自由惑星同盟軍の士官のポプラン、ユリアン、マシュンゴの3人、そして本物のフェザーン商人のボリス・コーネフの一行は、ひょんな事から地球で、自分達と敵対している銀河帝国軍のワーレン提督と出合った。
彼等は不本意ながらも、自分達の身の安全確保の為に地球教を探りにきていたワーレンに協力する形になったのだった。
ユリアン達は自分達の身分を、フェザーン商人だと偽っていた為、自由惑星同盟の軍人だとばれる事なかった。
ボリス・コーネフはあちこちに手を回して偽名やら、「親不孝<アンデューティネス>号」のIDカードなどを偽造して3人に持たせていた。
ユリアン・ミンツはユリアン・ルフトに、オリビエ・ポプランはアンリ・ポプランに、ルイ・マシュンゴはロベルト・マシュンゴに・・・なっていた。
そして、自分の身を守る為に帝国軍に協力した事が良い結果を生んでいた。
地球教の殲滅作戦の指揮を取っていたのはワーレンは、3人の協力に謝意を表し、彼等が『オーディン観光』をしたい旨を告げると、快く了解してくれたのだった。
こうして、誰に気兼ねする事無く・・・調査を兼ねた市内観光を楽しんでいる。
まさか、堂々とオーディン入りを果たして、観光を出来るなんて今まで考えた事もなかった・・・。
ましてや、ワーレンの客人として扱われるなんて信じられない。
本当に考えれば考えるほど、“縁<えにし>”を感じるユリアンだった。
地球へ行く事は計画の内であったが、オーディンに行く計画は当初からあった訳ではない。
しかしながら、1度敵の本拠地である惑星に行って見たかったユリアン達にとって、ワーレンと一緒にオーディン入り出来る事はありがたい話であった。
そしてユリアンは、無事に帝都の土を踏み、自分達が同盟軍の軍人である事がばれずにホッとしていた。
着いて早々に形だけとは言え、憲兵隊の取調べを受けたが、それから後は本当に自由だったし、翌日は、天気も良いので3人で出かける事になった。
マリネスクはホテルに籠り、ウィロックは単独で洋服を買いに出かけた。
なお、ボリスだけは別件で改めて憲兵隊に呼び出され、その内容を知るまでは少し憤慨気味だった・・・。
3人がまず向かったのは・・・。
新皇帝ラインハルトの指示で博物館への改装が進められ、一般にも開放されつつある新無憂宮<ノイエ・サンスーシー>だった。
改装中なので入れるのは新無憂宮<ノイエ・サンスーシー>前の広場だけであったが、それなりに観光客がいた。
真っ青な空に白い雲・・・暖かなかな日差し・・・。
主義主張は違っても、ごく一般の人々の基本的な生活空間は、帝国も同盟も殆ど一緒のようだった。
ポプランは相変わらず女の子に目が無い。
新無憂宮<ノイエ・サンスーシー>前の大きな広場でも、持ち前のナンパ術は発揮されていた。
「お嬢さん、どちらから?」
ポプランはまず、帝国風の巻き髪の妙齢の女性と、羽飾りのついた帽子を被ったロングストレートの金髪の若い女性に声を掛ける。
2人で旅行といった感じである。
巻き髪の女性は同盟にはいないタイプ・・・どう見ても貴族っぽい雰囲気で、ポプランは嬉しそうである。
落とし甲斐がありそうだ。
勿論、金髪の女性も物凄く美人で、レベルが高いのでこれまた嬉しそう。
声を掛けられた女性達もまんざらでもない様子で、巻き髪の女性が、「私達はインスブルックから来ましたの」と答える。
地名を聞いたってポプランには分からない。
彼の微妙な表情を見てとった彼女は「・・・田舎だからご存じないかもしれませんわね。・・・思い切って出てきて良かったわ。少し前だったら私達なんてここには入れませんでしたから。貴族と言っても名ばかりですからね」と微笑んだ。
「本当に、思い切って出てきて正解ですわね。中がこんな風になっていたとは・・・」と、金髪の女性も同調する。
・・・やはり2人とも貴族だったか。
彼女達の極上の微笑みに、ポプランはすかさず、「そうだ。写真を撮ってあげましょう!お2人にとっても、きっと良い記念になりますよ!」とか言っては、彼女達の間を蝶みたいにひらひらひらひら・・・飛びまわっている。
こうして、民衆の手によって倒されたルドルフ像の前で、自分もちゃっかり彼女達と一緒に写真に収まる・・・しかも真ん中に。
まさに両手に花である。
そんな時、カメラマンを頼まれるのはマシュンゴであった。
「どうして私がカメラマンなんですか?」と問うと、「お前さんしかいないだろう?いいから撮れって・・・そういうう運命の下に生まれたんだよ」とポプランに返された。
「運命ですか。まぁ、運命には逆らえませんから」
マシュンゴは屁理屈だとは思っていたが、ポプランから手渡されたインスタントカメラのボタンを押していた。
その後、一旦は、別行動を取ろうとしたポプランだったが、ユリアンとマシュンゴだけにしておくのにやや不安を覚えたらしく、30分足らずで3人は合流した。
「別行動を取るのでは?」
「マシュンゴ・・・あのな。考えたら、単独よりもグル―プの方が女の子も安心するだろうからな。それにカメラマンはいた方がいいからさ」
ポプランは勝手な事を言って、またまた女の子達に「ねえ、君!一緒に写真をらない?」と声をかけると、マシュンゴにインスタントカメラで写真を撮らせたのだった。
3人は、新無憂宮<ノイエサンスーシー>を出ると、今度は、帝都の中心部にある広い公園に行ってみた。
ここも元は貴族の個人庭園だったらしいが、今では一般に開放されていた。
オーディン市内にはこんな場所がいくつも出来て、今まで決して足を踏み入れられなかった場所だけに、平民達が観光に訪れていた。
どの公園でもポプランは『水を得た魚』のように、可愛らしい子を見つけると弾丸の如く駆け寄っては話しかけている。
ポプランは話術には長けているので、声を掛けられた女性達も最初に一瞬だけ見せた警戒心がすぐに溶けるらしく、すぐに笑顔でポプランと談笑していた。
「・・・あのバイタリティは見習うべきものがありますね。ちょっと言葉は悪いですが、良くも簡単に女性を手なずけれれるものだと感心してしまいますね」
マシュンゴは、ポプランのマメさに驚きつつも、「でも・・・さすがに真似しようとは思いませんが」と付け加えて苦笑した。
そして、「すぐに安心させてしまう手腕・・・あれも、人心掌握術・・・なんでしょうかね?」とユリアンに声を掛けた。
「人心掌握術・・・そうだね。まぁ、あの行動力は凄いけれど、やっぱり真似するのは至難の業だよ。僕には・・・とても無理だな」
ユリアンは、マシュンゴと互いに顔を見合わせて笑った。
ひとしきり女の子達に声をかけまくって、にこやかな笑顔のままで2人のところに戻って来たポプランにマシュンゴは呆れ顔だ。
なにしろ、噴水の前に、2人を40分近くも待たせたからだ。
「・・・遅かったですね。待ちくたびれましたよ」とマシュンゴ。
「そんな顔をするなって。これは市民の意識調査の一貫さ」
ポランはそう言い放った為、マシュンゴは益々肩を竦めた。
「意識調査ですか・・・」
ユリアンが苦笑すると、マシュンゴも「・・・本当に、物は言いようですね」と苦笑する。
「そうさ。帝国の女性はもっとお堅いかと思っていたけど、さすがに心にまで鉄の鎧を身に付けてはいないようだな。貴族の女性だって気さくだったし。それにな、皆、可愛いときた!!オーディンはハイレベルだね。あと、スレてなさそうなところもいいね。例の地球の・・・化石じみた鬼婆みたいな顔の女達より最高だろ?あ、ユリアン。『女の子が可愛い』ってのは、ちゃんと記録しとけよ」
にこやかなポプランに、2人は、もう何も言う気は起きなかった・・・。
「おい、ユリアン。喉・・・渇かないか。もう、喉がカラカラだ・・・」
「そうですね。気候が乾燥しているのでしょうか。・・・確かに、何か飲みたくなってきましたね」
「あの・・・自販機を探しましょうか?」とユリアンが言うと、「探して来ますよ」とマシュイゴがその場を離れた。
マシュンゴは自販機がないかどうか見渡す・・・。
でも、そららしき物が見当たらないのですぐに2人のところに戻る事にした。
「なぁ、普通、大きな公園には、自販機とか軽食のスタンドとか・・・あるだろ?せめてて自販機ぐらい・・・ないのかよ?」
やや憤慨するポプラン。
喉が渇いたのに、先ほどから1台も自販機らしきモノを見かけないのだ。
「・・・本当に喉が渇きましたね。でも、ここにはないのかも・・・」
ユリアンも困惑していた。
飲みたい時に、好きな飲み物を飲める環境にあった自分は、もしかしたら贅沢だったのではないかと・・・。
すると、周りの建物や行き交う人々の様子を記録していたマシュンゴが汗を拭いながら戻って来た。
「ざっと見てみましたが、本当に無いようですね。・・・と言うか、ここに来る途中でも、そういった機械を見ませんでしたよ。今まで変だと思いもしなかったですが、言われてみれば確かに奇妙です。あちらでは考えられません」
「そっか・・・この公園は、確か貴族の元庭園って話だったし、最近出来たらしいし。だから自販機がないんだな」
「公園だけの話でしょうか?・・・どうも、オーディンに来てから自販機を見た覚えがないのですが」とマシュンゴ。
「え・・・そうか?いや・・・待てよ。そう言えばさっき行った広場にも無かったな。・・・何でないんだ?」
「さあ・・・?」
マシュンゴは困惑の表情を浮かべる。
「あの・・・あっちに花屋とか、カフェっぽいのとかありましたよ。あれはオーディンの商店街じゃないですか?」とユリアン。
「商店街・・・か。う~ん・・・帝国にはコンビニとかあるかな?・・・俺は自販機だけでいいんだけどね」
取り合えず喉を潤すのが先だと、3人は連れ立って歩き出し、公園から外に出て、ユリアンの言う件の商店街へ向かった。
それは、本当に小さな商店街だった。
パン屋や菓子屋、花屋、薬屋、肉屋、本屋、総菜屋、雑貨屋、洋服屋に靴屋、かばん屋に、化粧品屋、そしてカフェなど、どれも間口が小さな、こじんまりとした個人商店が立ち並ぶ。
けれど、同盟では当たり前のように乱立するスーパーマーケットのような大型店舗はないのだ。
コンビニっぽい小さなスーパーも見当たらないし、おまけに、同盟では見慣れているはずの自販機すら、ここには1台もないのだった。
「・・・信じられないぜ。・・・自販機がないなんて」
さすがのポプランも驚きを隠せない。
「確かにあっちでは考えられませんね・・・」
ユリアンも目を丸くして、小さな商店街を見ていた。
ハイネセンではジュースだけではなく、タバコの自動販売機から、菓子や雑誌、おもちゃの自販機まで色々あるのだ。
更に言えば、掃除をする機械やら、写真を撮る機械もある。
ジュースの自販機だって固定型から、街中を自在に移動しながら自動販売する機械まである。
そういった、ハイネセンで見慣れたモノが・・・一切ないのだ。
「自販機が街中にある・・・というのが当たり前だと思っていましたが、そういうのはここでは通用しないんですね」とマシュンゴ。
「そうだね・・・常識って、環境によって変化するものなんだね」とユリアンは呟いた。
帝国の人は自販機がない生活に慣れていて、そんな物がある事すら知らないのだ。
「・・・どうやらここでは、飲み物はパン屋とか、菓子屋で売っているみたいですね」と、マシュンゴが1軒の店を指差す。
確かに飲み物・・・ビン入りだが・・・を入れた大きなガラスケースが店先に置いてある。
パン屋も菓子屋も飲み物を売っているようだ。
「うーん・・・対面式の販売方法か。・・・じゃ、パン屋で飲み物を買うか」
ポプランは、持ち合わせていた帝国マルクのコインを上に投げて遊んでいたが、「よし、買って来よう。ユリアン、マシュンゴ・・・飲み物は何がいい?」と2人に声をかけた。
「それじゃ、ミルクにします。無難でしょうから・・・。もし、ミルクがないようでしたらサイダーかミネラルウォーターで」とユリアン。
「私も同じものでいいです・・・」と、マシュンゴも頷く。
「おい、おい・・・。俺は本当はビールとかの方がいいんだけどな。でも、俺も同じ物にしておいた方がいいかもな・・・」
一瞬、物足りなさそうな顔をしたものの、ポプランは片目を瞑って急いでパン屋に向かって駆け出す。
こうして、帝国公用語を使って、初老のパン屋の店主からビン入りのミルクを3本買って来た。
「ほら買って来たぞ。・・・飲み終わったら、ガラスケースの隣の箱にビンを入れてくれって」
「ビンを??」と2人。
「リサイクルと街の美化の為だから、若い者は積極的に協力しろってさ・・・。『限りある資源の無駄遣いは良くない。ビンを返すのが正しい帝国人のあり方だ』って説教さちまったよ・・・」
「帝国でもリサイクル?」と、小声で話すユリアンとマシュンゴ。
「アレだな・・・帝国も意外にも環境に煩いって訳だ。これは、帝国と同盟に共通の課題だろうな。・・・おい、ユリアン。これもちゃんとデータとして記録しておけよ・・・」
ポプランが声を低めて『記録』と言うと、(遊んでばかりいるように見えるけど、調査の事を忘れている訳じゃないんだ・・・)と、2人は互いに顔を見合わせて苦笑した。
THE END
100のお題より、「ベンディングマシーン」です。
「ペンディングマシーン」とは、『自動販売機』の事だそうです。
最初は、自販機を見た帝国の軍人の話とか考えたのですが、自販機の無いオーディンに行った3人という設定で、ちょいとお話を書いてみました。
それにしてもユリアンって凄いな。
ハイネセンにもオーディンにも地球にもフェザーンにも行っているの。
ヤンやラインハルトよりも凄いかも・・・。
実は銀英伝の影の主人公はユリアンだったって説も頷けるよ・・・これだけあちこちに行ってりゃあね。
最近都内のJR某駅で、昔ながらのビンの牛乳だとかオレンジジュースを売っているところを見ました。
飲み終わったビンを回収しているのを見て、これも、エコの一環だなと思いました。
帝国がエコに力を入れているかは別として、オーディンはOVA見る限りでは、自然がいっぱい残っていて、以外にも公害とかは少ないのかも・・・なんて思いました<街中は・・・
それから、あのワーレンですら、3人を同盟の軍人だと分からなかったぐらいだから、おちゃらけているように見えるポプランも、完璧な帝国公用語を話せるのよね・・・って、パン屋の親父さんと会話をさせてみました。(直接のセリフは無いですが・・・)
ユリアンの旅については、「Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~」を読んで頂ければ・・・。
長い話で申し訳ないのですが、読んでから、3部作を読んだ方がいいかもしれません・・・その逆もアリですが。
「ベンティングマシーン」、「轍」、「ポラロイドカメラ」は、「Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~」の中でちょろっと触れた、オーディンでのシーンをより掘り下げた物です。
実は・・・白状すると、100のお題の3作品の方が先に出来上がっていて、「Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~」はあとから書きました。
3作品を書いている内に、ユリアンの旅をちゃんと書きたくなったのです。
・・・どちらにせよ、形に出来て良かったです、3作品と「Die Reise einer Pilgerfahrt ~Ein cooperator~」は。
それから、話の後半部分は・・・「年中無休」にやや連動しているかも。