高級士官クラブの『海鷲<ゼー・アドラー>』でビッテンフェルト、ミュラー、メックリンガーが3人で飲んでいた時・・・。



 何故か、「子供の頃に苦手だったスポーツ」の話になった。
 ・・・何の脈絡もなく、酔った勢いでビッテンフェルトが突然言い出し、何故急にその話題!?とミュラーは目を丸くし、メックリンガーも意外そうな顔でビッテンフェルトを見た。
 今までも皆で飲む機会は多かったが、このような話題は珍しかったからだ。
 
 「小官が苦手だったのは鉄棒です。・・・特に逆上がりが苦手でしたね」


 ミュラーは子供の頃の事を思い出したのか、肩を竦めた。
鉄棒は逆上がりだけでなく、他の物も苦手だった。
 唯一出来たのは懸垂ぐらいで、懸垂の中では、斜め懸垂が楽で好きだったのを思い出した。


 「逆上がりか・・・」とビッテンフェルト。
 「何度か居残り練習させられましたね・・・逆上がり。まぁ、居残り練習のおかげで克服はしましたが」とミュラーは答え、「一回出来るようになったら後は楽でしたね。そして、何故出来なかったのか不思議に思いました」と笑った。
 「確かに苦手な事を克服すると、出来なった当時を思い出して感慨深くなるようですね」とメックリンガーも同調した。


 「私は・・・長距離走が苦手でしたよ。どうもスタミナ不足でしてね。小学生の頃、1度、風邪をひいたのを理由にマラソン大会に出なかった事がありましたよ」
 メックリンガーはそう言い出し、「他の物は・・・好きではなかったにしてもそつなくこなしていましたね」と答えた。
 スポーツはどれも苦手そうに見えるのだが、基本的に何でもこなせるらしい。
 格闘技関係も、得意とは言えないが、苦手意識はないらしい。


 「ふーん・・・卿は全部が苦手そうに見えるのだがな・・・」
 「苦手だと、軍隊生活は出来ませんよ。場合によっては白兵戦もあるのですから」
 メックリンガーに言われて、ビッテンフェルトは首肯した。
 「まあ、そうだな。軍隊生活は身体が資本だからな」
 「ただ、自分からはあまりスポーツはしませんね。昔から、絵を描いたり、ピアノを弾いたりの方が好きでしたからね。とにかく、マラソンだけは今でもやりたくないですね」
 「マラソン・・・ですか。それは小官も好きじゃないですよ」
 ミュラーも相槌を打つ。 

 「小官は子供の頃・・・宿題を忘れた為に、教師に怒られて『校庭を10周!』と言われてヘトヘトになった記憶があるんですよ」

 「あぁ、俺もそうだったな。いつも忘れ物ばかりしていたからな。しかし、なんで教師ってのは、あんなに子供を走らせたがるのだろうな?」
 ビッテンフェルトは顔を顰<しか>めた。
 どうやら、しょっちゅう走らされていたようだ。


 「・・・それはそうと。ビッテンフェルト提督はスポーツなら何でも得意だったのではありませんか?」

 そうミュラーに問われたビッテンフェルトは肩を竦めた。
 「何でも得意か・・・。まぁ、大体は・・・な」
 「・・・という事は、何か苦手なのがおありなのですか?」
 意外そうなミュラー。
 「それが・・・何でか、走り幅跳びだけは苦手だった」
 「え・・・走り幅跳びですか?」
 ミュラーは驚きの表情でビッテンフェルトを見た。


 ビッテンフェルトの運動能力は人の数倍はありそうに見えるし、とてもあの単純な運動が苦手なようには思えなかったからだ。

 「・・・卿は走り幅跳びが苦手なのか?これは意外と言うか、何と言うか・・・。あれはただ単に踏み切って大きく前に飛ぶだけ。・・・走り幅跳びや高飛びならば、小学生でも簡単に出来るスポーツのはず・・・」
 メックリンガーも意外そうな表情をした。
 「本当に珍しい話ですね」とミュラーも不思議そうな顔をする。
 「・・・ま、確かにそうなんだけどな。あ・・・でも苦手だったのは子供の頃の話であって、今も出来ない訳じゃないからな!」
 2人が面食らったような表情で見るものだから、さすがのビッテンフェルトも苦笑いをした。


 「ほら・・・あれは助走してから踏切るだろう、普通は」
 「そうですね・・・」とミュラーが頷く。
 「ところが俺の場合、走るのは全く問題はなかったのだ。むしろ得意な方だったのだが、踏切りのタイミングが悪いらしくてな。それで砂場に派手に突っ込んでしまう。・・・お陰で毎回、目に砂が入ってな。痛くてたまらなかった」
 「それは・・・」
 思わずその姿を想像してしまい、ミュラーも苦笑いを浮かべる。


 「走り幅跳びの踏切は、空気の階段を駆け上るように大きく踏み切らねば・・・」


 ワインを口に運んでからそう言ったのはメックリンガーである。
 確かに走り幅跳びは、踏切った瞬間に階段を駆け上がるような動作で前に跳ぶ・・・そういうイメージなのだ。

 「・・・他のスポーツは出来るのに、何故これが出来ないのかと何度も体育教師に言われた。卿が言うように『空気の階段を上るように飛ぶんだ』とな。でも上手くいかなくてな。・・・で、走り幅跳びは跳び箱の踏切板を使った練習が効果的だという事になって、俺はこれでやっと跳べるようになったんだ」
 「・・・え、どうやるんですか?」
 ミュラーは意外な話の流れになったな・・・と思いつつも、興味から身を乗り出してしまった。


 「まず、本来の踏切板の所に、跳び箱の踏切板を用意して、これを使って踏切をやるだけだ」
 「なるほど・・・。それなら、楽に踏切れるでしょうし、練習にはなりますね。それは、その教師の発案ですか?」
 メックリンガーが感心したように頷いた。
 「・・・教師の発案かは知らぬが、出来ない子供には絶大な効果的があるそうだ。慣れてきたら跳び箱用の踏切板を外す。自然な動きで、助走→踏切準備→踏切→空間動作と覚えていく・・・って寸法だ」
 「へえ・・・」
 ミュラーは感心していた。
 「練習に踏切板を使うと、それなりの高さも確保出来るし、空間での足の回転が容易になるのだな。踏切位置に足がぴったり合わせる感覚も自然に身につく。当時俺以外にも踏切が悪くて上手く飛べない奴が数人いたが、これで全員クリアした。・・・着地のフォームも良くなるのだ。この練習方法で飛距離も伸びたしな。他の子供で50㎝ほど伸びて・・・俺は一気に1m近く距離を伸ばしたから、教師が『君なら出来ると思っていたよ』と本当に喜んでくれたな。勿論、俺も嬉しかったが」
 ビッテンフェルトは一気にまくし立てて、ジョッキに並々と入ったビールを一気に飲み干した。


 「走り幅跳びで、一番重要なポイントとなるのは、踏切のリズムと飛び出しの感覚ですからね。・・・指導者として優れた教師という訳ですね」

 メックリンガーも、全員が跳べるようになったと聞いて感心した様子だった。
 「確かにな。・・・絶対に落ちこぼれを作らない体育教師だったな。太っている奴にはダイエット方法とかも伝授していたし。この教師の授業は面白かったから退屈はしなかった。皆に人気があって、俺も好きだったな。・・・なぁ、そういうのが士官学校の教師だといいと思わないか?」
 「まぁ・・・そうですね」
 何故、そこで士官学校の話になるのだろう??と思いながら、ミュラーは複雑な表情を浮かべる。


 「俺・・・あいつは大嫌いだったしな」 
 「あいつ?」
 ミュラーは首を傾げた。
 誰の事なんだろうと思っていたら、ビッテンフェルトは新しいビールを半分ほど飲んでボソッと呟いた。
 「・・・理屈倒れのシュターデンだ」
 「提督・・・。シュターデン提督は今は教師じゃなくて現役の・・・」
 「・・・ったく。だからイヤなんだ。・・・きっと今でも部下の成績とかもチマチマと付けてそうだ。それでねちっこく嫌味を言うに決まっている・・・絶対そうに違いない!」
 ビッテンフェルトは苦虫を潰したような顔で、「あいつ、本当に最悪だったんだ・・・」と呟いて、残りのビールを一気に飲み干した。




 ミュラーとメックリンガーは互いに顔を見合わせ、これは士官学校時代に何かあったな・・・と思ったが、彼の名誉の為にあえて何も聞かず、黙ってワインを飲み干した。




Das Ende




 100のお題より、「踏切」です。

 踏切・・・このタイトルも悩みでました・・・。
 踏切なら電車でネタを書くのか!!?って。


 でも、電車ネタは他でも使っているので、もうこれ以上は・・・なので、視点を変えてスポーツでのアプローチを試みてみました。
 発想の転換というか・・・。
 意外でしたが、この方がスッキリしました!


 私は運動が苦手で、幅跳びは苦手ではありませんが、跳び箱は今でも全く飛べません。
 いや・・・走り幅跳びもやっぱり苦手かもしんない。
 走り高飛びもダメです・・・幅跳び以上にダメダメです・・・そう、完全にウンチなのです。(笑)


 高校時代、幅跳びをしていた時に空中で腰を捻ってしまい、1mちょっと飛んだところで砂場にヘンな恰好のまま落下して・・・。
 あろう事か、そのまま砂場から動けなくなってしまいました・・・。
 授業中の出来事だった為、公傷扱いになり、私は体操着のまま、保険医に付き添われて整形外科に・・・。
 腰痛と診断されて、暫く病院通いをする羽目になりました・・・。


 なので、陸上競技は嫌い(いや、スポーツ全般にダメダメ)なのですが、2人の弟は・・・中学時代陸上部で。
 上の弟は短距離で、下の弟は幅跳びやってました。
 下の弟は、小学校時代に連合体育大会で幅跳びと高跳びで記録を出して、その記録は3年ほど破られなかったとか言っていました。


 同じ姉弟なのに、この違いは何故なの~!!?


 ビッテンフェルトは運動神経良さそうですが、こういう人が全部が全部出来る訳ではないです。


 以前、カール・ルイスが野球が苦手だったと聞いた事があって、この作品が生まれました。
 彼が苦手だった理由は、確かに人よりも走るのは早かったけど、塁で止まる事が出来ずに走り抜けてしまうからだとか。
 その為、結果的にタッチアウトになるらしく・・・野球に全然向いていなかったらしいです。


 猪突猛進のビッテンフェルトも踏切で踏切らず、派手に突っ込んでいた・・・と。←無理があるけど、笑って見逃してやって下さい。(爆)


 理屈倒れのシュターデン提督は、リップシュタット以降は・・・やはり強制的に退役させられたんでしょうね。
 担架に乗せられて運ばれるシーンはOVAにはあったけど、あれ以降全然出て来なかったから、死んじゃったか、退役かのどちらかだろうと・・・。
 白目をむいて運ばれていく彼は・・・何とも哀れだったわ・・・。


 彼と士官学校時代のビッテンフェルトの間に何があったんだろうなぁ・・・。←書く気はさらさら無いけれど・・・ww