飲みに行く事など滅多に無い。
だが、彼が言う『凄くいい店』と言うのが気になったのも事実だ。
誘われるまま、翌日、さっさと仕事を終え、部下が驚きの目で見る中、私は職場を後にした。
「ふーん・・・感じがいい店だな。ランプも・・・いい味が出ている」
私が調度品をさり気なく褒めると、グラスを磨く手を休めて、マスターは嬉しそうに笑った。
「・・・ご兄弟で軍人さんをなさっておいでなのですか?」
そら来たぞ・・・と私が身構えると、私の顔色が多少変化したのを見て取った親友が今回は気を利かせくれた。
「あぁ、兄弟に見えますか?同僚なんですが、よく似ているって言われるんですよ。・・・実は、私の方が上なんですけどね」
彼が私の代わりに全て答えてくれたので、私は多少ホッとしたが、甘かった・・・。
案の定、会話がはそこで終わらなかったからだ。
マスターは、「そうなんですか。・・・あなたの方がお兄さんかと思いました」と、微笑みながら私の方を見る。
う・・・やっぱりそう来たか・・・。
「・・・私の方が年下なんですが・・・老けて見えますか?まぁ、それ以上に彼が童顔なのが悪いんですよ・・・それで、年が離れているように見えますからね」
私が力なく言うと、マスターは慌てて、「いえ・・・その・・・」と口ごもった。
「・・・おい。そういう事をいちいち気にするな。ほら、マスターも困っているではないか。いいか、俺は独身で、お前は子持ちなんだ。どう見ても所帯じみているのは・・・」
「全然フォローになってないぞ・・・」
親友の方をチラリと見て私はほんの少し腹立たしげに呟く。
「ふう・・・。仕方がないなぁ・・・。まぁ、俺の方が年上だし・・・仕方がないな。今日は俺が奢ってやるから、何でも好きなのを頼め。・・・それで機嫌を直せ、な?」
私を思いっきり子供扱いして、急に年上風を吹かせる親友に苦笑する。
「じゃぁ・・・今日は目いっぱい飲む事にしよう・・・」
私が破願すると、親友も笑っていた。
「あぁ、いいぞ。飲め、飲め」
「よし・・・じゃぁ、この店で一番高い酒にするか・・・」
「高い酒?・・・何だか、上手く担がれた感じがする・・・」
私の露骨な反応に、彼はちょっと悔しそうに呟いた。
それを見た私は“あれ”を言ってみるかな・・・と彼に笑顔を向ける。
「まぁ、いいじゃないか、兄さん」
「誰が兄さんだ・・・誰が・・・」
「今日は奢ってくれると言ったはずだ。しかも・・・好きなのを頼んでいいんだったな?・・・と言う訳で、410年の白を。いいよな、兄さん」
「おい!!それは・・・」
410年の白ワインは・・・かなり高いのだ。
「・・・何でも好きなのを頼めとは言ったが・・・。まさか、いきなりそう出られるとは・・・はぁ~・・・」
力なく頭を抱るのを見て、心の中でクスリと笑う。
どうやら・・・。
私のささやかな仕返しは・・・成功を収めたらしい。
チラリと隣を見ると、不機嫌そうな親友の瞳が急に藤色の彩りを帯び始める。
私は「・・・おや?何を興奮しているんだ?兄さん」とからかう。
彼は思いっきり厭そうな顔をして、むすっとしたまま水割りを口に運んだ。
Das Ende
100のお題より、「きょうだい」です。
変換が可能との事なので、「兄弟」で書いてみました。
「姉弟」でも可能だし、「兄妹」でも可能です・・・。
私の場合、マイナー好きでかなりひねくれているので、銀河英雄伝説で一番有名な「姉弟」では書いてないですね・・・その内に書くかもしれないけど。
・・・で、私が書いてみたかったのは、兄弟ではないけど、ルッツとワーレン。
作中に名前を出しませんでしたが、ワーレンとルッツの事です・・・分かるよね???
OVAでは容貌が似ている為、『双子』と称される事もある、ルッツとワーレンですが・・・ワーレン・・・あんた・・・老け過ぎよ!!って突っ込みたくなります・・・。
つーか、岡部さんの声が渋いからだと思う・・・堀さんの方がやや若々しいから。
実際に、声優さんの年齢を考えたら、堀さんの方が若いんだよな・・・。
この2人が仲が良さそうだなぁ・・・と思ったのは、やっぱりOVAの影響かしら。
ワーレンが、テロの為に負傷したルッツのお見舞いに行く辺りとか、特にそう感じます・・・。
この時のメインは、ルッツと後に彼の婚約者となるクララとのくだりですが、それを省いても“親友”っぽいと思いますねぇ。
因みに、この話が生まれた経緯は・・・。
以前、某サイトでチャットが行われた際に、誰かが「OVAのルッツとワーレンって似ているよね」という発言に端を発してます。
その時、「確かに似ている」とか、「髪の色が違うだけ?」とか、「いや、ワーレンの方が老けている」とか、「でも、ルッツの方が年上だ」とか、まぁ、沢山の書き込みがありまして。
それで、いっそのこと、それをネタに小説にしたら面白そうと発言したのが私だった・・・という。
既にそのサイトも閉鎖してしまったのですが、そんな他愛無い会話(チャット)の中から生まれた話なんですね、これ。
なお、作中のお店は私のオリジナルの設定で、この2人のお気に入りの店になっていて、この2人が登場する他の作品(ルッツの追悼作品です。そのうちにアップします)に、度々登場しています。(この小説に出て来たマスターには、エルフリーデという娘がいる)
銀河英雄伝説のキャラで、「きょうだい」について書く場合、誰がいるかな・・・って考えると、選択肢は限られてきます。
さすがに、ありがちなテーマの、「ラインハルトと姉上」は避けましたが、キャゼルヌ姉妹でもいいかな・・・とか、ケンプの息子達・・・または、リンツと姉とか、色々考えました。
ルッツと妹というのもありますしね・・・。
リンツと姉・・・マイナーですが、もっとマイナーなのだと、フーバー姉妹とか、コルプト兄弟とかでもいいかな・・・とか、もっともっとマイナーに走って、クーリヒ軍曹(キフォイザー星域で、リッテンハイム候に攻撃されて撃沈した味方の補給艦、パッサウ3号の乗員)の双子の子供の話とか・・・。(爆)
それはそれは散々悩んだ挙句、“兄弟ではないけど兄弟のような2人”という、別の角度から見た設定で書く事にしました。
上記のチャットの事を思い出しましたし、小説にしたら面白そうなどと発言していた事もあって、書いたんですが・・・実は、途中で放り出していたので、書きかけのままになってました。
それで、今回・・・ちゃんとしたカタチに仕上げました・・・。
放っていた部分の続きを書いている最中、あ・・・彼は瞳が藤色になるんだよな・・・って思っていたら、しっかり瞳が藤色になっているし・・・。(笑)
もう、書いていて、岡部さんと堀さんの声が聞こえてきました・・・。
それから余談ですが、この話の中では、ワーレンがルッツの兄と間違えられるという事になっていて、どこでも必ず、それを聞かれて困る・・・と設定しましたが、私も必ずと言っていいほど聞かれる事があります。
それは・・・「九州出身ですか?」とか「沖縄出身ですか?」と。
特に「沖縄」の人に間違えられる確率が非常に高く、沖縄の人から方言で沖縄のどこら辺出身かと、沖縄だと思い込まれて聞かれる事もあって、そんなに私は沖縄顔なんかい!!って思います・・・1年に何回も聞かれて、その度に違いますよ・・・と答えてます。
沖縄には行った事がないし、親戚もいないのですが・・・顔が濃いんだねぇ・・・アハハハハハ。
・・・きっと、ワーレンも、また聞かれたか・・・と、溜め息をつきながら説明しているんだろうなぁ・・・と、想像しながら書くのは面白かったです^^@
何はともあれ、この小説をカタチに出来て良かったと思ってます^^@