帝国でも同盟でも、最近の写真は立体映像が殆どだ。
 平面写真もあるにはあるが、画像が浮かび上がっては不味い場合に使用される事が多い。
 それは大抵、軍の機密文書であったり、政府関係の物だったり・・・で、使用箇所は限られてくる。
 ソフトがそうであるから、ハードの方もデジタルカメラが主流で、スチールカメラは細々と残っているだけである。
 ただし、廃れていない・・・という程度で、特殊な場合に使われるか、懐古趣味の人の為の道具・・・となっている。
 そして、微妙な立場にあるのがポラロイドカメラだった。


 『ポラロイド』とは、元々は、地球時代に流行ったらしいインスタントカメラの商標である。
 だが、今ではこの名前がこの手のタイプのカメラの一般名称となっていた。
 ・・・デジタルが主流になった今も、この平面写真は、不思議な事に廃れる事が無かったのだ。
 撮ったその場で写真として見る事が出来るという利便性で、同盟国内やフェザーンでは、子供用の“おもちゃ”として、細々と残っていたのだ。


 今主流のカメラには、セット出来るフィルムの枚数は8枚。
 画質は他のカメラに比べるとイマイチで、ディスクやネガが無いので、1回写して、写真が1枚しか残せない。
 効率の悪さの方が目立ってしまうので、一般の需要は徐々に減ってゆき、玩具として生き残っていたのだった。
 しかし、たった1枚だからこそ価値があるという意見もあって、大人でわざとこれを使う人もかなりいる。
 
 ところが、同盟やフェザーンには細々と残るこのポラロイドカメラは、帝国ではとっくに廃れてしまっていた。
 帝国では平民の間には安いデジタルカメラが出回っていたし、子供は玩具などのカメラを買ってはもらえなかったからだ。
 しかしながら、インスタントカメラが普及しなかったのは色々な言い伝えが残されている。

 顔写真を撮られた貴族が、自分の顔がブサイクに撮れたのはカメラのせいだとメーカーを訴えてその会社が倒産したからだとか、フィルムの素材が人体に悪影

響を及ぼすというデマのために廃れたとか・・・。
 色々な説があるが、貴族達の間では画質の悪さから敬遠されていたので、帝国で普及しないのはその為だった。
 因みに、貴族の子供達が使うの玩具カメラは、平民が使うデジタルカメラよりも高価である。
 平民達は、ポラロイドの存在は知っていたが、フェザーン製のそれは高価だったので手が出ない。
 しかも、フィルム自体がおもちゃにしては高すぎるのだ。
 


 ポプランやユリアン、ボリス達はオーディンにいる間、出むいた公園で、観光を装ってあれこれ見学していた。
 確かに観るもの全てが新鮮で、任務と関係なかったら、際限なくおのぼりさんをしていたに違いない。
 そんな中で、ポプランは笑顔を武器に観光旅行の女の子達に声をかけまくった挙句に写真を撮っていた。
 ・・・ポラロイドカメラで、である。


 それの元々の持ち主はボリス・コーネフであった。
 因みに、フェザーンではポピュラーな会社の玩具のカメラだ。
 一応、全員、フェザーン人のフリをしているので、このカメラ持っていた方が、それらしく見えるというのが彼の主張で、ユリアン達も同意していたのだ。


 ポラロイドカメラは、その場で写真をペロンと吐き出す。
 その場ですぐに女の子にあげれば良いのに、ポプランはそうしなかった。


 『写真がちゃんとキレイに出るにはちょっと時間がかかるんだ。ちょっとした技術がいるんだよ』


 不思議そうにポプランを見る女の子達にそう説明して、夕方に、彼女達の宿泊先に届ける事を約束していた。


 「あの手のカメラの写真は数分で画像が浮かんできますが・・・。特に技術なんかいらないですよね」
 ポプランと被写体になった少女達のやり取りを見ていたマシュンゴは呆れ顔をして首を竦める。
 そしてユリアンに問いかける。
 「どう思います?女の子に会う為の口実にしても・・・大胆不敵というか」
 「確かにそうだけど・・・でも、何だか妙な説得力があるんだよね・・・」  
 同じようにその光景を見ていたユリアンは、女の子に再び会いたいが為の口実にしても、その並々ならぬバイテリティに尊敬さえ覚えていた。
 ・・・全く、どこからそんな発想が出るんだろう?
 それに、女の子から写真を撮るのを断られていないのも不思議だった。
 普通、見ず知らずに人間に声を掛けられたら、一旦は躊躇したり、無視したりする人だっていると思うのだが、ポプランが笑いかけたり、ちょっと表情を変え

るだけで、女性の方もまんざらでもない様子で乗せられてしまうのだ。
 それも嫌味が全くなく、さりげないで女性も話しやすいのだろう。


 さっき行った、新無憂宮<ノイエ・サンスーシー>の広場であった女性達だって、ポプランと普通に談笑していた。
 ポプランは女性に対しては、人の良い笑顔を向ける・・・とても爽やかな。
 確かポプランの話では、爵位は無いらしいが2人とも、帝国の貴族の女性であるらしい。
 そういった人達が警戒心無しで話すという事は、ポプランにはやはり魅力があるのだろう。


 「えっと・・・。エリサちゃんの宿泊先がホルトアルスターンホテルで・・・クレスタちゃんが、俺達と同じだったろ・・・。あ・・・と。そんでもって、ヨハンナちゃんとマリーベルちゃんがシュワルツメーヴェホテルだったよな・・・。う~ん、だから・・・」


 休憩の為に立ち寄ったカフェで、少女達が明るく微笑む数枚のインスタント写真写真を前に、受け渡しの確認作業に余念がないポプラン。


 「あ、そうだ。写真と一緒にとお菓子なんかを付けようかな。その方がきっと印象いいに決まってるよな・・・うん!そんな訳で、あとで菓子屋に行かないと!お前らも付き合ってくれ。ついでに物の値段の調査もをするから」  




 1人で盛り上がるポプランにマシュンゴは更に肩を竦め、ユリアンは、この後、何事も起こらない事をほんのちょっぴり祈っていた。





 THE END



 100のお題より、「ポラロイドカメラ」です。


 なお、オーディンへ行った時のひとこまです。

 『ベンディングマシーン』、『轍』とリンクした作品です。


 うちの主人は、インスタントカメラを劇場へ持参して、某劇団の公演終了後に役者さんの写真を撮って、その場で渡してあげたりしてます。
 あくまで公演終了後に楽屋で・・・です。


 その場で見られるせいか、何だか喜ばれるんですよね、これが。

 しかも、たった1枚だけの貴重な写真。

 これが喜ばれる理由のようです。


 昔は絵が出るまでに振っていたりしましたが、本当は振ってはいけないそうで・・・。
 じっと待っている方がキレイな画像になるようです。


 ユリアンやマシュンゴはともかく、ポプランは本当に女の子にはマメです。
 この辺りが「イゼルローンの諸星あたる」なんていう、あだ名をファンから付けられる所以だろうかと。


 ついでに補足。
 ヨハンナちゃんが、「ベンディングマシーン」に出て来た巻き髪の女性で、マリーベルちゃんが羽飾りの帽子の金髪女性です。