ここのところ、色々な事を考え過ぎて少々不眠症気味だった。


 「不眠症を直したい。どうやったら簡単に寝つけるのか?」


同僚の1人に聞いたら、「眠れない時は羊の数を数えると眠れるよ」と言うので実行してみる。
こんなのが効き目があるのだろうか?
 でも・・・これで眠れるのなら幸いだ。
 
 「羊が一匹・・・羊が二匹・・・・・・・・・」


羊の丸っこい姿を思い浮かべながら数え始める。
 しかし・・・なんで羊を数えるのだろうか?
 意味が全く分からない。


 効き目が有るのか無いのか・・・数えても数えても眠たくならない。
 よし、数が足りないんだ。
 もうちょっと頑張って数えてみよう・・・。


 「羊が百匹・・・羊が千匹・・・」


 これでも全く駄目だった。
 でも4ケタの大台に乗っているから・・・。
 ・・・もう少しだけ・・・トライしてみよう。


 「羊が一万匹・・・ダメだ・・・眠れない・・・」


 一万匹まで数えたけれど、眼が冴えるばかりだった。
 どうやら、効き目は全くなさそうだった。


 「・・・無駄な時間を使ってしまった・・・」  


 それでも、やっと眠れそうな気がして目を瞑った瞬間に辺りが急に騒がしくなった。
 私は思わず耳を塞ぐ。
 だけど、ざわめきは一向に収まらず、あっと言う間に大騒ぎになった。


 「・・・全く、やっと眠れそうなのに。この騒ぎはなんだ?」


 イライラしながら、溜め息をつく。
 一体何が起こったんだ・・・?
 私は僅かに顔を歪めて舌打ちをした。
 もう少しで寝付けそうだったのに・・・。
 周りのざわめきで私の眠気は完全に吹っ飛んだ。
 目を開けて周りを見回すと、上を下への大騒ぎになっていた。

 周りから聞こえる会話は殆ど同じであった。


 「さようなら」
 「またどこか出会えるだろうか?」
 「元気でね」


 交わされていたのは別れの挨拶。

 「無事に帰れるだろうか?」

 悲観的な声も聞こえる。
 だが、安堵の言葉も聞こえてくる。


 「これで少しは休めるかな?」
 「ここのところ・・・怪我ばっかりしていたからのんびりと休みたいよ」
 「早く帰ってゆっくり休みを取りたいね」


 そう言いながら、出航準備に余念がない。

 そして、次の職場でも一緒に戦える訳ではないので、ここに来てから仲良くなった者同士で別れの挨拶をしているのだ。
 でも、皆が皆、次の“仕事場”で会える訳じゃないから。
 これっきり会えない・・・って事もあるし。


 (ふーん・・・。別れの挨拶をしてるって事はここから撤退するのか・・・?)


 怪我が少なくて比較的元気な奴は、自分よりも傷ついている相手が近くにいると妙に気を遣っていた。


 「元気になってまた頑張れよ」
 「うん、ありがとう」
 「早く怪我を治してまた一緒に仕事をしようよ」
 「そうだね。早く元気にならないとね」


 互いに相手を気遣い、労わり合いながら・・・別れの挨拶に余念がない。




 「よう・・・。まだ睡眠不足か?」
 不意に声が掛けられて私は振り向いた。
 慌てて欠伸を噛み殺す。
 「・・・まぁね。やっと眠れそうだと思っていたけど、眠気は吹っ飛んだかな。・・・ところで、これは何の騒ぎなんだ?」
 声をかけて来たのは、私とほぼ同じ立場の同僚だ。
 
 「あぁ・・・どうやら撤退するらしいな」
 「じゃぁ、出ていくのか?」
 「あぁ、先程そういう命令を受けた。これから忙しくなるぞ。・・・あれ、お前は行かないのか?」
 彼は不思議そうに私を見る。
 「・・・さぁ?そういう命令は聞いていない。ケンプ提督が撤退するなら、私もここを出る事になるのだろうけど・・・」
 「・・・ふーん・・・出ていかないって事は、カッコ良く最後まで残るのかな?」
 「う・・・ん、そういう事になるのかな・・・」


 どうなるか分からないから、私の答えも曖昧だ。
 けれど・・・ケンプ提督の事だ。
 私は提督を敬愛しているし、あの方の事だ・・・色々な事を考えているのに違いない。
 今さっき、別れの挨拶をして出て行った連中が全ていなくなったら、私にもここを出る命令を下すのだろう。
 それに、提督は曲がった事が大嫌いな剛毅な人だから、きっと勇気ある行動を取られて、全軍の“殿”を務められるのかもしれない。
 “殿”ってのは・・・ハッキリ言って危険だ。
 最後まで残るのだから、生きてい帰れる可能性が低くなる。
 けれど、それは勇者の証でもある。
 強い意志と、それ相応の実力がなければ務めらないのが“殿”なのだ。
 少なくとも、部下を放り出して戦場を我先に離脱するような人ではない・・・ケンプ提督は。
 
 私が自分の考えを述べると同僚は頷いた。
 「なるほど・・・ケンプ提督ならそうするかもしれないな。だけど、お前も無事でいろよ。あ・・・俺はもう行かなきゃ・・・。出航許可のサインが出ているからね。それよりもさ、提督が来るまでに、そのぼーっとした顔を何とかしとけよ。・・・本当に不眠症丸出しって感じだ。疲れていたら仕事にならないんだからな」
 かなり心配そうに言うので私は苦笑した。
 「やっと眠れそうになったのに、皆が騒がしいからまた眠れなくなったんだ。何だか、ここのところ色々考え過ぎちゃってね・・・。心配事が多過ぎるんだよ。でも、まぁ、元気でな、リューベック」
 「あぁ、そっちもな。いつかまた、一緒に航海しようぜ、ヨーツンハイム!・・・じゃな!」


 ミュラー提督達を乗せて出航して行くリューベックや、その他大勢の仲間達を見送りながら、私は大欠伸をした。


 だが、欠伸が出るだけで、やっぱり眠れそうにはなかった。

 暫くすると、周りは急にシーンと静まり返った。
 さっきまでの喧騒が嘘のようで、何となく怖い・・・。 
 残っている仲間が本当に少なくなくなったからだ。
 ガランとした宇宙港・・・残った者は、皆、不安そうにしている・・・。
 残っている連中は、怪我の状態が思わしくなくて出航を見送られた連中達だった。

 その中で、私だけが元気なのだ。


 「あの・・・大丈夫なんでしょうか?」

 残った仲間の1人が私に聞いていくる。

 「心配するな・・・大丈夫だよ。ケンプ閣下はここにおられるのだから」
 「そうですよね!」
 「あぁ、だから、少しでも体を休めておけよ。いつでも出られるように」
 「はい」

 残った連中がおとなしく眠り始めた。

 だから、私も目を瞑った。


 まだ眠れそうにないが・・・少しだけでも休んでおこうと。
 信頼する提督に従えば、何とかなるだろう。

 そう思う事で、何とか眠れそうな気がした・・・。
 そして、少しでも身体を休めておこう・・・。 
 いざという時に動かないのでは話にならない。

 リューベック達は無事だろうか?




 あの・・・ケンプ提督・・・私達はいつ、ここを出られるのでしょうか?
 私も早く、外に出て・・・活躍したいです。




Das Ende




 100のお題より、『INSOMNIA』です。

 タイトルの『INSOMNIA』は、不眠症と言う意味だそうで・・・。


 ガイエスブルク要塞の宇宙港に係留されたままの、ケンプ提督の旗艦の『ヨーツンハイム』を擬人化して書いてみました。
 ケンプの事とか色々考えていて、不眠症なんでしょう彼は・・・って、凄く変な小説でスミマセン!!


 しかも、ミュラー提督の旗艦の『リューベック』までをも擬人化しちゃいましたので・・・アチャ~ですね。


 実は、この小説、ケンプ追悼作として書いた作品なんです・・・。
 こういうのもたまにはいいかな。

 友人は、擬人化に目の付け所が違うって面白がってくれました。

 視点を変えてみたんですけど、やや消化不良です。
 もっと捻れたかもしれないんだけど・・・。
 ・・・あぁ、更に努力しないと!!ですね・・・。
                                
 さて、このあとどうなったかと言うと、ケンプは・・・ガイエスちゃんをイゼちゃんにぶつける作戦に出ます。
 なので・・・ここで、ヨーツンハイムは要塞から出る事無く・・・T-Tです。


 ミュラーを乗せたリューベックは、要塞から出たところで被弾して、ミュラーは大怪我を負ってしまいます。

 軍医に「閣下は不死身でいらっしゃる」と言われるのですが、この時のミュラーって物凄く熱かったなぁ。
 ミュラーは、その後はどちらかと言うとおとなしい感じになるのですが、3巻までのミュラーは本当に熱い。
 血気盛んな若者・・・です。


 怪我で入院をしたり、バーミリオンでの事とか色々あったせいか、その後は落ち着いた感じになってます。
 成長したんだね、ミュラー君。

 この話を書いた後に、原作を読み返した時に・・・。
 バーミリオン会戦で、ミュラーを脱出させた後、リューベックが何を考えて沈んで行ったか・・・考えたりしましたよ。
 一瞬でも、ヨーツンハイムの事を思い出してくれたらいいなぁ・・・って。
 ↑
 ・・・妄想が激しすぎるな、ワタシ・・・^^@


 それから戦艦同士の会話なので、ちょっとこだわったのは(・・・そう言えるかどうか分かりませんが)、「卿」という言葉はあえて使いませんでした。
 「俺」と「お前」でいいんじゃいかな・・・って。

 その内にブリュンヒルトを擬人化してみようかな・・・高飛車の女なんだ、これが。←え?