うちの娘は現在11歳・・・。
可愛いとか美人というより、元気で快活な少女・・・と言う方が良いかもしれない。
娘は、昔から女の子らしい遊びが苦手なようだった。
私には女兄弟はいなかったが、年の近い従姉妹は幾人かいた。
だから、女の子というものが、花や人形などが大好きで、華やかなドレスや、甘いお菓子が好みだというのは知っている。
彼女達がパーティーの折に、花柄やレースのふんだんに付いたパラソルや、ピンクのリボンの沢山付いたドレスを見せびらかしていたのを思い出す。
だが、自分に娘が生まれてから、それは人によって異なるのだと初めて知った。
娘は、レースやリボン、スカートやドレスなどのファションにもそれほど興味を示さないし、第一着たがらなかった。
外で遊びたがってばかりいる娘にはドレスは動きづらいらしく、物心付いた頃には、少年のようにズボンを穿いていた。
女の子なのにこれでいいのだろうか?と心配になって娘に直接聞いてみたら、泥だらけの顔でこんな答えを返して来た。
「ドレスだと・・・汚れたら叱られるから好きじゃないわ」
娘は口を尖らせた。
「叱られるって・・・誰にだね?」
「え・・・っと、フラウ・シュメットに怒られるの。ドレスは仕立てるのも大変だから、庭を走り回ったらダメだと言うんですもの。ドレスでは、馬にも乗ってはいけないって・・・」
フラウ・シュメットと言うのは、執事の妻で、長年この家の家政婦頭を務めている。
妻は既に他界しているので、フラウ・シュメットに娘の世話を頼んでいたのだが、彼女から見て、うちの娘の行動は目に余るようだった。
「それから、庭の木に登ったら物凄く叱られたの・・・。木の上から見た風景は物凄く綺麗だったのだけど・・・そのせいで、スカートの裾が切れてしまって・・・」
私は、娘がまさか、木にまで登っているとは思わなかった為、正直言って驚いていた。
「・・・いい服を着て木に登るのは感心しないな。だから、フラウ・シュメットの事を悪く言ってはいけないよ。・・・フラウは、お前が怪我でもしないかと、心配して言ってくれているのだからね」
娘が木から落ちでもしたら、フラウ・シュメットは責任を取らねばならないだろう。
「・・・はい。木に登ったのは私が悪かったと思っているの。それに・・・フラウ・シュメットは、ズボンで走ったり、木に登ったりするのは怒らないの・・・ううん、違うわね。ドレスで走るよりはまだマシなんですって。とにかくね、お父様・・・私、本当にドレスって大嫌いなの。ヒラヒラしていて動きづらくて、走ろうにも走れないんだもの。ずっとズボンで過ごしたいわ」
「そうは言ってもだね・・・ドレスを着なくてはいけない時もあるのだよ」
「あぁ、いやになるわ。走れないし、私・・・ドレスを着なくてもいい男の子に生まれたかったわ。・・・その方がどんなに良かったかと思うの!!ドレスは大嫌い!」
私は娘の言い分は理解出来た。
なるほど、その通りなのだ。
私は、妻や親戚の女性達ドレスの素材と、そのドレスの丈を思い起こした。
木に登ったり、走ったりするのは至難の業だ。
しかし、どうしてこうも、男勝りなのだろう・・・うちの娘は。
貴族の子弟・・・男子は幼年学校に通う者が多いが、女子の場合は身分が高ければ高いほど、深窓の姫君然として、家庭教師に教育を任せる親が多い。
その教育も、貴族の令嬢の場合は、学問と言うよりは、エレガントな女性になる為に、ダンスや声楽などのカリキュラムを盛り込んだ内容だ。
家庭教師を付けない、いわゆるお嬢様学校と言うのもあったが、内容はどこも似たようなものだった。
そういう学校にはキチンとした制服があり、白いレースのブラウスにシルクのスカーフやリボン、黒い足首まであるスカートだの、わりとカッチリした服装の事が多いので、娘は、はなから着るのを嫌がった。
このタイプの学校には貴族の子弟が通ってはいたが、下級貴族や平民だが、裕福な商人の子弟などもいた。
その為、門閥系の貴族は下級貴族や平民との付き合いを避けるべく、学校よりも家庭教師制度の方を重んじて、学校に通わせる家は少なかった。
我が家もカストロプ公の親戚であるし、世間体を考えると、無理に学校に通わせても・・・と思っていた。
第一、娘は制服を嫌がっている。
そんな訳で、我が家では学校へは行かずに家庭教師に来てもらっている。
一応、貴族の子女の嗜みとしてピアノやダンスも・・・と思ったが、娘には全く興味が無いらしい。
貴族としては、さすがに『踊れません』というのは不味いし、ピアノも人前で弾かされる事が多々あるので、どちらも必要最低限の嗜みだと言いくるめた。
それで娘は、不平不満を口にしながらも嫌々習っていた。
娘はそんなものより、語学や歴史、物理や数学、政治などの学問分野に興味があるらしく、それらの授業になると途端に生き生きしていた。
熱心に学問に励むのは良いとしても、貴族の令嬢としては、これは問題ではないだろうか・・・。
私は、世間一般の貴族の令嬢とは違う娘が心配になってきた。
娘は一体誰に似たのやら・・・。
娘は芸術にもさほど興味がないようだった。
あれが3歳になる頃に亡くなった妻は、元々下級貴族の出身だが、かつては、声楽家として名を馳せていた。
彼女の出ていたオペラを観に行って私は一目ぼれをしてしまい、親戚一堂の反対にもあったが結婚までこぎ着けたのだった。
結婚後も、その才能を買われて、音楽学校で、古典音楽の講師を勤めていた事もあったというのに。
しかし、娘は私の心配をよそに、女の子然とした物に全く興味が無いというだけで、乗馬やフェンシング等のスポーツを難なくこなし、学問を愛する元気で活発な少女・・・まぁ、いわゆる、おてんば娘であったのだ。
それから数年後のある日・・・。
「ヒルダ・・・お友達が欲しくはないかい?」
「え・・・お父様、急にどうなさったの?」
本を読んでいた娘は本を閉じて私の顔を見た。
私は娘の読んでいた本に視線を落とす・・・。
『哲学と格言』と書かれた本を読んでいたようだ・・・多分、書庫から持って来たのだろう。
貴族の令嬢が好んで読む本とは到底思えない。
私もかつては呼んだが、かなり難い本という印象だったが、娘には面白いらしい・・・本当に不思議な子だ。
「お前は、ここに友人を招く事がな言うから・・・少し気になってな」
「・・・私、お花やレースやケーキの話しかしないような友達ならいらないわ。だって退屈なだけだもの。こう言ってはなんだけど、頭の中身が空っぽなのよ」
娘は首を振り、キッパリと言い切った。
“からっぽ”とは、また辛辣な事を言う。
私は苦笑するしかなかった。
「じゃぁ、どういうお友達なら良いのかな?」
「そうねぇ・・・思いやりがあって、一緒にいて楽しい人かしら?ちゃんとした気遣いの出来る人ね。あと、自分の考えをしっかり持っている向上心のある人。一緒に学問を出来る人なら・・・なおいいわね」
「・・・それなら、学校に行くかい?」
「本当に、急にどうなさったの、お父様?大貴族のお嬢様学校なら別に行きたくないわ。あそこに行っている人・・・さっきもお話ししたけど、本当に頭がからっぽなんですもの。この間のパーティーでここへ招待したファイネル男爵家のクララなんか、ケーキの話ばかりしていたのよ?それとドレスとダンスの話題ね。・・・私はそういう話はうんざりよ。それにあの制服も最悪!!馬にも乗れない、あんな動きづらいレースとリボンだらけのスカートは穿きたくないわ。そもそも学校とは学問を修めに行くところでしょう、お父様?」
娘の痛烈な批判に私は、更に苦笑するしかなかった。
「確かにお前の言うとおりだね。学校は学問を修めるところだ。じゃぁ、特に制服が無くて、ズボンでも良くて、ちゃんと学問を修められる環境の学校がいいんだね?」
「そうね。でも・・・そんなところあるの?貴族以外の人も通う学校なの?」
「ヒルダ・・・。実はお前に学校を薦める人がいてな。まぁ、これを見てご覧」
私がテーブルの上に置いた案内書を娘は食い入るように見つめていた。
それはオーディンの寄宿舎付きの高校の案内だった。
「そこの学校は、制服は無くて、勉強を真面目にしたい生徒が入るらしい・・・一応、貴族の経営で貴族の子弟ばかりだそうだ。それに、大学もあるらしいよ。ここを薦めて下さった人は、ここならお前に合っているだろうと太鼓判を押されてな」
「・・・そうなの?」
「ここは、入学試験がかなり難しいらしいのだよ。真面目に勉強している者しか通らないそうだ。まぁ、しっかりと勉学に励んできたお前なら受かると思うのだが・・・」
娘はまたパンフレットを食い入るように見る。
「ふーん・・・中々良さそうな学校ね。でも、どなたの紹介なの、お父様?」
「あぁ、ヴェストパーレ男爵夫人だよ」
「あぁ、あの方・・・。そう。それなら私、受けるだけでも受けてみようかしら。ねえ、決めるのは受かってからでも良いのでしょう?でもいいの、お父様?ここに入ったら、オーディンに行きっぱなしになってしまうのだけど・・・」
「なに・・・心配する事は無いよ。お前は自分がやりたい事をやればいいのだから。私はね、お前を家の中に押し込めておく気は全くない。お前を縛り付けても無駄だと分かっているからでもあるのだが、自分のしたい事をすればいい」
「・・・お父様・・・」
「それに・・・この家をどうするかは、お前の肩にかかってくるんだよ、私の亡き後はね。・・・あぁ、そんな顔をしないで。いいかい?だから、勉強でも何でも、出来る内にやっておくんだよ。あとで・・・あの時にやっておけばと、後悔しない為にもね。・・・そして、身に付けた物をお前の武器として生かしていきなさい。ヒルダ、お前になら出来るはずだ」
「私・・・この家の子供で良かったわ」
娘は私の言葉に驚きの表情を浮かべていたが、やっと笑顔を見せた。
「お父様は、無理やりレースやリボンを押し付けられたりしないもの。そして、私の事を本当に良く理解して下さってるもの。制服が無くて、ズボンで通ってもいい学校があるなんて思いもしなかったわ・・・。だけど、お父様・・・。何故、ヴェストパーレ男爵夫人がこの学校を推薦して下さったの?それが気になるのだけど・・・」
「いや、なに・・・。ヴァーレン子爵のパーティーに行った折に、客人の中にヴェストパーレ男爵夫人がおられてな。つい、お前がクラリスに似ずに、政治や経済、歴史などに興味を持っていると話したら、この学校を紹介して下さったんだよ。お前の貴族の令嬢っぽくないところを気に入ったとかおっしゃっていたな。それに・・・ここから出て、広い世界を見聞きするのも悪くはなかろうと思ってな」
「そう・・・『貴族の令嬢っぽくないところ』と言うのがちょっと気になるけれど・・・悪い話じゃないわね」
娘は楽しそうに笑っている。
「そうだろう?」
「ドレスやスカートを穿かなくてもいい生活を送れるし、外の世界を垣間見られるし・・・嬉しいわ。私・・・もっともっと・・・勉強したいの」
娘は本当に嬉しそうに微笑んだ。
この子のこんな生き生きとした笑顔が見られるなら、私はこの子の為に、出来る限りの事をしてやりたい・・・だって、この子は私の自慢の娘なのだ。」
「お父様、本当にありがとう。・・・私、ちょっと馬に乗ってくるわね!」
案内書を丁寧に閉じると、娘は飲みかけのコーヒーを一気に飲み干して、勢い良く立ち上がった。
そして私に手を振って、颯爽と外に出て行った。
Das Ende
100のお題に「スカート」と言うのを見つけた時、「スカートの中の大将」って言葉が浮かんで、一瞬、ラインハルトで書こうと思ったのですが、安易なのでやめてしまいました。
代わりに書いたのが、ヒルダとマリーンドルフ伯です。
・・・と言うか、マリーンドルフ伯から見たヒルダなのですが。
最初は、ヒルダ側から書こうかと思っていましたが、ヒルダパパから見た彼女にしてしまいました・・・。
そもそもこの話を書こうと思った理由は・・・。
OVAで、ヴェストパーレ男爵夫人が「ヒルダ嬢ちゃん」と声をかけていたのが気になっていたのです。
学校に通っている彼女、ラフなズボン姿だし、他の貴族の令嬢とはやっぱり違うので、スカート嫌いとしてみました。
卒業したら大学に行くのか?と男爵夫人が聞いているので、通っているのは高校なんでしょうね。
でも、OVA・・・妊娠してから後のヒルダは髪の毛が伸びるし、シッカリとドレス姿だし・・・変わり方が著しいんだけどねぇ・・・。
まぁ、基本的には動きづらいスカートはキライでしょう、彼女は。
あ・・・と。
クラリスというのはマリーンドルフ伯爵夫人・・・亡くなったヒルダの母という設定で、私が勝手に名付けました。
ファイネル男爵だの、ヴァーレン子爵と言うのもオリジナルです。
因みに、彼女の母親が古典音楽の教師云々とあるのは、原作の外伝3巻にちゃんと記述がありますので、この部分についてだけは嘘じゃないです・・・。
オペラ歌手だったっていうのは私の設定ですが、この設定は100のお題の別の話でもちゃんと使ってます。
大恋愛だったそうですよ・・・マリーンドルフ伯。(私の設定ですが)
改めて思いましたが、カストロプ公って、アニメではなんであんな衣装なんでしょうかね?
まぁ、コミックスではもっと凄くて、裸の少女に鎖を付けて弄ぶロリコンの変態野郎だったしなぁ・・・。
あぁ、あの人と、マリーンドル伯が親戚なんて、とても信じられませんです・・・。
そして、マリーンドルフ伯の声が中村正さんで、とっても嬉しいです。
中村さんも2010年で81歳・・・。(現在80歳です)
グリーのCMでお声を聞く度に嬉しくなってしまいます。
いつまでもお元気でいて頂きたいモノです・・・。